アケ村の異変
しばらく、馬車を走らせていたら、村が見えてきた。あそこがアケ村だろう。
村の入り口で守衛が見張りをしていた。
村の守備を少し見回してみた。一応、村の周りには柵があり、必要最低限の守りはあった。大型の魔獣はこのあたりではあまり見られないが、もし、大型の魔獣に襲われたらひとたまりもないなと感じた。
ジースさんは馬車を村の前にとめて、馬をつなぐからと言ったので、
僕は守衛に村に入るための手続きをとることにした。
守衛がこちらに近づいてきて尋ねた。
「行商人かい?」
「いえ、国からの依頼で魔獣調査に来ました」と僕は答えた。
守衛の表情が明るくなり言った。
「そうですか!よく来てくださいました。」
「住民に被害が出ていると、伺ったのですが、ひどい状況なんですか?」
守衛は悲しい表情になって答えた。
「はい、たくさんの住民がやられたって話です。村でも対処しようとしたんだが、全く敵わなかったんです。」
「そうなんですね。」
魔獣ならしょうがないですよ。と言おうとしたが、守衛さんの表情を見て言うのをやめた。多分知り合いが魔獣にやられたんだろうと思ったからだ。
「それで、どんな魔獣が被害を起こしたかわかりますか?」
ジースさんが馬をつなぎ終わってから、会話に加わった。
「銀色の熊みたいな魔獣です。」
「銀色の熊?」
ジースさんはそれを聞いて少し考え込んでいた。
「はい、詳しい話は村長に聞いてほしいです。村長は今、魔獣についての情報を取りまとめているので。」
「村長は今どちらにいらっしゃいますか?」
ジースさんが尋ねた。
守衛は村のほうを見ながら、答えた。
「村長は集会場にいると思います。集会所の場所は村に入って真っすぐ奥のほうに進むと右手に大きい建物が見えます。そこが集会所です。」
「わかりました。行ってみます。ありがとうございました。」
お礼を言って、僕たちは村に入った。
「ジースさん銀色の熊の魔獣について知っていますか?」
僕はジースさんに尋ねてみた。
ジースさんは少し考えて、答えた。
「いや、うーん、知らないな。多分、新種の魔獣かもしれない。」
ジースさんは今まで出現した魔獣はほとんど知っている。僕も色んな魔獣のことをジースさんから教えてもらったので、ジースさんの魔獣の知識がかなり幅広く深いのを知っている。
新種の魔獣か。
新種の魔獣の調査は初めてだな。わくわくした気持ちもあったが、同時に不安な気持ちが沸き上がってきた。新種の魔獣はどんな行動するかがわからないのだとジースさんから教わっていた。ジースさんも新種の魔獣と出くわした時には慎重に行動して、どんな行動をするのかを見極める必要があると言っていた。魔獣の攻撃への対処を間違うと、命にかかわるのだ。
村に入ってしばらく歩いていて最初に思ったのは慌ただしい雰囲気だということだ。住民は馬車に荷物積んで、この村を出る準備をしている。早く逃げなければという気持ちがいやでも伝わってくる。かなり緊迫した状況だ。魔獣という存在はここまで人々に影響を及ぼすのだ。
歩いているうち守衛が言っていた集会所らしき、大きい建物が右手に見えてきた。
ここが集会所かな。
「失礼します。」
そう言ってジースさんが扉を開けた。
僕はジースさんとともに建物の中に入った。中の内装は王国にある大きな酒場ののようだな思った。横長のテーブルがいくつか並べられて、8人が着席していて話し合っていた。
「王国からの援軍の方ですか?」
8人のなかで一番若そうな村人の1人が席を立って入り口に近づいてきて話しかけてきた。緊張と不安からか少し顔色が悪いように感じた。
「はい、そうです」とジースさんが答えた。
若い村人の顔が笑顔になって、他の人が着席しているほうを振り向いて大きな声で言った。
「村長!王都から魔獣兵団の方たちが来ました!」
村長が席を立って急いでこちらに向かってくる。村長の顔は少し、涙ぐんでいた。
「よく来てくださいました。大変助かります!」
村長は緊張から解放されたような顔で言った。
多分、相当緊迫した状況で自分たちは何をしていいのかわからなかったのだろう。
村長は僕たちが来たことにより、緊張が少しほぐれたのだろうと思う。
村長以外の人たちも僕らが集会場入った時には暗い顔していたが、王国からの援軍だとわかったら、いくぶんか明るい顔になっていた。
村長は僕らを席に案内して村の状況を説明してくれた。
3日前くらいから銀色の熊のような魔獣がアケ村の北の森に出現したこと。
村には被害はないけれど、村の外に出てた人たちは襲われたことなどについて説明してくれた。
一通り説明を聞いてジースさんは質問した。
「銀色の熊に遭遇した人は今、この場にいらっしゃいますか?」
「はい、奥の部屋にいます。」
村長は奥のドアを見ながら答えた。
村長は一呼吸置いて言った。
「実は当初は魔獣が原因だとわからなかったです。今奥で休んでいる方のおかげで銀色の熊の魔獣が原因だと判明しました。」
「魔獣に襲われて、生き残った人なんですね。」
ジースさんは村長の様子を見て聞いた。
「はい、そうです。魔獣に襲われて生き残ったのは彼女だけです。」
しばらく沈黙が下りた。
「事情をお聞きしたいと思いますので、呼んできましょう。」と村長は言った。
「申し訳ありませんが、お願いできますか。」
ジースさんは少し暗い顔で答えた。
「クラン呼んできてもらってもいいか?」
村長が最初に僕たちの対応をしてくれた若者に声をかけた。
「わかりました。」
クランと呼ばれた若者は頷いて急いで奥の部屋に向かった。
そして、しばらくして、クランさんが彼女を連れて戻ってきた。
「ジース支部長補佐、レイ・・・」
彼女は呆然としていて、泣きはらした顔で僕らの顔を見てつぶやくように言った。
「お知り合いですか?」
クランさんが彼女と僕たちを見比べながら、聞いてきた。
「はい。彼女の名前はメイといいます。王国の学園で同期でした。」と僕が答えた。
「確か、今は魔獣兵団の補佐官だったかな。」とジースさんが補足した。
メイは青い髪で肩まで伸ばしている。
顔はかわいい感じで、学園ではモテモテだったと記憶している。
初対面の印象では、少し近づきがたいと感じるかもしれないが、学園で話してみるとそんなことはなく、明るい性格をしていた。
しかし、今のメイから、悲壮感が漂っていた。
メイは比較的動きやすそうな格好をしていて、その上から森での迷彩効果のある緑色のローブを羽織っていた。
手には青い宝石が入った杖を持っていた。確か学園では光魔法の幻術魔法が得意で敵をかく乱したりすることができる。
「メイ大丈夫か?」
心配になって僕は聞いてみた。
「・・・大丈夫」
つぶやくようにメイは答えた。大丈夫ではないなと感じた。
メイが少し落ち着いてから、みんなで事情を聞くことにした。
メイは僕の向かいの席が空いていたので、そこに座った。
「メイ。申し訳ないが、銀色の熊の魔獣について聞いてもいいか。」
ジースさんはメイが座ったの見て、聞いた。
「わかりました。銀色の熊の魔獣と遭遇したのはアケ村から見て北の森です。私たちは遠征が終わって、王国に帰る途中にこの村に立ち寄ろうとしていました。」
「私たちというのはメイの隊のものだな。」
ジースさんは確認した。
「はい、そうです。グリン隊長の隊です。」
「グリン隊長か。」ジースさんが少し気難しい顔をした。
「知り合いですか。」と僕は聞いた。
「え、ああ、そうだな。昔一緒に任務をした仲だな。魔法は並みだったけど、剣の腕がすごかったな。それに一緒にいて面白い男だった。」
ジースさんが昔を思い出しながら話した。
「はい。すごく良い隊長でした。」
メイは答えて悲しげな顔になった。
ジースさんはメイの顔を見て申し訳ないような顔になって言った。
「ああ、すまん、話を続けてくれ。」
「グリン隊は5人編成でメンバーはグリン隊長、ホーマさん、カラさん、キリアさん、私です。私たち5人は北の森を歩いていました。それで、グリン隊長が最初に魔獣がいることに気づいたんです。銀色の熊のような魔獣でこちらには気づいていない様子でした。魔獣との距離はだいたい50mほどだったと思います。グリン隊長は皆に止まるように指示を出しました。」
メイは一度間をおいて話始めた。
「グリン隊長は一度引き返そうと言いました。しかし、私も含め他の人たちは魔獣は気づいている様子ではないし、先手をとれば倒せるじゃないか抗議したんです。このまま放置するとこれから向かうアケ村にも被害が出るからと、それで、グリン隊長も仕方なくみんなの意見を尊重して倒すことに決めました。」
メイ悲しげな表情になり、涙を浮かべた。
「でも、それは、間違いでした。」
メイはこらえきれなくなって泣いてしまった。周りは沈黙した。
「メイ切り替えよう。」と僕は言った。
メイはしばらく沈黙していたが答えた。
「わかってる。」
「メイの様子を見たらわかるよ。多分、グリン隊がメイを逃がすために頑張ったんだろう。」
「ええ、そうよ。私が一番弱くて、足手まといだから。」
「違うよ。メイなら、次に魔獣と戦うとき勝てると思ったから逃がしたんだよ。」
「何を、気休めなんかいらない。」
メイは怒った顔で僕をにらみつけてきた。
「気休めじゃないよ。戦術的な話だよ。メイの力は幻術魔法が得意な魔法使いだろう。」
「だから、何よ。」
「メイの持って帰ってきた魔獣の情報がある。メイの幻術魔法は敵をかく乱してこちら側の有利な戦術で仕掛けることができる。それに幻術魔法を使える魔法使いなんて、ほとんどいない。」
「私には希少な力があるから、生かしてもらえたって言いたいの?」
「冷たい言葉だけど、そうだよ。僕たちの役目は魔獣を倒して住民を守ることにある。だから、後悔するのは魔獣を倒してからだ。」
冷たく言い過ぎたかなと思ったけれど、逆に暖かい言葉をかけてもメイの気持ちは切り替わらないかなと思ったのだ。
メイはしばらく、呆然としていたが答えた。
「わかった。」メイの顔には涙が消えていた。
メイは話を続けた。
「魔獣を倒すと決めた私たちは、まず、先手を取るために遠距離から魔法を撃ち込むことに決めました。私とカラさん、キリアさんで魔法攻撃を仕掛けて、魔法攻撃で仕留められなかったら、次点でグリン隊長とホーマさんの近接攻撃で仕留める戦法で行きました。それで、私たちは魔獣に魔法を撃ち込みました。」
メイは間を置いた。
「でも、魔獣には避けられました。最初から気づいていない演技だったのか、魔法を撃って気づいて瞬間的に避けたのかはわかりません。私たちは驚きました。それでも、グリン隊長は違いました。避けられたのがわかって、冷静に判断して、魔獣の死角から剣で攻撃をしました。しかし、その攻撃も避けられました。」
メイは話を区切った。メイを見ると震えていた。
「感知能力が高く、かなり速いようだな。」とジースさんは言った。
「はい。どのような感知能力があるのかはわかりませんが。」
「聞いた話からすると、においかな。死角からの攻撃も避けたということは目に頼っていないということだと思う。それに、最初に魔法攻撃を避けたのも気づいてないふりをして油断させたとしたら、相当賢い魔獣だと思う。」
考えながらジースさんは言った。
「ああ、すまん、話を続けてくれ。」
ジースさんはメイに話を促した。
「はい。グリン隊長の攻撃を避けた後、魔獣はホーマさんに突っ込みました。ホーマさんはとっさにガードしようとしましたが間に合わず、魔獣の爪でやられました。そして、今度はグリン隊長を無視して、私たちのほうに向かってきました。私は姿をわからなくする幻術魔法を使いましたが遅すぎました。次にやられたのはカラさんです。爪で切り裂かれました。その次に私に突っ込んできました。」
メイはかなりおびえていた。その時のことを思い出しているのだろう。
仲間が次々にやられて、気が動転していたんだろう。
それでも、ホーマさんがやられてメイたちに魔獣が向かってきても幻術魔法を使ったのはさすがだと思った。
「しかし、私は助かりました。キリアさんがとっさに私を突き飛ばしたからです。でも、キリアさんは魔獣に嚙まれて、下半身がなくなりました。その間にグリン隊長が追い付いて魔獣を抑えました。そして、私に言いました。魔獣は抑えるから逃げろと。援軍呼んでこいと。」
メイは呆然して目が虚ろになっていたが言った。
「私は恐怖からか、指示に従いました。指示に従ってしまいました。グリン隊長を置いて逃げました。幻術魔法を使って、姿を消して逃げました。そして、私はアケ村にたどり着きました。話は以上です。」
周りは静まり返っていた。メイの目には涙を浮かべていた。
「報告ありがとう。よく生きて帰ってきた。」とジースさんは言った。
「でも、私は逃げました。」メイは泣きながら言った。
「いや、さっきレイも言ったことだが、この情報は次につながる。俺たちで魔獣を倒そう。」
ジースさんは明るく答えた。




