メイの内心
メイは学園の時から、特別な魔法使いとして見られていた。
学園では、ここ10年使い手がいなかった光魔法を扱うことができたからだ。
だが、光魔法以外は特別に優れたところはなかった。
一応光魔法の他にも水魔法を扱うことはできたけれど、標準よりも少し上なくらいだった。
それに、同期にはメイよりもすごい人がいた。
エリンには魔法速度も射程距離も勝てなかったし、剣もうまく使うことはできなかった。
レイは私と同じように特別な闇魔法を扱えていたけど、私と比べても魔法力が高く、何よりも、射程距離が異様に長い。100m離れた的に魔法撃ち込んで、当てることができたのだ。
だから、学園の教師が言うようにメイが特別だってことを信じることができなかった。
メイは昔から人をあまり信じることができない性格だった。
卒業してグリン隊長のもとで任務についた時も、最初のころはこの性格は変わらなかった。
隊の仲間から最初のころは特別扱いされたからだ。
光魔法が使えるなんてすごいとか。これで、任務の成功率も上がるなとか。
根拠のない期待をされる。
特別扱いされるということは、その分期待が大きくなるということだった。
メイは期待され過ぎるのも嫌いだ。なぜなら、失敗したときにみじめな気持ちになるからだ。
この特別扱いも学園では、それなりの成績だったから、期待にこたえることはできていた。
でも、魔獣兵団の命のかかった任務では違った。
魔獣兵団はいわば、魔獣に関してのプロ集団だ。
案の定、メイの働きは期待を上回ることがなかった。
メイは入ったばっかりだし、経験なんてなにもないのだから、失敗するのは当たり前なのだ。だけど、最初に期待されていた分、かなり惨めな思いをした。
メイの失敗はほとんどをグリン隊長がフォローすることで、事なきを得ていた。
グリン隊長はメイのフォローをしながら、正しいやり方を教えてくれた。
調査のやり方。戦い方など。それだけではなく、旅をするための必要な知識まで教えてくれた。
メイは最初に惨めな思いをした分、グリン隊長の説明を真剣に聞いた。
そして、実践を積むごとに、成長していると実感していった。
グリン隊長のやり方を実践して、成長できたことで、メイはグリン隊長を信じようと思った。
他の隊の仲間も最初はなにもできなかったメイだったが、成長して戦力になったことで、信頼してもらえた。
メイは心から信じることができる本当の仲間ができたと思った。
メイは任務をこなすごとに、あることに気付いた。
幻術魔法は魔獣との戦いにおいて、かなり有効だと気づいたのだ。
奇襲やかく乱などを、行うことで、魔獣の動きを止めることができて、一方的に攻撃することができたからだ。
皆が期待する理由がメイにもわかったのだ。
それで、メイは勘違いしてしまったのだ。幻術魔法があれば、どんな魔獣にだって負けないと。
メイの幻術魔法はたしかに、すごいが、弱点もある。
幻術魔法は主に視覚・聴覚を封じるのに、特化している術だと言える。
自分と仲間の姿を風景に同化させて見えなくしたり、自分と同じ姿の幻をつくって相手に誤認させたり、強い光と音で相手の目や耳を封じたりなどができる。
だが、とりわけ、においで追う魔獣には通じない場合が多いのだ。
そのことに気付いたのは銀色の熊の魔獣とグリン隊長たちとともに対峙した時だ。
銀色の熊はメイが幻術魔法で姿を消しても、正確な位置がわかっているようだった。
メイの幻術魔法は通じなかったのだ。
しかも、相手が悪かった。グリン隊長たちでさえ敵わない強大な魔獣だったのだ。
そして、グリン隊長たちは死んでしまった。
メイは深く悲しんだ。
アケ村に、ようやくたどり着いて、なんとか、村長に状況説明をすることはできたが、そのあとは何もできなくなった。涙が枯れるまで、泣き、ずっと恐怖で震えていた。
(私は一人になってしまった。)
翌日、王都から魔獣兵団の援軍が来たと言われ、会うことになった。
レイとジースさんだった。
ジースさんに銀色の魔獣の説明を求められても、思い出すたびに、恐怖で震えて、話すことができなくなってしまった。
そんな、メイにレイは言った。
「メイ、切り替えよう。」
メイは切り替えることがなんかできないと思った。
仲間が死んでしまった悲しみと、魔獣への恐怖心はメイにとって立ち上がる気力を根こそぎ奪っていった。
でも、レイの話を聞いていくうちに、そのことは忘れようと決心した。
せめて、魔獣を命に代えても倒そうと思ったのだ。
でも、村で魔獣と対峙したときにはその決心も崩れた。
やはり、忘れようと思っても忘れることができなかったのだ。
メイは恐怖で体が震えて、動けなくなった。
その時、レイはメイの手に手を置いて、震えを抑えようとしてくれた。
レイは大丈夫だよ頷いてくれた。
そうしたら、自然と震えがおさまってきた。
不思議な気持ちだった。レイが隣にいるなら、大丈夫だと思うようになったのだ。
そして、魔獣を倒すことができた。
エリンのおかげの部分が大半のような気もするが倒すことができたのだ。
それで、メイはレイと一緒なら、仲間の事を忘れることができると思った。
でも、戦いが終わった後にジースさんはメイに言った。
「今回の事は忘れるな。心に刻め」
メイはもう、どうすればいいのか、わからなくなった。
忘れてしまおうと思っていたのに、忘れるなと指摘されたのだ。
(私はこれからどうすればいいのだろうか?)
魔獣を倒した後、レイと一緒にスマトラに向かうことになった。
メイはレイと一緒にいれるなら、どこへでも行こうと思った。
もう、メイにとってレイだけが心の拠り所だった。
スマトラへ行く、道中ずっとレイはメイを気にかけてくれた。
メイはレイのそんな態度にいたたまれない気持ちになった。
スマトラに着いたとき、レイは一緒に図書館へ行かないかと誘ってくれた。
でも、メイはそれを断った。今は図書館に行っても、なにも考えることなんかできないと思ったのと、レイにこれ以上惨めな姿を見せたくないという気持ちがあったからだ。
メイは一人になって公園を歩き回った。
緑があり、噴水があった。公園を歩いていたら、町の外の世界には魔獣がいないのではないかと錯覚してしまうくらいだった。
(魔獣兵団をやめてしまおうか)
メイは公園を見ながら、そんな事を考えた。
魔獣兵団はたしかに、最前線で魔獣と戦うから危険度は高い。
でも、それは魔獣兵団に入っていなくてもそれは同じだ。
アガレスト王国やスマトラのような大きな町は厳重な守りで固められているから、魔獣が攻めてきても大丈夫だという人もいる。だけど、そんなもの、いつ崩壊するのかわかったものではない。
ここ、数年で魔獣はどんどん強くなってきているし、限界はいつか来ると思っている。
それなら、魔獣兵団に入って、魔獣の戦い方を学んで、生きていくほうが、メイはいいと思っている。
それに、メイは世界中を見てみたいのだ。
国や町から外に出るときは魔獣兵団の護衛がいなければ、一般人は出ることはできないのだ。
メイは魔獣兵団に入るまではアガレスト王国から出たこともなかったのだ。
メイは3年間で色々なところに行った。たしかに、見たくないものも沢山あった。
魔獣に滅ぼされた町や村だっていくつも見た。
でも、アケ村みたいに魔獣に滅ぼされないで、生き残っている町や村もある。
現在確認されている限りでは今の所12箇所町や村が無事だとされている。
グリン隊長は口癖のように、言っていた。
まだ、確認されていないような村や町があったら、救いたいと。
メイも同じ気持ちだった。
グリン隊長が亡くなった今となってはメイはその遺志を継ぐべきではないかとも考えている。
(私はどうすればいいのだろう?)
メイはずっと、このことを自問自答し続けているけれど、答えは見つけれない。
周りを見てみると、いつのまにか夜になっていた。
でも、そのわりには明るいなと思って上を見たら、月が見えた。
今日は綺麗な満月だった。
満月を見たとき、ふと昔の事を思い出した。
メイは最初のころ、何度も失敗をして、くじけたことがあって、夜、野営していた時、抜け出したことがあった。
魔獣が出る可能性もあったけれど、どうしても、一人になりたかったのだ。
そこまで、追い込まれていたのだ。
当然ながら、グリン隊長が探しに来て、メイを怒った。
危ないだろう。でも、心配したとも言ってくれた。
そして、メイの悩みを聞いてくれて、励ましの言葉をかけてくれた。
フォローするからとか、成長できるように俺たちが教えるからとか、
ありきたりの言葉だったような気がするが、なぜか、心にしみた。
その夜がちょうど満月だったのだ。
メイはそのことを思い出して涙が出てきた。
「メイ、探したよ。」
メイは声のしたほうへ振り返った。
レイだった。レイが心配して探しに来てくれたのだ。
メイはレイが魔獣によって家族を殺されたことを知っている。
レイは学園では当初、誰とも関わろうともしないで、とにかく強くなるためだけに生きていたように感じた。でも、いつからか、克服したのか、今みたいに人に気を遣うことができる人間になっていた。
どうして、克服したのかレイに聞いてみた。
レイの答えはエリンに負けたから。そして、友達になったからだと言った。
メイはそれを聞いてびっくりした。そのあと、なぜか、笑っていた。
なんで、笑ったのか、わからない。感情がごちゃごちゃになってしまって自分が今どんな気持ちなのかもわからない。
メイはレイに言い訳した。エリンとの馴れ初めみたいな話だったから笑ったのだと。
でも、実際にはわからない。ただ単に呆れたのか、それとも、エリンに嫉妬したのか。
一つだけ思ったのは、誰が何と言おうと、レイについていこうと思ったことだけだ。
メイは保留の考え方だなと思ったけど、そう思うことにした。




