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異変

 現実へ戻ると時間が経過してしまう。そのため自分達も仮想空間に留まったままネットワークの機能にアクセスし異変の原因を探る雨龍と狐狸林。

「駄目だ、さっぱりわかんねえ。なんであんなところに高レベルモンスターのスノータイガーがポップしたんだ? 設定外の挙動なんてこれまで一度も無かったよな?」

「それだけやない、さっきから同じことが立て続けに起きとる。これテスト中止した方がええんちゃう?」

「わかってる! でも、原因もわからないこの状況で下手にログアウトさせようとしたらあの人達の精神に悪影響が出るかもしんねえ。せめて安全圏に退避させてから──」

「……待ちい。安全圏? せや、なんでこうなってんねん」

「なんか気付いたのか狐狸さん?」

「見てみ、モンスターの異常行動が起きてる場所、魔王城に近付くほど数が増えとる」

「そりゃ魔王城に近付くほど魔物も多く配置されてるし……」

「ちゃう、タイムスタンプや! 魔王城を中心にして、だんだん周囲に広がって行ってんねん!」

「あっ」

 やっと理解する雨龍。

 そうか、だとすれば──

「やっぱり魔王だ! コイツのデータに最初にエラーが生じてる!」

「全部のモンスターを統括する親玉なんやし、すぐに気が付くべきやったな」

「ああ、コイツから近い魔物に順に異常が伝播してたんだ。でも、なんでだ? どうして急にこんな……」

「そんなんどうでもええ! 修正パッチ作ってプレイヤーの皆さんは急いでどっかに避難してもらわな! このままやと何が起こるかわからんのやで!」

「そ、そうだな。って、げえっ!?」

 元凶を突き止められた時にはすでに遅かった。開発者の彼等の予想を上回る速度で事態は急展開を迎えたのである。




「!」

「スズ、なんかまずい! 地面がどんどん崩れていってる!」

 スズランが何かを察知したのと同時、モモハルも異変に気付いた。彼の超視力が彼方にそびえ立つ魔王城の崩壊と、その周辺の大地の崩落を捉える。

「急いで引き返して!」

「な、なに? 何が起きたのスズちゃん!?」

「アサガオちゃん、みんな、しっかり掴まってて!」

 モモハルは麦畑に馬車を突っ込ませると、穂を薙ぎ倒しながら反転して今来た道を戻り始めた。全速力でだ。

「う、うわわっ」

「揺れるっ!」

 舗装もされていないデコボコ道。当然馬車は激しく震動する。しかしスピードを緩めている暇は無い。理由はすぐに荷台にいる六人にも理解出来た。

「地面が!?」

「空もだよっ!!」

 北の空を指差すユウガオ。三ヶ月前、自分達の世界で存亡をかけた決戦が行われた時も似たような光景を目にした。空が割れて崩れ落ちたのだ。あの時は向こう側に黒色化した魔素の海が広がっていたが、今度もまた真っ黒な闇が姿を現す。

「な……なにあれ、崩壊の呪い!?」

【そんなわけないでしょ!】

 クルクマの呟きに対し、かつてそう呼ばれていたミナがスズランの胸に埋まった宝石の中から抗議する。

 自分達はここにいる。世界を滅ぼし続けた災厄はマリア・ウィンゲイトにより浄化され、全てが彼女の中へ集約した。

 つまり、あれは別の災厄。

【濡れ衣もいいところよ!】

 憤慨するその声はスズラン以外には聞こえていない。そしてスズランは最初からミナ達の仕業ではないと知っている。

「ああもう、嫌な予感的中!」

 彼女にはすでに、あれがどういうものか見当がついていた。この世界に来て以来密かに危惧していた事態が始まってしまったわけである。しかも最悪の形で。

 やはり激しく揺れる御者台にしがみつき、舌を噛まないよう注意しつつ、かいつまんで説明する。

「あれは特異点よ! 私やモモハルと同じ! 今、この仮想空間(バーチャルスペース)本物の世界(リアルワールド)になろうとしている! その分岐点に現れた運命を左右させる存在!」


 そんな彼女の声に応えるように闇に三対の目が浮かび上がり、猛々しい産声を上げた。


「ォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」




『ほ、本物の世界になろうとしてる? 俺らの作ったこのゲームが!?』

『どういうことでっかスズランさん!?』

 向こうは向こうで必死に対処しようとしているのだろう。切羽詰まった天の声が響く。

「リアルに作り込み過ぎたんです! いいですか、知性体の想像力は時として本物の世界を創造してしまうことがあります!」

「えっ、それってつまり物語を空想したりすると、その空想の世界が実体化しちゃうってこと!?」

「そう!」

 クルクマの言葉を肯定するスズラン。この事実を知ってしまうと、人間はさらに世界を生み出しやすくなってしまう。だからなるべく教えたくなかった。けれどこんな状況では仕方がない。

「数多の世界の中には私達始原七柱が創り出した以外の世界も実は存在します! それは彼等“想像主(イマジン)”によって生み出されたもの!」

 よりリアルに、より精細に思い描くほど実体化の確率は高まる。そうして新たな世界を生み出してしまった者達は──

「想像主は空想が実体化した時点で“神”になります! 始原七柱の力には及びませんが、一つの世界の命運を背負った分だけ深度が深くなり、より私達に近い存在へと昇格してしまう!」

『なっ……なっ……なっ……』

『ボ、ボクらが神様に!? 有色者よりさらにトンデモに!?』

「そうです!」

 かつてマリア・ウィンゲイトが他の六柱に対抗するため組織した軍の幹部達は、全員がそうして神格化した“想像主”だった。自分達の世界でモモハルら神子に加護を与えている下位神は彼等のデータを基に創り出した存在。なのでオリジナルの彼等はアルトライン達をも凌ぐ力の持ち主だった。

「あれも今そうなろうとしています! いえ、もっと厄介! 貴方達この仮想空間を作るためにゲルニカが渡したネットワークの上位権限開放キーを使いましたね!?」

『は、はいっ』

『まずかったですか!?』

 不味すぎる。やはり、そのせいであの特異点はネットワーク全体に深刻な影響を及ぼすだろう。下手をすると“崩壊の呪い”以上の災厄に育ちかねない。

「いわば史上最大級のコンピューターウイルスです。今ここで倒さないと全ての界球器が滅亡しかねません!」

「え……」


『えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!?』


『すっ、すいませえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええん!!』


 自分達がしでかしたことの重大さを知り、絶叫する開発者組。

 スズランは額に青筋を浮かべて叱りつける。

「叫んでる暇があったらさっさとこの崩壊を食い止めなさい! もうすぐ後ろまで迫って来てますのよ!」

『イ、イエスマム!』

『応急処置的なパッチならなんとか作れました!』

「適用なさい!」


 直後、仮想空間の崩落が本当にすぐ後ろで停止した。なおも馬車を走らせたまま、とりあえずは助かったと息をつく一同。

 とはいえ、このまま脅威を放置して逃げ帰るわけにはいかない。スズランはモモハルに指示して馬車を止めさせる。

 敵もやはりこちらを排除すべき対象と認識したのだろう。後方から迫りつつあった。


「どうする気なのスズちゃん?」

「戦う」

「しかし、私達はいつもの力を発揮できませんよ」

「できたとしても勝てるかどうかでしょ、ありゃ。今までのとは次元が違う」

「ドラゴンだ……」

 呆然と呟くモモハル。その言葉通り彼等を追いかけるように闇の中から飛来した怪物は三対六眼を持つ黒い竜だった。全身を紫のオーラで覆っており魔王城そのものより大きい。今もさらに巨大化しつつある。成長しているのだ。

 念願叶って憧れのドラゴンを目の当たりにしたモモハルも、流石に喜ぶ気にはなれない。全てを見通す眼神の力が教えてくれる。あれはとてつもない怪物だと。間違い無くアルトライン達四方の神より強い。しかも刻一刻とその力を増しつつある。

「……私達にかけた制限を解除できますか?」

『す、すんません! なんとかやろうとしてるんスけど野郎に妨害されてるみたいで仮想空間のルール設定にアクセスできません!』

「つまり、今の状態で戦うしかないと」

『待ってください! もうしばらく時間を貰えれば、なんとかプロテクトを突破して制限の解除を──』

「そんな暇は無さそうです」

 敵が移動速度を上げた。多分こちらのステータスを参照したのだろう。制限が解けたら他はともかくスズランは大きな脅威となる。そう判断して今のうちに仕留めようと決めたようだ。


 なら仕方ない。


「モモハル、クルクマ、オトギリ。子供達を守ってください」

「スズ?」

「まさか、やる気?」

「無謀ですスズラン。普段の貴女ならともかく、今は──」

「いえ、戦うのは私ではありません」

 スズランには秘密がある。まだモモハル以外には教皇ムスカリとロウバイ、そしてナスベリしか知らない事実。

「あっ……」

 察したモモハルが声を上げた時、スズランの髪が虹色に輝いた。胸元の宝石からも同じ光が発せられる。

「この世界でも有色者の力は無制限で使える。つまり、その源である始原七柱の力もまた然り」

 ならば即ち、七柱を再現した存在もその権能を十二分に行使できる。


「お願い、皆──力を貸して」

【その言葉を、待ってたよ!」


 次の瞬間、六体の影が宝石の中から飛び出して来た。

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