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最悪の魔女スズランAfter 幸せはまたやって来る  作者: 秋谷イル
11.Life has its ups and downs(上り)
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ルール

 翌朝、船に乗るにせよ陸路を進むにせよ、どのみち旅費は稼がなければならないという結論に到り、まずは日雇いの仕事を探してみることになった。


『僕は、さっきの船乗りのおじさんたちの手伝いをしてくる』


 部屋で朝食を取った後、食器を返却しに訪れた食堂。そこに三人の水夫の姿を見つけたモモハルは早くも仕事にありつく。着ぐるみで顔が隠れているとはいえ、相手は明らかに子供。最初は訝っていた彼等だったが実際に大人でも苦戦するような重い木箱をひょいと持ち上げてみせると、すぐさま契約が成立した。港で荷の積み込みをするそうな。

『意外と上手ね』

 感心するスズラン。船乗り達の一人は腰を痛めていた。モモハルは眼神の加護でそれを見抜いたのだろう。だから彼等を選んで話しかけた。

『まあ、モ……イヌシデは心配いらないわね。力仕事は得意分野だし何かあっても自力で切り抜けられる』

 なにせあの魔素の毒霧の中でさえ生き延びていたのだ。今さら多少の危険程度ではビクともしない。そう結論付ける。信頼されたモモハルもきぐるみの中で得意満面になり胸を張った。

『ふふん』

『私もお金を稼ぐアテはあるんだけど……今回は引率だし、こっちの三人を手伝うことにするわ』

『わかった』

 頷いたモモハルは直後に雇い主の水夫達に呼ばれ宿の外へ出て行く。

 スズランは残りの三人を見つめた。アサガオは何か考えがあるのか、あるいは単に肝が据わっていてどうにでもなると思っているのか余裕の表情。対して年少組の弟子達は不安げな顔。


「お金を……」

「かせぐ……」


 まあ、十一歳と九歳なのだからこれが当たり前の反応。十二歳にして二十九歳でもあるスズランはふっと笑って手を叩く。

『さあ、ここにいても仕方がない。お仕事を探しに行きましょ』




 しかし、いざ探してみると、これがなかなか見つからない。

仮想(あの)世界なら、魔物をやっつければ稼げたのに……」

「だよね……」

 がっくり肩を落とすヒルガオと同意するノイチゴ。朝から昼まであちこちを訪ね歩いてみたものの雇ってくれる職場は一つも無かった。どうやら子供ができるような仕事は地元の子達に独占されているようだ。中には自分達の縄張りを荒らされてなるものかと絡んで来るグループまであった。知らなかったと謝罪したらどうにか引いてもらえたが。

 雇われ仕事を探すのは諦めた方がいい。聞いた話ではあの子達の背後には地元のヤクザ者がついているそうだ。下手につつけば揉め事になる。

『めげないめげない。まだ時間はあるわよ』

 言いつつ、きぐるみの中でおにぎりに齧り付くスズラン。そんな彼女の隣ではアサガオが呆れ顔でパスタをつついている。

「つうか、魔物だって現金なんて落とさねえよ。普通は」

 あの世界はゲームだった。だから獲物を解体して肉や毛皮を売ったり、手配されている魔物を倒し懸賞金を受け取るといった手間を省いていただけの話。狩猟や戦闘行為で生計を立てるつもりなら、現実世界ではそういう苦労も背負わなければならない。

「わかってる」

 ヒルガオだって馬鹿ではない。祖父が一応漁師だし現実ではただ獲物を狩って終わりでないことくらい承知している。さっきのは単なる愚痴。

 そこでふと思い出す。

「そういえば、魔物じゃないけど、このあたりの山のどこかに山賊なら潜んでるって誰か言ってたね」

「うん、ケンショー金がかかってるって話だった」

 互いの顔を見合わせ、それから何かを期待する目をスズランへ向ける少女達。だが当然、却下である。

『だめ。山賊退治がしたいって言うんでしょうけど、そんな危ないことさせられません』

「でも私たち魔法が使えるよ」

『まだ未熟。それに、そういうのは本来この国の兵隊さん達のお仕事なの』

 懸賞金がかかっている以上、誰が討伐しても文句は言われまい。だからといって子供にそれをさせるほど非常識ではない。


 ──まあ、その山賊達にお仕置きが必要なのは事実だ。別に直接手を下さなくてもいい。マリア・ウィンゲイトとして覚醒した自分には、この場からちょっとした不幸をもたらすことも難しくない。

 たとえばそう、全員が謎の腹痛に見舞われて出頭せざるをえなくなるとか。


(龍道くん、要さん、やってくれる?)

【そいつらの腸内細菌を操作してやればいいんですね】

【全員の位置、特定できました】

(お願い)

【はい、そんじゃあほいっと】

【手加減した?】

【死なない程度には】

(ありがとう)

 ほら、これで山賊退治は完了した。しばらくしたら向こうから助けを求めて山を下りて来るだろう。その後はヤマガタの法に則って裁かれる。悪いことをしたらそれ相応の罰を受けるものだ。

 スズランが秘密裏に動いたことは知らず、幼い少女達はたびたび食事の手を止め議論を重ねる。

「イヌにいみたいに荷運び」

「私たちじゃやとってもらえないよ。力もちでもないし」

「魔力しょーへきに乗っけてもらえば、どんな重いものでも運べるんだけどなあ」

「そうだけど、やっぱり見た目で判断されると思うよ。それにまたさっきの子たちに文句を言われるかもだし」

「う〜ん、それもそうか。じゃあ、どうしよう」

「安く買ったものを別のとこで高く売るとか? ほら、ここは海のものがたくさん売られてるから、お魚なんかを山のほうまで持っていけば……」

 山間のココノ村出身らしいノイチゴの発案。

 ヒルガオもそれだと手を打つ。

「いいかも! きっといけるよ!」

(ふむふむ)

 目の付け所は悪くない。けれど、いくつか問題がある。

 スズランもアサガオもそれに気が付いていたが、あえて黙っておいた。妹達は名案だと盛り上がっている。

 楽しそうなので、もうしばらく見守ってみようと決めた。




 様々な品を検討した結果、二人はシンプルに魚の干物をチョイスした。港町ならではの商品で、なおかつ軽く、大量に買ってもさほどかさばらない。それが理由らしい。

 なるべく安く仕入れるため漁港近くの加工所まで出向き、そこにいた漁師へ直接交渉を持ちかける。

 だが──

「駄目だよ」

「ええっ、どうして?」

「お嬢ちゃん達、何事にもルールってものがあるんだ」

 サカタから手近な山村に干物を運んで売った場合、どの程度の利益が出るかなど質問を重ねられたことで彼も少女達の意図を察した。だから交渉に入る前に打ち切り、やんわりと道理を説く。

「まずね、この港から直接仕入れることはできない。許可証を持った仲買人だけがそれを許されている。お嬢ちゃん達はどう見ても正式な仲買人にゃ見えねえな?」

「うっ……」

「そ、そうなんだ……」

「それに、なんとか安く商品を仕入れて、たとえばガンテあたりの海産が重宝される地域に持って行ったってよ、向こうで商売をするにも現地の組合の許可がいるんだ。よそ者に無断で商いをされると地元の人間が迷惑を被る場合もあるからな。

 真っ当な取引だけならまだしも、中には法律で禁止されている物を売る輩や二束三文の品を法外な値段で売りつける詐欺師なんてのもいる。そういう輩に好き勝手させないため色んな決まりごとが作られた。面倒だけど必要なことなんだよ」

「なるほど……」

 丁寧に説明してもらい納得した二人は転売で儲ける考えを捨てた。もちろん各地で許可を取れば商売をすることは可能。しかし、そのための申請にも数日かかってしまうらしい。シブヤでの一般参賀に間に合わせることが目標の一つである以上、諦めるしかない。


 ついでに言うと魚の干物程度ではそれほど大きな儲けは出ないようだ。馬車でも借りて大量に運ぶなら話は別だが。


 ──再び考え事をするため、港の端まで移動する四人。ヒルガオは早速スズランへ恨みがましい視線を向ける。

「ス……クマねえ、知ってたでしょ?」

『商人の娘だもの』

 タキアにも同様の制度がある。ホウキギ子爵が生産者や真っ当な商人の利益を守るため積極的に法改正を提案しており、今ではヤマガタやガンテのそれより厳格だとも言われている。

「そういやクルクマさんは世界中回って商売してんだよね? あれはどうしてんの?」

 いちいち行く先々で組合に申請を出しているとは思えない。アサガオの質問に対しスズランは「三柱教のおかげ」と答えた。

『彼等は各地の商業組合の取りまとめ役もしているの。だから各国の都にある大きな教会で審査を受けて合格すれば加盟国全てで使える共通商業許可証を貰える。彼等の運営する同盟に非加盟の国もあるんだけれど、そういう国では毎年一定額の上納金を収めることで商業許可を維持できるって聞いたわ』

「あ、じゃあ私達も教会で審査を受ければ」

『そうね。でも審査には最低でも半年かかるって話よ。立身出世を夢見て許可証を貰いに来る商人は多いもの』

 クルクマも共通許可証の取得にはかなり苦労したらしい。なにせ師匠があのゲッケイだ。それだけでもかなり印象が悪い。裏の顔はともかく、表では真っ当な商売だけ行っていたことが決め手となり、なんとか審査に合格できたそうな。

『発想は悪くなかったけど、下調べが甘かったわね』

 最初から商いをして稼ぎつつ旅をするつもりなら、タキア国内でも事前に審査を受けることができた。共通許可証の取得に年齢制限は無いのだ。彼女達のことをよく知る司祭様に一筆したためてもらえば合格の一助にもなっただろう。

「えっと、クマねえから三柱教のえらい人たちにたのんでもらうって手は……」

『ズルはいけません』

 実際、神子の権限を駆使すればすぐに許可証は発行される。それどころか無許可で商売したって誰にも文句は言われまい。神子を裁ける法律など無いのだから。

 しかし、そんな裏技を覚えさせては教育に悪い。スズランは断固として拒否する。

 ヒルガオ達も本気で提案したわけではなかった。とにかく商売で稼ぐのが無理だと理解した以上、また他の手段を模索する必要がある。

 でも他に何も思いつかない。どうしたものかと首を捻っていたら突然、横合いから声が上がった。

「オジキ! あいつらだよ、オレらのシマを荒そうとしてんのは!!」

「ほ~う、お嬢ちゃん達、どこのもんだ? 困るなあ、ここらで働き口を探すならオレを通してくれないとよ」


 ヤンチャそうな少年とガラの悪い大男が現れた。

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