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最悪の魔女スズランAfter 幸せはまたやって来る  作者: 秋谷イル
11.Life has its ups and downs(上り)
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親切の謎

「今日はここで野宿?」

「やっぱり宿代くらいは稼いで来たら良かったのに」

 一日馬車で走り通した後、夜遅く辿り着いた駅でベンチに腰かけ、身を寄せ合いながら毛布に包まるスズラン達。綺麗好きのアサガオはせめて風呂に入れたらなとぶーたれる。

 妹のヒルガオはぶるっと震えた。

「さ、寒い。こんなとこで野宿したら死んじゃう……」

『大丈夫、私が結界を張るわ』

 冷気を遮断して内部に熱源を発生させればすぐ暖かくなる。スズランはカバンから四方に配置するための呪物を取り出した。

 すると──

「なんだお前ら、こんなところで何をしてる?」

「浮浪児……という感じじゃないな」

 ミヤギの警察組織にあたる町奉行所の同心達が巡回して来てとっくに今日の運行時間が終わっている駅のベンチを占拠した不審な一行の姿を見咎める。

「着ぐるみが二人に、旅人風の格好の子供がさらに三人」

「お前達、旅行者か?」

 この中では一番年長と見えるアサガオに問う同心達。彼女が自分達はシブヤに向かっている最中で宿代が無いから今夜はここで野宿するつもりですと説明すると、彼等は勝手に何かを誤解した。

「子供だけで巡礼の旅とは大変だな」

「えっ?」

「たしか北の方に、そういう習わしの残っている村があると聞いたぞ。ある程度の年頃になったらシブヤまで子供達だけで旅をして、それで初めて成人と認められるんだそうだ」

「お前達、生まれは?」

「私と妹はミヤギだけど、今はタキアに住んでて、こっちの三人はタキア出身」

「おおっ」

 五人を巡礼者だと思った同心達はさらに勘違いを重ねた。

「タキアと言えばスズラン様とモモハル様がお住まいの国だ」

「やはり信仰心に篤い人々が暮らしているのだな」

「よし、そういうことなら、いや、そうでなくとも子供に野宿などさせられんな。ついて来なさい、今夜は奉行所に泊めてあげよう」

「いいの!?」

「もちろんだ。しかも君と妹さんはミヤギ出身と自分で言ったばかりじゃないか。同郷の出が困っているのを見捨てられるか」


 ──というわけで、奉行所に一晩泊まらせてもらった。


「船に乗るためケセンヌマまで行くらしいな。あそこの町奉行は私の友人だ。手紙をしたためておいたから現地の奉行所の者に見せるといい。助けになってくれる」

 翌朝、町奉行その人が昨夜の同心達と共に駅まで見送りに来てくれた。そのついでにと差し出された手紙を受け取り、スズランは深く感謝する。

『ありがとうございます。いつか、このご恩はお返しいたします』

「子供がそのようなことを気にする必要は無い。達者でな着ぐるみ娘。他の皆も道中気を付けるのだぞ」

「機会があったらまたおいで。次は遊びにでも。ここも良いところなんだぞ」

「元気でな」

「はい!」

 馬車の中から笑顔で手を振り返すヒルガオ。馬が歩き出し、奉行所の三人の姿が次第に遠ざかって行く。サンザシの時もそうだったが、良い出会いの後の別れは切ない。

「いい人たちだったね」

『そうね。出会いと別れも旅の醍醐味』

『だね』

 嬉しそうなノイチゴの左右で、スズランとモモハルも同時に笑みを浮かべた。




 深夜、一行はへとへとになりながらもケセンヌマに到着する。

「つ、つかれた……」

「地図で見ると近かったのに……」

 実は切符代が足りず山一つ向こうの小さな村で馬車を降りたのだ。そこから徒歩で移動して来たものの予想以上に道が険しく時間がかかってしまった。

『私も、ホウキに頼ってばかりでは駄目ね……』

 日々の農作業や家業の手伝いでそれなりに体力にも自信のあったスズランは、そのささやかなプライドを打ち砕かれた。ピンピンしているのはモモハルだけ。

『大丈夫? 背負おうか?』

「お、おにいちゃん……妹をしんぱいしてよ……」

「イヌにい~、わたし、おんぶう~……」

「ア、アタシも……」

『うわあっ!?』

 ヒルガオとアサガオの姉妹にしがみつかれうろたえるモモハル。彼等がわちゃわちゃと騒いでる間にスズランは呼吸を整え、やむなしとクマちゃんハンドで全員の背中に触れて回る。

「あれ?」

「おっ!」

「んん!」

「きくうっ」

 スズランの手から放射された橙の光。それが四人の疲れを吹き飛ばした。生命の有色者の能力。少しばかり反則気味だが、もう少し歩かなければならないので特別サービス。

『さあ、奉行所へ行こう。手紙を見せて泊まらせてもらわなきゃ。明日はもっと大変かもしれないしね』




 翌朝、深夜に訪れたにも関わらず快く一泊させてくれた町奉行所。その一室へ招かれて赴くと、膳の並んだ畳敷きの部屋に鮮やかな翠髪の女性が座っていた。ミヤギでは日常的に着られているニホン様式の色鮮やかな着物。それに負けないだけの美貌の持ち主。

 にっこりと微笑み、並んだお膳を手で示す。

「彼の紹介で訪れた客人とは君達ですね。なるほど若い。私がここケセンヌマの町奉行を務めるユッカです。さあ、座ってお食べなさい。我が国の食事はタキアにも劣らぬはず」

 紹介の手紙を書いてくれたあの奉行の友人というだけあり、こちらも温厚で世話好きの女性だった。年齢はわからないが、それなりに老成した雰囲気を感じる。

 歳が判然としないのは彼女が魔女だからだ。年齢固定化処置を受けているようで外見は二十代半ばのそれ。なかなか強い魔力を有している。東北最大の漁港の治安を守る番人に相応しい実力者らしい。


 ──後に知ったことだが、見立て通りの強者で“不逃(にがさず)の魔女”の二つ名持ちだそうだ。


「早朝、出勤して来てすぐに話を聞かされた時には驚きましたが、なるほど、子供だけで旅をしているというのも頷ける」

 と、彼女は着ぐるみの二人を意味深に見つめる。それから傍で控えていた部下に退室を命じ、しばらくここには誰も近付けるなと厳命してから自らの手で障子戸を閉めた。

 戻って来て座り直すなり、再び二人を見る。その表情はいっそう柔らかい。

「それを身に着けていてはお食事がしにくいでしょう。どうぞ外しておくつろぎください、スズラン様、モモハル様」

『見抜かれましたか』

 誤魔化しても意味は無さそうだ。そう観念したスズランは素直に着ぐるみの頭部を外す。モモハルも続いて脱いで、それぞれを自分の後ろに置いた。

 艶然と首肯するユッカ。

「この身は感知能力に長けておりまして。あの戦いの時、お二人の姿は北の大陸で幾度かお見掛けいたしました。空が割れた時、私は北の砦に」

「なるほど」

 魔力波形による個人の識別。クルクマと同じ才能を持っているのだろう。

「手紙には巡礼とありましたが、実際には月二回の一般参賀に向かわれるのでは?」

「ええ、それと弟子達の社会勉強を兼ねて」

「なんと」

 スズランの言葉を聞き、驚きながら残り三人を見つめるユッカ。心の底から「うらやましい」と呟く。

「スズラン様から直に教えを授かれるとは、知れば世界中の魔道士が嫉妬いたしましょう。私も弟子入りしたいものです」

「いや、アタシは弟子じゃなくて友達です」

 アサガオが手を挙げて訂正すると、今度は大声で笑った。

「ハハハ! それは世界中の三柱教徒に羨望されるでしょう。私もココノ村へ移住したくなってまいりました」




「では、気を付けて行きなさい」

『はい、色々ありがとうございました』

 人目があるので目上の者として接しつつ、スズラン達を送り出してくれるユッカ。彼女と奉行所の人々に向かって手を振り、やがて姿が見えなくなった頃、改めてケセンヌマの街を見聞する。

「サカタより大きくて広いね」

「人もさらに多いなあ」

 ミヤギ南部の生まれだというアサガオ達もこの街へは来たことが無かったらしい。驚きながら周囲を見回す。どこもかしこも人だらけ。単純な港町でなく観光地としても栄えているらしい。

 奉行所は街の中心部に近く、ほどなくして最も人通りの多い大通りに合流した。道路は全て舗装されており、端には歩行者のための歩道まである。ひっきりなしに荷馬車が行き交い、歩道は人波で埋まっていた。

「すご……前に住んでたシライシよりずっと栄えてる」

『これだけ人が多いとシブヤを思い出すね』

「そうだね」

 スズランと兄は頻繁に戻っているけれど、ノイチゴは一昨年のあの戦いの直前、ボンの墓参りのため離れて以来だ。可愛がってくれていた僧侶達やシブヤを国内に擁するトキオ王国のハナズ王を思い出し、懐かしむ。

「でも、まだシブヤへいけるかはわかんないよ。まずは船をさがさないと」

「だね」

 ヒルガオの言葉に姉のアサガオも同意し、一行は賑やかな大通りを素通りした。そして奉行所で教えてもらった通りの道順を辿り、港へと入る。

 ユッカはスズラン達の目的を聞いても自分が口利きしようなどとは言わなかった。弟子達の成長のため、なるべく自力で成し遂げさせたいという想いを汲み取ってくれたのだと思う。


 ところが──


「なるほど、そういうことなら臨時で雇ってもいい」

 最初に声をかけた貨物船の船長があっさり首を縦に振った。ノイチゴとヒルガオは一瞬困惑して言葉を失った後、やがて抱き合って跳び上がる。

「やった! やっぱり来てよかった!」

「これでシブヤまでいけるね!」

「ありがとうございます」

 喜んでばかりで肝心なことを言い忘れている二人に代わり頭を下げるアサガオ。船長も手を振りながら「いいよ。ただし、仕事はちゃんとしておくれ」と苦笑を浮かべる。

 スズランとモモハルも、もちろん頭を下げて感謝した。

 だが、そのままの姿勢で密談を交わす。

 どうもおかしいと思っていたのだ。ここまで要所要所で親切な人に出会い過ぎではないかと。

『貴方、やったわね……』

『……かもしれない……』

『もう、やらないように』

『はい……』

 モモハルは時折、願望実現能力を発動させていたようだ。ただ、おそらくは無意識でのこと。妹の喜ぶ顔が見たい、努力を無駄にしたくない。そんな想いを強く抱いた結果だと思われる。

『まあ、二人が喜んでるし今回はいいわ』

 背中を叩き、彼と並んで船へ乗り込むスズラン。案内された船室へ荷物を置いて戻って来た後、トキオへ運ぶ荷の積み込み作業を皆で手伝い、二時間後に貨物船は出航した。

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