図書館
アケ村の魔獣の討伐が終わって、それぞれ、旅支度を始めた。
銀色の熊の魔獣は魔獣兵団の運搬部によりスマトラという町に運ばれる予定になっている。
スマトラには魔獣を研究するための施設がある。
魔獣を研究して、生態や弱点など調べ上げて魔獣兵団などに知らせて対策をとれるようにするためだ。
新種の魔獣は最優先に調べるべき、対象なので、必ずスマトラに送るように決まっているのだ。
エリンとはアケ村で別れた。すぐに次の任務があるそうで、旅立たないとならないそうだ。
「レイ、メイ元気でね。また会いましょう」
エリンはそう言って去っていった。
その言葉には絶対に死なないでと。言われているようにも感じた。
僕もエリンに「ありがとう。またね。」と言って別れた。
ジースさんは王都に戻らなければならないようだった。
僕もジースさんと一緒に王都に戻ろうと考えていた。
だけど、ジースさんはある提案をした。
「レイとメイには長期休暇を与えるから運搬部と一緒にスマトラに行ってこい。」
僕はエリンとの差が広がるのがいやで、現場にどんどん出て実力をつけたいと考えていた。だから、休暇なんていらないと断ろうとした。
「スマトラには魔獣に関する本が沢山保管されている図書館があるから一度行ってみるのもいいぞ。」
僕は迷った。
ジースさんも昔その図書館で魔獣の知識を身につけたんだそうだ。
ここ、ずっと実践的に魔獣の事を学んだと思うが、一度腰を据えて、本で学ぶのもいいと言われた。
ジースさんは僕の勉強のこともあるとは、思うが、一番はメイの心配をしていたんだと思う。
メイは銀色の熊の件でメイ以外の隊の仲間が全員亡くなってしまったのだ。
表面上は大丈夫なように装っているけれど、心は深く傷ついているだろうと考えているようだ。
それで、僕とメイはジースさんと別れて、魔獣兵団の運搬部と一緒にスマトラに向かうことになった。
スマトラはとても綺麗な町だった。
自然を大事にして、綺麗な町にしようと良く考えられた町だった。
王都に比べれば人通りは少なくて、賑わっているわけではない。
僕は人混みがあまり好きではなかったので、暮らしやすい環境だと思った。
大きさは直径1キロ四方くらいの大きさで王都アガレストの半分くらいの面積だ。
大きな公園があり、その奥には大きな建物があった。多分あそこが研究施設なんだと思った。
噴水があり、緑があり、とても癒される。
研究施設が先か、公園が先かはわからないが、こういうところに、研究施設があるのは正解だと思った。
日がな研究施設にこもっていると、神経がおかしくなるかもしれないが、外に出て綺麗な公園があれば、心が癒されるのではないかと思う。
さっそく、僕は図書館に行くかとメイに提案してみたが、メイは公園を見たいと言った。
「僕も付き合うか」
「いや、いいよ。ごめんね。少し一人になりたいんだ。」
僕はどう答えればいいのかわからなかったが、頷いて言った。
「わかった。じゃあ、また、宿舎で。」
この町には魔獣兵団が泊まるための建物がある。
先ほど、場所はメイと一緒に確認して荷物を預けたので、わかるだろう。
「わかった。」とメイは言った。
僕はメイと別れて図書館に向かった。
図書館はかなり大きかった。王都アガレストにもかなり大きな図書館があるけれど、同じくらいの大きさだった。
王都アガレストの図書館は魔法に関する本が多くて、スマトラの図書館は魔獣に関する本が多いのだそうだ。
僕は図書館一度見て周った。確かに魔獣に関する本が沢山ある。それだけではなく、魔術に関する本や一般的な本も少なくない数あった。どの本から見ればいいのか迷ってしまうくらいだ。テーブルと椅子があり、本を読んでいる人が何人かいた。
奥のほうまで進むと、テーブルに沢山の本が積まれているのが見えた。
気になったので、近づいて見たら、少女がいた。本で隠れて見えなかったのだ。
僕と同じ歳か少し下くらいに見える。金髪で肩まで伸ばしていた。顔は童顔で目は青色だった。背は低い。体は細身で服装は地味な格好をしていたが、彼女が着ていると見栄えが良く見えた。
僕はなぜか彼女に声をかけていた。理由はわからない。
いや、強いて言えば、どの本を読めばいいのかわからなく、彼女なら詳しそうだなと思ったからかもしれない。
「あの、今いいですか?」
少女は顔を上げて、僕を見て言った。
「何ですか?ナンパ?」
え、ナンパ? 話しかけて、少し後悔した。
「い、いえ、違います。気になったもので。」
「気になった?好きってこと?」
あ、あれ、少しじゃないな。かなり後悔した。気になったって失言だったかな。
冗談なのかなと彼女の顔を見たが、真顔だった。
僕は立ち去ろうか迷った。
彼女はそんな僕の様子を見て、少し笑って言った。
「いえ、冗談ですよ。私と同じくらいの年だったから、からかっただけです。それに、私に話しかける人なんて、あまりいませんでしたし。それで、何ですか?」
僕は落ち着こうと思った。
「実は本を探していまして、あなたなら本に詳しそうに見えたので、声をかけました。」
僕はテーブルに高くまで積まれた本と少女を見て言った。
「ふーん、どんな本?」
「新種の魔獣に関する本です。最近新種の魔獣が多く出てくるみたいなので、新たに魔獣が生まれるのはなぜなのかを知りたくて。」
エリンが最近、新種の魔獣の出現が多く、強いと言っていたので、ここに来た時には調べたいと思っていたのだ。
彼女は目を本棚に向けて、少し考えてから言った。
「ここ3年くらいに出てきたような新種の魔獣の本はないわね。それ以降なら、いくつかあるかな。新たに魔獣が生まれる理由か、ねえ、なんで、そんなこと知りたいの?」
僕は言うか迷ったけれど、彼女なら、色々知ってそうだから、話してみることにした。
「実は先日魔獣兵団の任務で新種の魔獣に出くわしたんです。それで、その魔獣が今まで会ったことのある魔獣よりも強かったんです。どうして、そんなに強い魔獣が出てくるのかを知りたかったんです。」
彼女は僕の言ったことについて考えてから言った。
「ふーん、先日の新種の魔獣といえば、銀熊の魔獣かな。」
「知っているんですか?」僕は驚いていた。
「ええ、私は研究所で働いているんだ。銀色の熊は明日見てみるつもりだけど。」
研究所の人だったのか。僕はさらに驚いた。
「研究所の人だったんですね。」
「あなたは、信じるんだね。」と彼女は言った。
僕は首を傾げた。信じる? どういうことだ?
「ああ、ごめんね。なんでもないよ。私すごく幼く見えるじゃない? それで、私が研究所で働いているって言っても全然信じてくれないのさ。まあ、私はそうゆう連中に実力を見せて黙らせてるんだけどね。あ、ごめん、脱線したかな。新種の魔獣についてだね。じゃあ、あなたはなんで魔獣が生まれるかわかる?」
僕は少し考えて答えた。
「魔獣は、動物が魔力を蓄えすぎて、抑えられなくなったら、魔獣化するっていうのは学園で学びました。」
「そうだね。じゃあ、魔力はどうゆうものだと思う?」と彼女は聞いた。
「魔力は自然の資源だと認識してます。大地や木や水などからにじみ出てきたのだと。その資源を使って僕たちは魔法を使うことができる。」
「おお、なかなか優秀だね」と少女は言って笑顔になった。
優秀だねと言われても、同い年くらいの少女に言われても、喜んでいいのかわからなかった。
少女は話始めた。
「人間は魔法を扱うことができるから、魔力によって魔獣化のような凶暴になることはない。もちろん、なかには魔法を使えない人もいるけれど、それは、もともと、魔力を蓄えることができないからなんだ。じゃあ、人間以外の動物はどうなのか、動物は魔法なんて使うことはできない。だから、魔力がたまってしまって、抑えられなくなり魔獣化をする。」
少女は考えをまとめるように、間をおいた。
「じゃあ、なぜ、魔獣によって力の大小が別れるのか、動物の種類の違いか?環境の違いか?それとも人為的なものか。」
「え、人為的なもの?」僕は口を挟んだ。
「当然、そう考えるのが妥当だと思っているよ。動物の種類の多さや、環境って急には変わらないでしょ?それなのに、最近は新種の魔獣が沢山出てきている。これは何者かが意図的に魔獣を作っているように思えてならない。」
「誰かが、意図的に魔獣を作っている?なんのために?」
と僕は聞いた。
「そんなの、ひとつだよ。魔獣が増えることで、私たち人は被害が増える。もっと大きく言い換えるなら、人類を滅ぼそうとしているのかもしれない。」
と少女は暗い顔で言った。
僕はそれを聞いて驚きを隠せなかった。信じられなかったのだ。
「なぜ、人類を?」
「それはわからない。あくまで、仮説だよ。でも、最悪の可能性は考慮したほうが私はいいと思っているよ。」




