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カゴシマ王の恋

「おうい! ココノ村の衆! 久しいのう!!」

 昼下がり突然轟く大音声。驚いた鳥達が空へ飛び立ち、犬は吠え、家畜達も一斉に鳴き出す。

「ぎゃあーっ!?」

「な、なんじゃ今の声は!」

「あ、待ってスズ!」

「おーしーずーかーにぃ!」

 スズランは魔力障壁による飛行で自宅の玄関口からかっ飛んで行き注意した。村の南口に姿を現した偉丈夫は「カッカッカッ!」と快活に笑う。

「おんしゃあ、相も変わらず元気じゃのう! この世ば作った女神ちゅうことは、一番のおばばなんじゃろ、無理はいかんぞ無理は!」

「今の私は十一歳です!」

 日焼けした褐色の肌。短く刈った黒髪。腹を空かせた肉食獣のように獰猛な光を湛える鋭い眼差し。背は村一番の長身を誇るサザンカと同じくらいで膂力は村一番の怪力と言われるツゲさんに匹敵。

 強さが全て。そんな戦闘狂ばかり生まれる南の大国カゴシマの王。それが彼、ミツマタという男。

「大陸七大国の王ともあろう方が急に来ないでください。事前に連絡できるでしょう」

「まあなあ、手紙は出したんじゃが待ち切れなくなってしもうた。その様子だと、やはりまだ届いとらんようじゃの」

「手紙って、いつ出したんです?」

「おとついじゃ」

「届く訳ないでしょう!?」

 ここは大陸の反対側だ。いや、待て、それより──スズランは叫んでしまってから眉をひそめる。

「どうやって二日でここまで?」

「そんなもん魔法に決まっちょろう。カゴシマは魔法使いも腕利きを揃えちょる!」

 ミツマタいわく数名のお抱え魔道士に全力で飛行させて彼等のホウキを乗り継いできたらしい。

「ほれ、あそこでへばっとるのがうちの魔法使い共の頭領じゃ」

「はぁ……はぁ……はぁ……」

「大丈夫ですか!? 」

 よく見れば木に寄りかかって荒い息をつく魔道士がいた。慌てて駆け寄り生命の有色者の力で回復させてやる。

「あ、ありがとうございます」

「もうしばらくは安静に。今から宿に案内しますので」

「おお、モモハル達がやっとる噂の宿屋じゃな! ようし、ほいなら今日はそこで寝るとするかあ!」

「案内するって言ってるんだから勝手に先に行かないでください!」




「たのもう!」

「いらっしゃーい、ミツマタさん」

「なんじゃ予知したのか。驚かんとはつまらん奴め」

「さっきの声が聴こえたんだよ」

 厨房から苦笑を返すモモハル。彼とミツマタはメイジ大聖堂で暮らしていた頃、よく剣の稽古で手合わせしていた。おかげで対応も慣れたものだ。

「モモハル、お茶もらうわよ」

「いいよー」

 一応許可を取ってから勝手知ったる我が家のようにお茶を淹れ、テーブルについた二人の元へ運ぶスズラン。それを見たカゴシマ王はまたしてもカラカラと笑う。

「カカカ! もはや夫婦のようじゃなかか! 女将も板についとるぞ!」

「お茶を出しただけです!」

 言い返しつつもカップはそっと置いた。魔道士の男の方へ振り返り、こちらには笑顔を見せる。

「お疲れさまでした。大変ですね、この人が王様だと」

「慣れとります。無理無茶無謀はカゴシマもんならいつものことです」

「その割にはへばっとったがのう!」

「ははは……」

 背中をバンバン叩かれ空笑いする魔道士。道中で置いてこられた他の魔道士達も今頃は同じような表情でカゴシマへ戻っているのだろう。ミツマタとはそういう王だ。無茶苦茶なのに妙に憎めない。

「ミツマタさん達、何か食べる〜?」

「おいはまだ腹ば減っとらん。お前はどうじゃ?」

「空いとります」

「しからば好きなもんを頼め。おいのおごりじゃ、ばんばん食え」

「押忍!」

 スズランが差し出したメニューを眺め始める魔道士。

 従者が悩む間、ミツマタは十一歳の二人に訊ねる。

「親御さん達はどうした?」

「うちの両親は店にいますよ」

「なら後で挨拶に行かんとな。ついでに茶をもらおう」

「今、飲んでるでしょうに」

「買っていくという意味じゃ。産地で買ったらより美味い気がするじゃろ」

「そういうものですか?」

 まあ、売り上げになるなら歓迎だ。スズランは機嫌を直す。

 モモハルは大鍋を一定間隔でかき混ぜながら答えた。

「うちの親は二人で湖まで遊びに行ったよ。本当なら今日は、お休みの日なんだ」

「ん? なら、なんで店を開けとる?」

「貴方が来るからでしょう」

「なんじゃ、結局予知しとったのか」

「来ることだけは見えてました」

 だからさっき、すぐに出迎えたのだ。

 直後、従者が決断を下す。

「ううむ、やはりここは噂のカウレで!」

「かしこまりました」

「はい、カウレ」

 注文を受けてからすぐカウンターの上に皿を置くモモハル。ミツマタと魔道士はぎょっとする。

 スズランが運んで来たそれを、彼等はさらにまじまじと見つめた。

「出来上がっとりますな」

「えらく早かったな」

「カウレは前日に大鍋一杯作っておきます。お皿にごはんをよそって、その上にとろみのついたスープかけるだけですから提供が早いんですよ」

「おお……」

「なるほどのう」

 説明を受け、感心する二人。同時にスズランの中のマリアも改めて感動した。

(教えたわけでもないのにカレーライスが生まれるなんて……人間って不思議ね)

 考えつつ、とりあえず彼女も椅子に座った。目の前では魔道士が早速一口目を頬張っている。

「こりゃ美味い。あらかじめ作っときゃ手軽に配れるし、これは戦場でもいいかもしれませんな大将」

「じゃのう。兵糧丸や芋がら縄ばかりじゃ士気も下がるしのう」

「本当、寝ても覚めても戦争戦争ですね、貴方達カゴシマ人は」

 一応、自分は平和を願う女神なのだが、その目の前でも堂々と戦のことを語り合う。他の話題が思いつかないのだろう。


 ──と、思ったらそうでもなかった。


「心外な話じゃ、おいは今回、結婚相談に来たというのに」

「は!?」

 驚きすぎて、危うくひっくり返りそうになった。




 あれから全く続報が無いため忘れかけていた。そういえばこの男、スイレンに、つまりロウバイの愛弟子に求婚したのだった。


「諦めてなかったのですね」


 ──そう言いかけて言葉を呑むスズラン。そんなわけないじゃないか。ミツマタの辞書に諦めるなんて言葉は存在しない。この男はやると決めたことは何がなんでもやる。やらないという選択肢も諦めるという選択肢も無い。そもそも思いつけない思考回路の持ち主。それが彼。

 あの大英雄アイビーをしてこう言わしめた男である。彼は可能か不可能かなど全く考えない。だからこそ頼りになると。

「たしか、スイレンさんが強いから結婚したいんでしたか……」

「そうじゃ! あんな強かおなごはそうそうおらん! おまぁかロウバイさんかナスベリかクルクマか、並び立てるとしたらそんなとこじゃろう! あと、あれはなんちゅうたか、元は三柱教の坊主じゃった……あ〜?」

「オトギリ」

「ああ、そうそう、オトギリ。前はベロニカち名乗っとったからなかなか本名の方を覚えられん。あれ以来聖域から出てきよらんそうじゃしな」

「彼女は、しばらくそっとしておいてあげてください」

 本人が納得できない限り出て来ることはないはずだ。

「わかっとる。別に出て来いと言うとるわけではなか。それにな、おいは強けりゃ誰でもいいとも言うとらんぞ」

「そうですの?」

 スズランが意外そうに呟くと、彼もまた心外だと呻く。

「おまんら、揃いも揃っておいをなんじゃと思うとるか」

「戦狂い」

「そりゃ否定せんが、スイレン以外はどれだけ強かろうとも嫁にする気はなか。だいいち強さだけで選ぶならば、まずお前に粉をかけちょる」

「駄目だよ!」

 素早く釘を刺すモモハル。心配しなくても自分だってミツマタと結婚するつもりは無い。落ち着きなさいと手を振って、顔はミツマタに向けたまま問いかける。

「強さだけでなく別の理由もあると」

「いや、強さじゃ。あいつの強さが欲しい。ただし腕っぷしだけの話ではない。そういう話じゃ」

「なるほど……」

 謎かけのような返答ではあったが、すぐに理解できた。つまるところスイレンの武力を培った人間性、目標を見据え研鑽を積み重ねる精神こそが重要だと言いたいのだろう。


 困った。


(そういうことなら別に反対する理由もありません)

 それに、たとえ理由があろうとも人の恋路にとやかく口を出すのは、褒められた行為ではない。愛の無い結婚を強いるつもりなら別だが、わざわざ自分に相談に来たところを見ると、そういう考えも無いのだろう。

 案の定、彼は問いかけて来る。

「のう、スズラン……おんしはマリア・ウィンゲイトの生まれ変わりじゃ。今生でも良い家族に恵まれとる。おんしならわかるんじゃなかか? おいは、どうしたらあやつに好いてもらえるかのう」

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