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孤高なパチンカス

作者: ロック

 青年は、ショートピースをくわえ、先端に火をつけた。

 ルネッサンス大島店というパチンコ屋の前の喫煙スペースで一服した彼は、引き込まれるように店に入る。

「昔は良かった」と愚痴をこぼしながら、台を探す。「あったあったこれだ」と、彼はCRA海物語3Rの台のデータを見る。

 回転数107回転、当たりは3回、確変1回のこの台にゆっくりと腰をかけ、台に1000円を入れる。

「神様仏様ガネーシャ様、頼みますよ。生活がかかってるんですよ」

 そしてゆっくりとハンドルを回す。

 いつもの海物語のBGMが鳴り響く。一回目のリーチは115回目。554となると思ったが、4が滑り、555となり、マリンちゃんが彼の眼前に飛び込んだ。

「うひゃっほい!」彼は喜び、当たりを享受する。そして、400玉ほどの出玉を獲得し、連チャンを狙う。

 しかし、連チャンはできなかった。彼はしぶしぶ他の台を打つが、そこで全ての玉を飲み込まれた。そして、ゆっくりとパチンコ屋を後にした。

 彼の財布の中には多少のお金がある。これも全て妻が稼いできてくれる。青年は、ヒモであった。彼は帰りがけに古本屋に寄り、ヘーゲル全集を買う。

 その後は図書館でヒルガードの心理学とDSM-IV-TR 精神疾患の診断・統計マニュアルを借り、そして帰宅する。

 家の時計を見ると、16時。彼は自室でショートピースをぷかぷかと吸い、そして夕飯の支度をはじめた。

 そして、夕飯の準備ができた彼は、軽くおにぎりを頬張り、妻の帰りを待ちながら、読書をした。


 20時、妻が帰宅した。「お帰り、今日もお疲れ様」と彼は言うと、妻はバッグを下ろし、風呂場に行った。

 20時40分頃に青年は妻と食事をした。そして夕食を食べながら青年に「働いてほしい」と愚痴をこぼす。

 青年は、苦い顔をした。「なんで働かないの?」と妻は青年に尋ねた。

 青年の夢は小説家だった。が、彼に文才はなかった。彼は人材派遣会社の社員として働いていたが、整理解雇され、その後はインフラ系の職場に転職、しかし、その職場は肌に合わず、退職。そしてその次に入社した出版社で現在の妻となる人と出会い、彼は彼女に夢を語った。


「僕は小説家になりたい!もしくは音楽家でもいい!芸術で飯を食いたい!」青年のその可愛らしい微笑みに惚れた彼女と彼は交際ののちに結婚。

 そして、彼は「夢を目指す!」という名目で仕事を辞め、その後15年間、彼はデスクの上で作品を書く日々となった。

 妻はキャリアウーマンとしてその出版社でそれなりの役職を得た。年収は700万円ほどと、高い給料をもらい、彼を養っている。彼は日中は読書かパチンコか映画鑑賞か美術館巡り、観光地巡りを行っており、妻は青年のその姿を見るのに嫌気がさしていた。

 そして妻は食べ終わってから一言「パチンコはやめて」と言った。

 彼がパチンコを行っている理由は決して娯楽のためじゃない。彼はパチンコで勝った金で妻にプレゼントを買ってあげたいと考えているのだ。


 青年も自覚している。パチンコで勝った金より、働いて自立することが何より妻を喜ばせることだって。

 そして彼は食べ終わった皿を洗い、歯磨きをして、執筆をした。


 翌日


 彼は朝10時に起床した。そしてパチンコ店に足を運び、1円パチンコを打つ。今日打つ台はPドラム海物語IN沖縄桜バージョン。

 回転数は189回、当たりは0回。彼は1000円を入れ、勝とうとしたが、205回目の回転で彼は打つのを辞めた。

 そして、ハローワークに足を運び、職業を相談を受けたが、新たに職を得ることが難しい状況だとハローワーク職員に言われる。

 妻が帰宅するまで読書と執筆とゲームとクラシック音楽鑑賞を行い、夕飯を作る。そして夕飯の時に妻に離婚届けを出された。

 青年は硬直し、その現実を受け止めた。


 こうして家から追い出された彼はホームレスとなった。

 ホームレスになってからは、死の直前まで本を読んだ。そして離婚してから半年後、彼は路上で倒れているところを通行人に発見され、救急搬送されたが、搬送先で死亡した。

 享年45歳。


 完


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