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最悪の魔女スズランAfter 幸せはまたやって来る  作者: 秋谷イル
13.Life has its ups and downs(下り)
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ホウキ試し

 七王の一人として負わなければならない責任に思いを馳せ、しばし憂鬱な気分になったスズランだったが、弟子達が今か今かと期待の眼差しを向けて来ることに気が付き、一旦忘れることにした。

「それじゃあ準備しましょうか。二人とも魔素吸収変換装置を外して」

「えっ?」

「どうして?」

「どうせここでは使えないわ」

 馬から降りつつ説明する。さっき語った通り魔法使いの森の木々は魔素を吸収し続けている。つまり、ここは世界で最も空気中の魔素が薄い場所でもある。

 その代わり魔力が濃い。ここでなら──

「外して欲しいのは、ずっとそれを付けてもらっていた成果を確かめたいから」

「あっ」

「そうか、出力上限!」

 思い出し、装置を手首から外す弟子達。

 そしてそれぞれ短く呪文を唱えた。

 光の球が生まれる。

「わっ……」

「やった!」

「うんうん」

 予想通り。まだ九歳と十一歳の二人は一年八ヶ月装置を身に着けていたことで出力上限が上がった。今なら装置無しでも魔法を使える。

「正直言ってギリギリだけど、ホウキ試しはできるでしょう」

「ホウキだめし?」

「正しくは試される側なんだけどね、何故か昔からそう言うの。魔力を指先に集中させてみなさい」

「こう?」

 器用なヒルガオはすぐにコツを掴み、言われた通り指先に魔力を集め、その指を掲げてみせた。

 すると泉の上で飛び交っていたホウキのうち何本かが彼女に寄って来る。

「わっ!?」

 魔力の集中する指先を柄の先端でつつくホウキ達。驚くヒルガオの頭上で、そのうちの一本だけが今度は穂の部分で指先を包みバサバサと音を立てる。

「な、なに!? 何をしてるの!?」

「自分好みの魔力かどうか確かめてるのよ。それにしても最初から第二段階なんて驚いたわね」

 これは期待できる。そしてその期待通りホウキは地面に降り立ち、自ら柄の部分をヒルガオに向けて差し出した。流石のスズランも驚きから手を打つ。

「おめでとう! こんなに短時間で相性の良いホウキが見つかるとは思わなかったわ!」

「え? もう? もう終わったの!?」

「そうよ、これでその子はヒルガオちゃんのパートナー。可愛がってあげてね」

「や、やった!」

 喜び勇んで柄を掴み、ホウキと共に踊り出す少女。弟子の嬉しそうな姿にスズランの顔も綻んだ。

 だが──

「む、むむう……」

 魔力制御に難のあるノイチゴは、最初の段階で苦戦していた。

「指先に……」

「ノイチゴちゃん、焦らなくていいわ。ゆっくり、でも確実に魔力の流れをコントロールするの」

「うん……」

 こちらは時間がかかりそうだ。魔力を一点集中させることさえできれば後は運次第なのだけれど。

 ある程度強い魔力があれば、こんな作業は必要無い。しかしヒルガオもノイチゴもギリギリの出力量なので、こうでもしないとホウキ達を引き寄せられないのである。

「チェッ、やっぱりアタシはだめか」

 いつの間にかアサガオも試していた。彼女は魔素吸収変換装置を身に着けたまま。だが、ここでは魔素が薄すぎてほとんど機能していない。指先に魔力を集中させてもホウキ達は寄って来なかった。

(姉妹だけあって魔力制御はヒルガオちゃん同様、器用なんだけどね……)

 すでに十四歳の彼女は装置を身に着けていても出力上限が上がらなかった。魔素の濃い場所で試せれば別かもしれないが、野生のホウキはこの森の中にしかいない。

 もちろん自分(マリア)の力を使えばいくらでも融通は効かせてあげられるのだが、彼女の性格から鑑みるに、そういう贔屓(ズル)は好まないだろう。

 しばらく経ち、ついにノイチゴが「できた!」と叫んで指を掲げた。その指先に何本かホウキが群がって来る。

 スズラン達は期待の眼差しでその光景を見守った。




「はは、すっかり日が暮れてしまいましたね」

「あんなに時間がかかるとは」

 結局、ノイチゴが相性の良いホウキと出会うまで三時間ほどかかった。

「運の問題だから、こればかりは仕方ないわ」

 日が落ちてしまったため魔法で灯りを生み出すスズラン。ノイチゴとヒルガオも同様に光を宙に浮かべたものの、いつもより小さい。

「そーちなしだと、まだこんなもんか」

「もうしばらくは二人とも伸び続けるわよ。ノイチゴちゃんは九歳だから特にね」

「いいなー。わたしも、もっと早くからそーちをつけてれば良かった」

「自力で魔法を使えるだけいいだろ」

 装置無しだとほんのり指先を光らせるのが限界だったアサガオは、憤慨しつつ妹の頭を小突く。

「姉ちゃんはすぐ手が出る……」

「なにおう?」

「二人ともやめて」

「それで、これからどうするのですか?」

 ユリに問われ、スズランは弟子達を見つめる。

「あの子達に聞いてください。ホウキを入手した以上、ここからはまた言い出しっぺ二人に舵取りを任せます」

「あ、そうか、わたしたちが決めるんだった」

「忘れてたね」

「しっかりしろよ、お前ら」

「するってば」

 アサガオに言い返し、ひそひそ話で議論を始める二人。やがて意見がまとまったらしく、一緒に振り返って要望を述べた。


「「ミヤギに行きたい!」」


 意外な言葉に、スズランのみならず他の三人も目を瞬かせる。

「なんでミヤギ?」

「いいの? この森を経由したらすぐにタキアヘ帰ることもできるのよ?」

 おそらく気付いているだろうが、確認のために問いかける。時空が歪んでいる魔法使いの森。その歪みに干渉できる管理者の自分に頼めば、森に面するどの国にだって短時間で移動できる。ここへ連れて来たのには、それを教える意図もあった。

 けれど二人は首を横に振る。

「だって、この間はすぐにミヤギを通りすぎちゃったし」

「せっかくユリさんがいっしょなんだから、いろいろ教えてもらいたいよ」

「おお、そういうことならこのユリ、いくらでも案内いたします!」

 喜ぶミヤギ王。なるほど、ならば良しとスズランも同意する。子供達が学習意欲を示すのは彼女としても嬉しい話。

「モモハルとアサガオちゃんも、それでいい?」

「いいよ〜。センダイも久しぶりに見てみたいしね」

「そういえばアサガオちゃんたち、ミヤギ出身だったね」

「そうなのですか?」

 ユリに問われたアサガオは頭の後ろで手を組み、うんと頷く。

「シライシ出身。三年前に父さんの実家があるココノ村へ引っ越したんだ」

「そうだったのですか、ならばアサガオ殿とヒルガオ殿にとっては里帰りでもありますね。王として歓迎いたしましょう」

「あ、ユリさん。盛大な歓待とかはいりませんよ? あくまで私達は普通の旅人なんですからね」

「承知しました」

 良かった。ちゃんと言っておかないと彼女のことだ、国賓としてもてなされてしまったかもしれない。彼女の親戚に当たるイマリ王ルドベキアにもそういうところがあった。昔、ロウバイに招待されてイマリへ行った時、下船した港からとんでもない待遇で迎えられたことを思い出す。

 そんな会話の最中にもノイチゴとヒルガオは地図を取り出し、森から近いミヤギ国内の都市を探していた。言われずとも自分達で考えて行動に移すところは、いかにもロウバイやスズランの教え子らしい。

「このアオバがいいんじゃないかな? 森のちょこっと飛び出した部分が街のすぐ近くにある」

「たしかに」

 後ろから覗き込みユリも同意。

「アオバは我が城のあるセンダイにも近い都市です、ちょうどいい条件かと」

「ほんとだ、馬なら半日くらいでつきそう」

「スズねえ、決まったよ」

「了解」

 早速馬に乗るスズラン。手を貸し、アサガオも後ろに乗せた。他の四人もそれぞれ騎乗したことを確かめ、森全体を包む惑わしの結界に干渉する。

「さあ、行きましょう」

 そう言って馬首をめぐらせた方向には、さっきまで無かったはずの街の灯りが、木々の合間で輝いていた。

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