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リノンの呼び出し

メイが元気になった翌日の朝、リノンから研究所に来ないかと誘われた。

いや、リノンからというよりもリノンの代理だと名乗る男の人から、誘われた。

その男は白衣を着ていたことから、研究員の人だと思った。

「リノン副所長から研究所に来てもらいたいと伝えてくれと、言われてやってきました。」


僕は驚いた。

リノンから呼び出されるとは思わなかったからだ。

それに、副所長ということは研究所で2番目に偉い人なのだ。

リノンは確かに、印象的には優秀な少女というイメージはあったが、そこまでの地位にいる人だとは思わなかったのだ。


「わかりました。」

僕は了承した。どちらにしても断ることができないのだ。

研究所から呼び出しがあれば、魔獣兵団の兵は従わないといけないのだ。

それほど、研究所の呼び出しには重要性があると言われている。


僕はメイとともに研究所に向かった。

僕は最初一人で向かおうとしたが、メイが連れていっての言ったのだ。

なので、二人で行くことにした。


僕たちが案内されたのは魔獣を研究するための施設の中で一番大きな部屋だった。

本当に広かった。

四方50mはあるんじゃないかと思う。実験に使うような器具や作業するための机があった。

中央に大きな台があり、そこに、先日討伐した銀色の熊の魔獣が乗せられていた。

台の近くには二人の女性がいた。一人はリノンだった。


「レイ、こんにちは。」

リノンがレイに気付いて声をかけた。

「リノン、こんにちは。いきなり呼び出されて驚きました。」

僕はリノンに挨拶をした。


リノンの隣にはもう一人40代くらいの眼鏡をかけた女性が立っていた。

「君がレイ君?もう一人の女性は?」

眼鏡をかけた女性は僕たちに声をかけた。


「魔獣兵団のメイと申します。レイの付き添いで参りました。」

メイが少し緊張しながら自己紹介をした。


「ああ、礼儀正しい子だね。私はここの研究所の所長をしているナジュという。急に呼び出して悪かったね。」


「私はリノン。一応、副所長なんだ。」


「僕たちと歳が変わらなそうなのに、副所長ってすごいですね。」

僕は、正直な感想を話した。


「うん。ちょっとね。まあ、優秀すぎたのかな?歳もレイと変わらないよ。18歳でしょ?

だから、かしこまらないで、敬語も抜きでいいよ。あ、メイだったよね。レイと同じ歳だよね?メイも私と話すときは敬語なんていらないから。」


「え、あ、はい。」

メイはリノンの勢いに押されて、挙動不審に答えた。


「敬語はいらないって言ったでしょ?」

リノンはメイを睨んだ。


「うん。ごめん。」


「よし、でも、謝んなくていいよ。」


メイは僕のことを疑いの目で見た。

いきなりなんなの?どういうひとなの?と目が語っていた。

リノンは僕と初めて会ったときもあんな感じだったから。

リノンなりのコミュニケーションのひとつなのだろう。

確かに、初対面であんな感じに迫られるとこっちが及び腰になる。

敬語はいらないと言うが、どっちが上かどうかわからせようみたいな感じを受ける。

多分、研究機関の競争世界に勝つにはああいった、積極性というか、自信みたいなものが必要なのだ。そうでなければ、僕と同じ歳で副所長という立場にはいないだろう。


まあ、それは置いといて、

僕が気になったのは、リノンが僕たちの年齢を知っているんだろうと思ったことだ。

そんなことを考えていると、リノンは僕の様子を見て、言った。


「実はレイとメイのことは知っていたんだよね。君たちは有名人だからね。闇属性の魔法が使えるレイ、光属性の魔法が使えるメイってね。」


僕は驚いたけれど、不思議はないのかなと思った。希少な魔法使いは重要視されているみたいだから、スマトラまで情報が来ていてもおかしくはない。


ナジュさんが僕たちの紹介が終わったのをみて話し始めた。

「実は君たちを呼び出したのは、この魔獣の討伐の状況を教えてほしいんだ。」

ナジュさんは台の上にいる銀色の熊の魔獣を見て言った。


「それは、上司のジースが報告書にして提出したと思いますが?」

確か、ジースさんが、運搬部に預けていた。なら、研究所に届いているはず。


「ああ、言葉が足りなかったね。状況をたしかに、報告書で読んだけれど、君たちがどう感じたのかを聞いてみたいと思ったんだ。」


「どう感じたというのは、例えばどういったことでしょうか?」


「例えば、そうだな。この魔獣は強かったかい?」

僕は魔獣との戦闘のことを思い出してから言った。


「はい、今まで戦った魔獣では断トツに強かったです。知恵があり、パワーもスピードもありました。特ににおいによる感知する力が異常だと感じました。」


「なるほど。」

ナジュさんは頷いて、神妙な顔になった。


「実はね、強い理由はなんとなくわかるんだよ。」とリノンは言った。

リノンは懐から、注射器のようなものを取り出して、僕に見せてくれた。

先端はとがっていて、針のようになっている。そして、パネルようなものがついていた。

「これはね、魔力を測定して、数値化するもの。魔力測定器って呼んでるけど、まあ、説明するよりも見せたほうがいいね。」


そう言って、リノンは魔力測定器を銀熊に突き刺した。

パネルは光って、数値が出てきた。500と書いている。


「この数値はこの魔獣の魔力値を示しているんだ。」

リノンは魔力測定器のパネルが見て、僕に言った。


「この数字がこの魔獣が持っている魔力っていうこと?」僕は確認した。


「そう。ああ、それと、言い忘れていたけど、この魔獣の個体名をギングマと名付けたの。魔力値が500。厳密には死体だから、実際の数字はもっと多いかも。でも、強さの目安にはなるはず。」


「すごい。こんなものがあったんだ。」と僕は感心して言った。


「ええ、私とナジュ所長とで作ったの。」

すごい技術力だと、驚いた。


「ギングマの強さを比較するために、他の魔獣も測ってみたの。条件は同じ、死体でね。例えば、この魔獣の種に近い、アオグマの数値は200だったの。ギングマの数値のほうがかなり大きいのがわかるでしょ?」


僕は頷いた。確かにその通りだ。

アオグマは、名前の通り青い熊のこと。熊の魔獣が出現したときは、だいたいがアオグマなのだ。


リノンは話を続けた。

「この魔力値が大きいことが、さっきレイが言った強さの理由だと思う。詳細な研究はこれからなんだけど、この傾向から、ある推論が成り立つの。」


僕はそれを聞いて、図書館でのリノンとの会話を思い出した。

「昨日、図書館で話してくれた魔獣は人為的に作られているんじゃないかっていうこと?」


「そう。こんなふうに魔力値が大きい個体はこのギングマだけじゃないの。他の新種の魔獣って言われているものが、もともと出てきている近い種と比べても、魔力値が大きいのよ。」


「ごめんなさい。人為的に作られるというのはどういうこと?」

メイが質問した。


リノンは図書館で話してくれたことをかいつまんで、話した。

環境や動物の種が急には変わらないということ。

最近、強い新種の魔獣が増えていること。

そういったいくつかの出来事から、これは人為的に魔獣が作られているのではないのか。

そして、その理由は人類を滅ぼそうとしているのではないかと。


リノンが話し終わって、メイを見ると、唖然としている。

気持ちはわかる。実際、僕も同じ気持ちだ。


「このことを公表するかは迷っているのよ。」とナジュさんが言った。


「なぜ、迷っているんですか?」僕は聞いた。


ナジュさんは考えるように周りを見てから言った。

「魔獣が作り出されているだろうという可能性は確かに、高いけど、あくまで、可能性だから事実じゃない。それに、公表したとしても誰もが、信じることができるようなことじゃないから余計に混乱してしまうかもしれない。公表するにしても慎重にならないといけない。」


僕は歯がゆい思いをした。確かにそのとおりかもしれないけれど、何かがあった時では遅いのではないかと思った。もし、今、公表して、対策を立てることが出来れば、被害も出ないではないかと考えている。


「それでも、何かがあった場合、公表していれば、事前に対策を立てて、対処できるんじゃないですか?遅いよりも、早いほうがいいと思うのですが。」

メイが疑問を指摘した。


ナジュさんは暗い顔をして言った。

「うん、まあ、その意見はもっとも何だけどね。公表するには国に承認を得られないといけないんだ。でも、それは簡単なことじゃない。あるか、ないか、わからないようなことに対しては国というのは動いてくれないんだ。だから、今は証拠集めをして、可能性が高いことを示さないといけないんだ。それに、私たち研究者だけが、意見を言っても聞いてくれないかもしれないから、味方を増やさないといけない。もう、かなり面倒くさいんだ。嫌になる。」


公表するというのは結構大変な手順が必要になるのか。でも、公表するだけでも、ここまでの手順が必要なら、いざっていうとき手早く動くことはできないじゃないのかと思う。


メイが思案顔で、疑問点についてナジュさんに聞いた。

「味方を増やすというのは?」


「まず、魔獣兵団を味方したい気持ちはある。」


「だから、私たちに話してくれたんですか?」


「うん、そうだね。」


「他の人にも話されたんですか?」


「いや、まだ、君たちだけだね。」


「え、そうなんですか?」


僕も同じ疑問だ。なぜ、最初に僕たちに話したんだ。

僕たちなんて、なんの権限もない若手なのに。


「君たちに話さそうと思ったのは、リノンと話して決めたんだ。」

ナジュさんはリノンを見て、そう言った。


「そうですね。」リノンは頷いた。


そして、リノンが話を引き継いだ。

「まあ、この町にレイとメイがいたから、話そうと思ったのもあるけど、本当の理由は君たちには強くなってもらいたいと思ったからなんだよ。」


「強くなってもらいたい?」僕は聞いた。


「うん。魔獣がどんどん強くなるのなら、人間側も力をつけなければ、対抗できないからね。」


「それは、わかるけれど、そのために訓練しようということ?それなら、他の大勢の人にも話したほうがいいじゃないか?」


「訓練とかじゃないの。まあ、訓練も大事だけど、そうじゃなくて、私が作った魔道具を試してほしいの。だけど、今のところ二つしかないから、とりあえず、レイとメイに使ってもらいたいの。」


「魔道具って何?」メイが聞いた。

僕も聞いたことがなかった。魔法の道具。杖とかのことを言っているのかな。


「魔法の力を増大させたり、形を変えたりできる道具のこと。これも見せたほうがいいかな。付いてきて。」

そう言って歩き始めた。僕とメイとナジュさんはリノンに付いていった。


リノンは途中、部屋に寄って、手袋を二つ持ってきた。

その2つの手袋を僕と、メイに渡した。僕の黒色、メイのは白色だった。

見た目はただの手袋だ。一つだけ違うのは手の甲の真ん中あたりに小さい赤い宝石が埋め込まれていた。この宝石が、魔法を増幅したりできるのか?


「とりあえず、魔法を使ってもらうから、外の魔法訓練場に行きましょう。」


リノンはそう言って歩き始めた。

「研究所に訓練場があるんだな。」と僕は言った。


「訓練場とは名ばかりで、ただの平野なんだけどね。」


僕たちは外に出て、建物から入り口から見て、裏側のほうへと歩いていった。

しばらく、歩くと、大きな、平野が見えてきた。ここが訓練場かなと思った。

訓練場は確かに、アガレストに比べたら、立派とは言えなかった。

だけど、少数なら、魔法を撃ち込むための広さも十分だし、快適に訓練することが出来ると思った。


リノンは訓練場に着いて、この手袋の使い方を説明してくれた。

「この手袋の使い方何だけど、簡単に言うと、想像した魔法をより効率良く形にできるんだよ。例えば、レイは闇魔法を使えるよね。一回使ってみて。」


僕は頷いて。杖を構えて、30m離れた位置に闇魔法の重力場を発生させた。


「その魔法の範囲を広げてみて。」


僕はリノン言った通りに範囲を広げてみようとした。そうしたら、手袋の赤い宝石が光った。


「想像して、より範囲を広げるように、そして、魔力を込めていって。」


重力場を範囲を広がっていく、僕は四方3mくらいの範囲にしか重力場作ることが出来なかった。だけど、範囲を広げるように想像したら、四方10mくらいまで、範囲が広がっていた。


「その、重力場を奥のほうに移動させて見て。これも想像して奥に動くように。」


僕は、重力場が奥に動くように想像した。すると、ゆっくりであるが重力場は奥に移動していった。僕は驚いた。今まで重力場を発生させることができたけれど、移動させることができなかったからだ。


「その重力場の威力を強めてみて。これも想像して力を大きくしていくように。力が集まるように。」


僕は想像した。力を大きく、集まるように。そうしたら、重力場の威力が上がった。地面は陥没していって、地形を変えていった。すごい威力だった。


「これが、手袋の使い方。すごいでしょ?」


僕は重力場を消して、頷いた。確かに、すごいものだと思った。


「基本的な、魔法の範囲、威力が上がって、どう動されるかも指定できる。それに術者の想像力によっては色んな形にもすることができる。確か、メイは、光魔法で自分と同じ分身みたいなものが作れたよね。やってみて。」


「わかった。」

メイは頷いて。光魔法で自分と同じ分身を作った。


「想像して、その分身をもう一つ作るように。」


メイはやってみた。手袋の赤い宝石が光り輝いて、もう一つの分身を作ることが出来た。


「そして、その分身をレイと同じ姿かたちにしてみて。」


メイはもう一つの分身をレイと同じ姿にさせた。メイも驚いていた。ここまで、幻術を制御できたことがなかったからだ。


「その姿は人間に限らず、想像力によって、変えることが出来る。例えば、分身をレイと同じ姿にさせたように、今度は何かの動物の姿にしてみて。」


メイは鹿を想像した。そうすると、レイの姿が鹿に変わっていった。


「鹿を走らせてみて。これも、鹿が走っている姿を想像してみて。」


メイは鹿を走っている姿を想像した。そうしたら、鹿は動き出して走った。どんどん、離れていく。50m、100mと。 本当の鹿が走っているようだった。


「もう一つ、できるかわからないけど、幻術の鹿と視覚が共有できるかやってみて。」


メイはやってみたが、それは、出来なかった。

「できないわ。」とメイは言った。


「なら、目をつむって、想像してみてあの幻術の鹿に自分が乗り移って走っているんだと。」


メイは目つむって、リノンに言われたようにやってみた。かすかにだが、鹿の視点で見ているように感じた。


「かすかにだけど、見えるようになった。」


「多分、練習すれば、もっとうまく使えると思う。」


メイは分身を消した。


「手袋の使い方はわかったでしょ?」

僕たちは頷いた。驚きを隠せなかった。


「しかも、これは、魔力を効率よく、使えるようにしているから、疲れもそんなにないと思う。」


僕は確かにと思った。あれだけ、広範囲で威力の高い重力場を作ったのに、そんなに疲れていなかった。


「こんなに、すごいものをリノンが作ったなんて、信じられないよ。」

僕は感心して、正直な感想を言った。


「うん。うれしいことを言ってくれるね。なら、私の事を尊敬くれたのなら、レイとメイには私のことをこう呼んでほしいの。錬金術師のリノン。そう呼ばれたいの。」


「錬金術師?そう呼ばれたい?」

僕はリノンが何を言っているのかわからなかった。


「えーと、リノンは錬金術師に憧れているのよ。」

今まで、静観していたナジュさんが言った。


「錬金術師って何ですか?」と僕はナジュさんに聞いた。


「今から、1000年前にいたとされる魔道具を生み出したとされる人たちのこと。でも、物語として書かれているだけだから、空想上の存在だと思っているんだけど。実際に魔道具なんて、存在していないのだし。」


「空想上では、ないです。絶対錬金術師はいます。それを私は証明します。」

リノンを見ると、目をキラキラさせていた。


「まあ、だから、リノンがこの手袋を魔道具って呼んでいるのは、そういう理由があるの。」

ナジュさんは苦笑いをして言った。


リノンは熱意がこもった表情で語りだした。

「魔法で想像するだけで、なんでも生み出すことができる魔道具。魔法で全ての物体を分解してしまうことができる魔道具。魔法で時空を超えて、過去や未来に渡ることができる魔道具。そんな魔道具を作った錬金術師たち、憧れないわけがない。」


「今の三つの魔道具は物語で登場する三大魔道具って呼ばれているものよ。もちろん、存在はしていない。空想上のもの。」

とナジュさんは補足した。


「魔法で想像するだけで、なんでも生み出すことができる魔防具は作った。後は二つ、作ることができれば、私は偉大な錬金術師になれる。」


リノンは決意を固めた目で断言した。リノンは止まらない。


「魔法で想像するだけで、なんでも生み出せるいうのは誇張表現だけど、魔法で想像することで色んな形の魔法を生み出すことはできると思う。」

ナジュさんはリノンの間違いを指摘しながら、たんたんと言った。


僕とメイはそんな会話を茫然として聞いていた。

リノンの話はそのあともずっと続いた。

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