チュートリアル(2)
「アカンてウーリー。MP無限て……まりょく五十三万て……あの人チートスキル無しでチートやないか」
「想像以上だよ……神様やべえな」
雨龍と狐狸林の二人は再度小声で協議し合い、やがて一つの結論に至る。
「スズちゃん、魔法系のスキル使用禁止」
「はぁ!?」
「いや、その“まりょく”だと初級の魔法スキル一つでクリアできちゃうんで」
「ラスボスが一撃死しますよって。しかもそれを撃ち放題。無理無理無理無理」
「この後ジョブ選択があるんで“まりょく”を使う職も無し。お願いします」
「私、魔法使いなんですけど!?」
魔女が魔法無しでいったい何をしろと言うのか。
いや、待てよ?
「──有色者の力は使ってもいいんでしたね?」
「あ、はい」
「なら……」
試しにスズランは自分の全身を橙色の光で覆った。その状態で前に踏み込み、右の拳を突き出す。しっかりと腰を回転させ、同時に左手を引きながらのいわゆる正拳突き。
パンッと音がして空気が破裂した。拳速が音の速さを超えたからだ。
「ひえっ!?」
「いけますわね」
「な、何をしたのスズ?」
このメンバーなら前衛は自分の仕事。そう思っていたモモハルは、お株を奪われる見事な“武”を見せられて困惑する。
「何って、この間みたいにマリアの記憶にある武術を使ってみただけ。やっぱり再現率がいまいちだけど、思った通り生命の力で肉体を強化してやれば鍛錬不足は補えるわ」
「それでもまだ完全じゃないの!?」
「マリアがどれだけ長生きしたと思ってるの。武術の一つや二つ究めるわ。私なんかよりカイの方がもっと強かったんだから」
じゃあ、その破壊神を倒したクチナシは──今さらながらにモモハル達は、あの無口でスケベな郵便配達員のデタラメっぷりを痛感した。
「というわけで、私はモモハルと一緒に前衛になります」
「まあ、仕方ないね」
「貴女が魔法を使うとテストにならないでしょうしね」
「そうしてください」
頷く狐狸林。ひとまずスズランの魔力問題には決着がついた。
ちなみにオトギリも十分に規格外の魔力だと判定され制限をかけられてしまった。本来の十分の一。つまりクルクマの倍程度まで引き下げられる。
「ふふふ、この程度の差なら技量と経験が物を言うね。そっちの方じゃ負けないよ」
「言いますね。いいでしょう、貴女もヒメツルと同じ悪の三大魔女。私が格の違いというものを教えて差し上げます」
火花を散らし合う二人。ところが疎外感を感じたスズランが背中を向けてしょげているのに気が付き、今度は二人がかりで宥めにかかる。
「いいですわね、二人とも魔女らしく戦えて……」
「な、なに言ってるのさスズちゃん。さっきのパンチ、かっこよかったよ」
「そうですよ、あなたの場合、魔法無しでも活躍できるんですから私達よりずっと凄いと言えるでしょう」
その横で雨龍と狐狸林は別の問題について話し合った。
「モモハル君も、あらゆる情報を読み取れる能力持ってんだけど……」
「テストプレイだしそれは制限かけなくてもええんちゃう? スズランさん曰く有色者と同じらしいし、バグとか発見してもろたら助かるやん」
「それもそうか」
というわけでモモハルには一切制限が課されないことになった。他のステータスに関しても子供にしてはかなり高い身体能力だが、常人の枠から逸脱しているわけではないため良しとされる。
「えーと、じゃあ纏めるね。基本的にスズちゃんとモモくんが前に出て、オトギリさんとあーしが引き気味に子供達を守りつつの中衛。子供達は支援スキルとやらを覚えられたら基本的には後方支援。場合によって攻撃参加。そんな感じでいいかな?」
「ですね」
案の定、この先には危険なモンスターが待ち構えているそうなので、それぞれの役割と基本的な陣形を決めておく。
「魔素の操作も封じられるか……」
得意技が使えないことに若干不安を抱くオトギリ。気持ちを紛らわすため見えない腕を作って動かしてみる。
それから、はたと気付いた。
「この世界にも魔素はあるんですね」
自分達の世界は、とある魔法使いと崩壊の呪いのせいで魔素に汚染された。だがここは仮想空間。なのに魔素が存在していて操作もできる。今さらながらその事実に驚く。
「本物じゃありませんよ。今も記憶災害に悩まされてる世界があるんで、対策を練る用に“魔素っぽいもの”を使えるようにしておきました。だから、場合によっちゃ記憶災害も発生するんで気を付けてください」
「そこまでしますか……」
雨龍と狐狸林は目的に合わせて徹底的に作り込むタイプのようだ。スズランは再びある可能性を危惧する。
そこへ質問が飛んで来た。狐狸林からだ。
「そういえばスズランさん」
「はい?」
「どうして世界を再生する時、魔素を取り除かなかったんですか? いや、私らの世界は完全に除去されてるんですけど、そうじゃない世界もあるみたいで、どういう理由かなと気になってたんです」
「ああ……」
腕を組むスズラン。それに関しては彼女も、というかマリアも悩んだのだ。
「魔素に適応して進化した生物の中には、魔素が無くなると死んでしまう種も数多く存在します。人がそうなったケースも少なくありません」
「存じております。でも、あの時のスズランさんなら彼等の体質を変化させることだってできたのでは?」
「ええ、できました」
あっさり肯定する彼女。実際、この世界で唯一の魔素適合体だったナデシコは元の人間に戻し、魔素が無くても生きられるようにした。
とはいえ彼女を含む数名の例外だけだ。その数名以外には同様の措置を施さなかった。
「……魔素による進化も自然の摂理の一つ。私は、そう結論付けました」
元々全ての世界は自分達七柱が魔素を用いて形作ったもの。なら魔素で満たされた世界も、それはそれで自然のあるべき形の一つ。そう思った。
神は、ある程度平等でなくてはならない。彼女はそうも考える。魔素により他種に対し優位な進化を果たした生物もいれば、その逆の立場に陥った種もあるだろう。でもそれは環境に適応して行われた自然淘汰の一つ。自分達が勝手に手を加えたことで再逆転が起きたりしたら、それこそ不公平な話。
「魔素を害だと認識するのであれば、私達の世界でアイビー社長達がそうしたように各々の世界で手段を講じ対策するでしょう。それでいいのです。彼等が魔素という物質に対しどう向き合うのか、それは私が決めるべきことではありません」
たとえば広大な宇宙空間の一惑星が汚染された程度であれば、別の惑星に移住するなど逃れる手段はいくつかある。完全に除去するのだって不可能ではない。
「なるほど……」
「ねえ、まだあ?」
「スズねえ~」
再び、待ちくたびれたノイチゴとヒルガオに袖を引っ張られた。スズランは苦笑しつつ頷き返す。
「そうね、そろそろ行きましょう。雨龍さん、狐狸林さん、お願いします」
「こちらこそお願いします。それじゃあゲームスタート!」
雨龍がスイッチを押すと、スズラン達の視界は一瞬にして切り替わり、目の前に青空と草原が広がった。
その空にでかでかとタイトルロゴが表示される。
≪ファイナル・ナナイロクエスト≫
「このタイトルはどうにかなりませんの?」
『センス無くて、さーせん!』




