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最悪の魔女スズランAfter 幸せはまたやって来る  作者: 秋谷イル
13.Life has its ups and downs(下り)
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魔法使いの森へ

 山賊達を連行し麓の街で衛兵隊に引き渡した一行は、いくばくかの報奨金を受け取った。なんでも数名の傭兵くずれを中心に結成されたばかりの山賊団だったそうで、まだ大きな被害は出ておらず懸賞金もかかっていなかった。そのため十数名の犯罪者を捕えた割には安い報酬だったのである。

 まあ、帰りの旅費としては十分な額だ。スズランはホクホク顔。

「これでユリさんのお財布やムスカリさんからいただいたお金に頼る必要は無くなりましたね」

「別に構いませんのに。タキアまでの旅費くらい私が賄いますよ」

「もちろんご厚意はありがたいのですが、今回の旅ではなるべく自分達の力で問題を解決していきたいと思っていまして……」

 それに三柱教に寄進されたお金やミヤギの民が払った税金で必要以上に快適な旅をするのは、やはり気が咎める。


 その日の宿も普通の安宿へ泊まり、普通の食事をして、翌日普通に街を出た。それからさらに一日かけてグンマの西の国境まで移動した一行は出発して四日目の昼過ぎ、ついに魔法使いの森東部へ到着する。


「おお……」

「うわあ、すっご……」

 ノイチゴとヒルガオ、そしてアサガオは立ち並ぶ木々を見上げて驚く。村のシンボルとなったモミジほどではないものの、どれも樹齢百年以上ありそうな大木ばかり。

「ここが魔法使いの森かあ」

 タキアも一応この森の北部に面しているのだが、ここまで近付いてみたのは彼女達にとって初めての経験。魔法使いというのは一般人から見ると恐ろしい存在でもあり、その名を関するこの森も敬遠されがちなのだ。

 ちなみに森の中心部、聖域と呼ばれる場所へなら行ったことがある。けれど、あの時は生きるか死ぬかのギリギリの状況で空から突入した上、出る時もモモハルの力で北の大陸まで転移したものだから、全く魔法使いの森にいたという実感が無い。

「でも、なんか、こう……なんだろ? どっか変じゃない、この森?」

「あっ、私わかった」

 首を傾げたアサガオのすぐ横でぽんと手を打つノイチゴ。鋭い観察眼で違和感の正体を看破する。

「きれいすぎるんだよ。ふつうの森とちがって、木がきれいにせいれつしてる」

「あっ」

「ほんとだ」

 アサガオとヒルガオもようやく理解した。目の前に広がる森は不自然に木と木の間隔が揃っている。アサガオは祖父の愛する盆栽の鉢植えを思い出した。あれらが並べられた姿と目の前の光景に類似を見出す。

「いいところに気が付いたわね」

 感心するスズラン。まさにその通りで、この森は管理者によって全体がそのように整備されている。

「この世界には魔素が存在する、というのは以前にも教えたわね」

「うん」

「このそーちで魔力にへんかんしてるやつのことでしょ?」

 それぞれ左手を持ち上げるノイチゴとヒルガオ。アサガオの手首にも嵌っているそれは魔素吸収変換装置。空気中に漂う魔素と呼ばれる物質を取り込み、魔力を抽出する魔道具。本来魔法使いになれるだけの魔力を持たない彼女達が魔法を使えるのは、この装置があるおかげ。

「ここの木々はね、それと同じ。魔素を吸って魔力に変換する役割を担っているの」

「そうなの?」

「ええ、先代の管理者だったアイビー様はそうして魔素の脅威から千年近い時間、我等を守って下さっていたのですよ」

 懐かしむように目を細めるユリ。彼女も魔素の真実について知ったのはたったの三年と半年前。だが、あれ以来アイビーに対する敬意はより深くなったし、感謝の念を絶やしたことも無い。あの小さくて偉大な魔女がいなければ過去の歴史も今日の自分達も存在しえなかった。

「木々の間隔を開けてあるのは生育を早めるため、そして森の環境を健全に保つためでもある。枝葉が密集していると地面に陽が当たらないでしょう? そういう森では土壌の質が悪くなってしまうの。栄養が不足して、あるいは逆に多すぎて木にもそこで暮らす生き物にも悪影響を与える。だから村でも木こりのユウゼンおじいちゃん達が間伐──木々が密集してしまった場所で適度に間引いて手入れしているでしょう?」

「あ~」

「あれって、そういうことだったんだ」

「ふふ、帰ったら実際に森を歩いて勉強してみましょうか。でも、とりあえずはホウキの群生地ね」

 捕獲は簡単だが、すぐに手懐けられるかどうかは運次第。ホウキは生物なのでキバナのようにそれぞれ好みがあり、気に入らない人間には主と定めた者の命令が無い限り絶対に力を貸してくれない。だから場合によっては時間がかかる。

 ともあれ、どのみちやってみなければわからないことだ。元々この森の住人だったスズランは馬を操り、アサガオと共に気負うことなく入って行く。木々の間隔が広い上、地面も下草ではなくフカフカとした苔に覆われており、石畳で整備された街並みよりなお歩きやすい。これもかつてのアイビーが努力した成果。

「さて、覚悟はできていますか?」

「うん」

 よく度胸を褒められるだけあって、ノイチゴもユリと共に平然と中へ進んだ。妹が先に言ったのを確かめ、モモハルは緊張で震えているヒルガオの手に自分の手を重ねる。

「大丈夫だから。ヒルガオちゃんだって前に入ったことあるでしょ」

「あ、そっか……聖域ってこの森の中心だっけ」

「そうそう、だから心配しなくていいよ。僕たちもついてるしね」

 頷いて馬を進めるモモハル。やがて、そんな彼を見上げてヒルガオはにっこり、けれど少しだけ意地悪く微笑む。

「モモ兄、あんまりやさしくすると、わたしほれちゃうかもよ?」

「僕はスズランが好きだから、ごめんね」

「あっさりふらないで」

 まあ本気じゃないんだけど。彼がスズランに一途なのは知っているし、スズランも本当は……。

(なにより二人とも神子だもん。わたしの相手はそこまですごくなくたっていいの。顔が良くてお金もちで、やさしくて浮気しない人ならおっけー)

 密かに、十分大きな野望を抱いているヒルガオだった。




「スズねえ、その“ぐんせいち”って遠いの?」

 ここはもう魔法使いの森の中。周囲に人目も無いし、いつも通りでいいだろうと本名で呼びかけるノイチゴ。

 前を行くスズランは振り返って頷く。

「そうね、普通に移動してたらあと一日かかる程度には遠いわ」

「えー!? じゃあ今日は森の中で野宿!?」

 すぐ後ろで不満の声を漏らすアサガオ。スズランは「大丈夫大丈夫」と笑う。

「心配しなくても、すぐに着くわ」

「え?」

 どういう意味かと首を傾げた時、いきなり目の前が拓けた。

「はあっ!?」

「な、なんと……たしかにずっと先まで森が続いていたはずなのに」

 唐突に出現した泉。その上を無数のホウキが飛び交っている。どうやら本当に目的地へ辿り着いたらしい。

「この森は盾神(じゅんしん)テムガミルズの力で時空を歪められている。森の住人が招けば、招かれた人間はすぐにでも目的地へ辿り着ける。逆に招かれざる客はしばらく彷徨うことになるわ。だから森に知り合いがいない限り、勝手に入って行っては駄目よ?」

 釘を刺しておくとノイチゴ達は冷や汗を垂らしコクコク頷いた。まあ、ホウキに乗れる魔法使いなら迷っても飛んで脱出することは可能だ。実際のところそんなに恐れる必要は無い。

「なるほど、話には聞いておりましたが、これが惑わしの結界というやつですね。あの戦いの時、避難民達がすぐに聖地まで来られたのもこの力のおかげだとか」

 世界の命運をかけた一戦を思い出し、納得するユリ。

 だが、すぐに別の疑念を抱く。

「はて? しかしアイビー様は記憶と共に神子としての力を失い、今は普通のお子として生活なさっておいでのはず。この結界や森全体の管理はテムガミルズ様が?」

「いえ」

 スズランは頭を振った。たしかに時空を歪めているのは彼の力だが、この世界には他にも数え切れないほど有人惑星が存在しており、それぞれにここと同じ森がある。その全ての管理を彼にさせるのはスペック的に難しい。

 他の星では“アイビー”が無事なところも多い。けれどこの星の彼女は今しがたユリが語った通りの境遇。しかもテムガミルズは、そんな彼女を見守るため子犬のテムを新たな神子に選んだ。


 というわけで、


「今の管理者は私です」

「スズねえが!?」

「てことはスズちゃん、二代目の“森妃(しんぴ)の魔女”なわけ?」

 かつてのアイビーの二つ名を出すアサガオ。いいえ、それはないわとスズランは苦笑を浮かべる。

「その名はアイビー社長以外、誰にも名乗る権利は無い。それに私は、あくまで一時的な代理。いつかテムガミルズが相応しい神子を見つけたら交代するつもり」

「へえ……」

「ですが、そうなるとスズラン様は当面、七王の一人にも数えられるわけですね?」

「七王!?」

 またしても驚く子供達。聖地を含む魔法使いの森全体は七大国の一角と見なされており、そこを自分が管理しているわけだから、たしかにそうなってしまう。


 今度はため息をつく彼女。


「そうなんですよね……七王会議が開催されないことを祈ります」

 雑貨屋の看板娘に教師に神子。さらには七王。どんどん増えていく肩書きのせいで仕事も増える一方だ。

 この上、めんどくさい政治の話なんてしたくない。

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