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偽りの力(1)

「あ、見てみて! 私、バインドって魔法を覚えてる!」

「わたしは泥沼だって。なんか、かっこわるっ」

 街の宿屋。お金を支払い客室に入ると時間経過で自動的にHPMPが回復していく施設。そこでステータスウインドウを開き、レベルアップ後の能力を確認する一行。ノイチゴとヒルガオが言うようにスキルは増えていたがステータスには全く変化が無い。道中の疲労でHPMPが減少しているだけだ。どうやらこのゲーム、能力値に関しては現実の肉体のそれを反映させるだけで一切手を加えない仕様らしい。

『ネットワークの機能を使って一種の加護を与えたり、現実の肉体にこっちでの成長分を加算することは可能ですけどね』

『そういうのって不健全かなと思いまして。やっぱり体を鍛えるならコツコツ地道に努力しないと……急に強くなっても性格捻じ曲がっちゃいそうだし』

「へえ、意外とマトモなんだ」

 四つあるベッドのうち二つにスズランと向かい合って腰かけ、開発者の矜持に感心するアサガオ。たしかにこんなゲームで簡単に成長できてしまったら努力するのが馬鹿らしくなる。そうなった人間は、きっと頑張っている人を非効率的などと言って見下してしまうだろう。

「有色者になるには資格がいるのよ」

 スズラン自身ネットワークと繋がったのは最近のこと。なので、この事実もレインから聞いて知ったばかり。

「資格?」

「自分以外の誰かの幸せのため、全力を尽くせること。それが覚醒条件」

 他にもいくつか覚醒を促す要素はあるものの、このたった一つを満たせない限り絶対に有色者にはなれない。だから多少胡散臭く見えたり無職なのにこんなゲームを作って呑気に遊んでいたりしても狐狸林と雨龍はそういう人間性の持ち主なのだ。

「覚醒後に資格を失う場合もある。そしたら有色者としての能力も取り上げられる」

「へえ……それってたとえば、さっき言ったような方法で強くなった場合も?」

『いや、肉体の強化改造とか、すでに実行された行為の結果を無にはできない。でも資格を失った奴は大抵、すぐに他の有色者が対処する』

「対処?」

『倒すか捕らえるか、まあ状況次第だけど、資格を失った奴はロクデナシだからさ、俺達としても放置できないんだ』

「見て見ぬフリをするようでは自分も資格を失ってしまいますものね。それに」

「そもそも資格を失わずに済んでる有色者は、そういう時に見て見ぬフリなんかできない性格ってことか。なるほど、よくできてるわ」

『ご名答』

 雨楽のような根本的に争いに向かない性格の有色者もいるが、そんな場合には他の有色者のサポートを頼むことが多い。彼の場合、雨音の方が放っておかないので必要な時にはコンビで動いてもらっている。

「そういえば、あの二人に無茶をさせていないでしょうね? この間のような危険なこと、二度とやらせては駄目ですよ。雨音さんはまだ子供ですし、雨楽さんは気の優しい方なんですから」

『わかってますって。あの時はあいつらしか適任がいなかったから仕方なくです。最近はちょっと簡単なおつかいを頼んだくらいかな。基本的に不必要な情報は遮断して厄介事に関わらせないようにしています』

「なら結構」

「しっかし、ここでどれだけ頑張っても腕力が強くなったりはしないのか。どうりで敵が弱いわけだわ、開始地点だもんね。普通の子でも頑張れば倒せる程度に調整されてるってことだ」

 無双したアサガオが空しい勝利だなあと嘆息する。このあたりのモンスターは少し凶暴なだけの小動物。大人どころか、まだ十三歳の彼女でも手こずらなかった。

 そのためか最初の街、ここターストも平和そのものといった風情である。人々はなんの不安も無さそうにニコニコしてたし、街頭で音楽家達が演奏する曲ものどかなものばかり。今も窓の外から聴こえて来る。

「でもさ……」

 彼女は右膝を抱え、不安そうに訊ねた。

「ここは有色者の訓練場も兼ねた仮想空間てやつなんでしょ? なら、やっぱりそのうち、かなり強い敵も出てくるわけ?」

『もちろん。いきなり強敵を出したらゲームにならないから、序盤は弱い魔物を配置してあるだけだよ』

「じゃあ、そのうちあたしみたいな一般人じゃどうにもならなくなるんじゃない?」

『そこはスキルでカバーできる設計になってる。有色者じゃなくてもレベルアップ次第で強くなれるよ。もちろんこのゲーム内だけの力だけど。あくまでゲームだからね、現実の自分とは違う自分を楽しめるってのがそもそものコンセプトなのさ』

「ふうん」

 アサガオはちょっと残念だなと思った。そして直後に苦笑する。結局ズルをしてでも力を手に入れたかったのか自分は。そんな性根では有色者にはなれないらしい。このゲームの中で偽物の力を手にするのが精一杯だ。

(ま、いいけどさ。別にあたしはスズちゃん達みたいになりたいわけじゃないし)

 ならいったいどんな風になりたいのかというと、実はまだ迷っていたりする。

「あ、ところでさ、朝になったらどうするの? いっぺん戻ってやり直し?」

 彼女の質問にスズランが「心配御無用」と返す。

「ここは現実世界の時間から隔離されてるの。だから何年も冒険する羽目になったとしても向こうでは一瞬」

「そうなの?」

「もちろん何年もかけたくはないけどね。先に聞いておくべきでした、クリアまではどのくらいの時間を想定してますか?」

『寄り道をせず物語の本筋だけ辿ってくれれば十時間くらいですかね。今回はそのメインルートのテストだけしてくれればOKです。もちろんプレイ状態も記録されるんで、飽きたらいつでもやめられますし、再開も自由』

「だって」

「親切設計だね。それなら気楽に楽しもっか」

「うん」

 二人が頷き合っていると、モモハルとクルクマ、そしてオトギリが帰還した。スズラン達を休憩させている間、三人で街全体を一周してきたのである。

「ただいまー」

「お疲れ様、どうだった?」

「なんか妙に小さい街だね。建物はやたら立派なのに数が少なくて都市全体の面積も狭い。外にいくらでも土地があるのに拡張する気は無いのかな?」

「シブヤみたいだね」

『ゲームの街なんてそんなもんです。あまり広すぎても移動が億劫でしょ』

「ああ、そういう理由か」

『作る側としても大変ですしね。楽しいんですけど、楽しすぎてそのうち住民一人一人の設定を練り始めたり、インフラ整備に合わせた理想的な建物の配置なんて考えちゃったりして余計な時間が……』

「ああ、色んな世界を創ってた頃にそういうのありましたね……」

 ただ一人、スズランだけが共感する。マリアが神様になってから最初の数百年はそんな試行錯誤が楽しかった。

「雑談はそこまで。本題に入りますよ」

 オトギリが手を叩き、切り替えを促す。思い出に浸っていたスズランも、まだ若干アンニュイな気分だったアサガオも居住まいを正した。クルクマとモモハルも立ったまま耳を傾ける。

「畑を荒らすゴブリン退治とやらを頼まれました。どうして話を伺っただけの見ず知らずの他人にいきなり依頼してきたのかはわかりません」

「いや、だからさオトギリさん。この街の住民は人形みたいなものなの。決められた行動や会話を繰り返してるだけ」

「たしかに誰に話しかけても同じ言葉しか繰り返しませんでしたが……外見は普通の人間なので不気味です」

「僕、もうあの人達に話しかけるのやだな……怖い」

 げんなりするモモハル。そういえば彼はオバケの類が苦手だ。何度話しかけてもセリフが変わらない住民達は一種のホラー感があるし、そう思っても無理は無い。

「NPC。ノンプレイヤーキャラクターと言ってね、生きてる人間のように見えるけれど、実際には物語を彩り進行させるだけの舞台装置なのよ」

『レインと同じように一人一人にAIを搭載することも考えたんですけどね』

 無念そうな雨龍の声が響く。

『こんだけ大勢が自我を持ったりしたら絶対に制御しきれなくなるでしょ? だから泣く泣く断念しました』

「それで正解です」

 もしもそんなことをしていたら今頃大変なことになっていた。スズランは彼等の判断を英断だと内心で称える。理由を教えると好奇心で実行してしまいかねないので賞賛の言葉ごと飲み込んだが。

 ともあれ次の方針は決まった。そのゴブリン退治とやらを受けよう。街中を回ってそれしかクエストが受けられなかったなら、これが次へ進むためのキークエストに違いない。

『てか、進行方法は訊いてくれたら俺らが教えますよ』

「先に言いなさい!」

 歩き回って疲れたオトギリは天井に向かって靴を投げた。

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