馬車移動
アガレストへは馬車が2台あったので、僕たちも馬車に乗せてもらって移動することになった。
2台の馬車にそれぞれ、僕、エリン、メイ、リノンが1台目に乗り込み、キョウさん、ハルさん、ギランさん、もう一人名前がわからなかった女性が2台目に乗り込んだ。名前のわからなかった女性はさっき名前を聞いてエナさんだとわかった。
僕とメイは昔からのエリンの友達だから、キョウさんが配慮して僕たちとエリンを同じ馬車にしたようだ。
先頭をキョウさん達が馬車で走って、僕たちは後方からついていく流れとなった。
複数の馬車で移動するときには決まりがある。
先頭で馬車で走るものの役割は魔獣をいち早く見つけて、後方に知らせる必要がある。だから、必然的に魔獣を見つけるための技能を身につけたものが先頭を走るのが決まりなのだ。
先頭をキョウさんたちが受け持つ理由はエナさんがいるかららしい。
エナさんは目が良くて魔獣を発見するのが抜群にうまいのだそうだ。
エリンの隊は本当にスキのない良い隊だと改めて思った。
「後方からも魔獣が来るかもしれないから、気をつけろよ。」
キョウさんはそう言って、馬車に乗り込んで、出発の準備に取り掛かった。
僕たちも馬車に乗り込んで出発の準備をした。
エリンが馬車を操り、僕は隣に腰掛けた。メイとリノンは荷台に座った。
馬車の操縦はエリンと僕で交代で操縦する予定だ。
キョウさんが馬車で移動し始めたのを見て僕たちも移動を開始した。
馬車は街道を通って、アガレストに向かう道筋だ。
魔獣は少ないと言っても気をつけねばならない。
僕はエリンに馬車での移動中に黒フードの人の目的についてを話してみた。
「これは、あくまでも推測なんだけど、さっき話した黒フードの人の目的は魔獣を使って僕たち人類を滅ぼすことなんだと思う。」
エリンはそれを聞いて、考え込む表情になった。
「信じられない、話だけど、レイが言うなら本当なのかな?」
「信じてくれるのはうれしいけど、あくまで、推測なんだ。でも、僕はなんて言えばいいのかわからないけど、嫌な予感みたいなもの感じているんだ。」
「レイのこういう推測とか、直観って昔から当たるのよね。だから、私も信じられる。」
とエリンは笑顔で言った。
僕はそれを聞いて、気恥ずかしくなった。
エリンは昔から、こう言うことを平然と言う。
僕のことを信じてくれるのは正直うれしい。でも、面と向かって正直に話されると恥ずかしい気持ちになる。
学園のときに慣れたと思ったけれど、そんなことはなかったなと考え直した。
「実は私も思うところはあるんだよ。以前アケ村で話した新種の魔獣が増えているって話なんだけど、今回行ったノア村でも新種の魔獣が出たのよ。あのアケ村で討伐した銀色の熊の魔獣が出たのよ。」
「そうなのか。」
僕は驚いた。
「だから、新種の魔獣が大量に出現するようになったことと黒フードの人出現が無関係とは言えないと思う。」
「僕たちはどうするべきだと思う?」
「わからないわ。でも、黒フードの人が元凶なら倒すしかないでしょ。」
エリンはそう言って、馬車の手綱を強く握った。
手綱を握った手は震えていた。怒りがこみあげているようだった。
移動してしばらくしてから、先頭を走っているキョウさんの馬車から火の魔法が空中に放たれた。魔獣を発見した合図だ。
馬車でしばらくは走らせていたが、キョウさんは馬車を停めた。
基本的には馬車で逃げられるなら逃げるのが通常だ。でも、キョウさんが馬車を停めたということは逃げられないと判断して、撃退を選んだのだろう。
僕たちもキョウさんの馬車の近くに馬車を停めて、馬車から降りた。
キョウさんたちのほうを見ると、既に馬車から降りていて、戦闘態勢に入っていった。
僕たちも戦闘の準備を手早く済ませて、キョウさんたちと合流した。
キョウさんの隊はエリンとエナさんが前衛で剣を構えていた。キョウさんとハルさん、ギランさんが後衛の配置だ。僕とメイも後衛で杖を構えた。リノンはさらに後方にいて、身を守るために薬品を手に持っていた。なんの薬品かはわからないけれど、きっと、魔獣の足止め用に使える薬品なのだろう。
前方から来るのは黒狼12匹だった。結構な数だ。
距離はもう100m程まで、迫っている。黒狼たちは僕たちを取り囲むように広がって突っ込んできている。
メイはまず、先手に、黒狼の団体のちょうど、中央あたりに光魔法の閃光を放った。中央あたりは光に包まれて、キーンと音が響き渡った。中央にいた6匹の黒狼が目と耳が使えなくなり動きを止めた。
僕はそこに闇魔法の重力場を全力で叩き込んで、中央にいた黒狼6匹を押しつぶした。
黒狼はぺちゃんこになって、動かなくなった。
事前にメイと話し合って考えた連携攻撃だ。
残りは左辺と右辺に3匹ずつの合計6匹となった。
キョウさんたちは驚いていた。
通常の魔法使いの魔法飛距離はだいたい50mくらいなのだ。
僕とメイがそれよりも倍の距離から魔法を当てたことに驚いているようだった。
これは、僕とメイの実力というよりもリノンからもらったマウの手袋のおかげともいえる。
マウの手袋の力で魔法の飛距離を伸ばした結果なのだ。
それに続いてエリンも風魔法を放って、左辺にいる黒狼を1匹ずつ切り裂いて真っ二つにしていった。エリンも魔法飛距離はとても長い。100m以内の距離であれば、正確に魔法を当てることができるのだ。それにエリンの魔法を撃った後の次の魔法を撃つ間隔がとても短い。
そのため、黒狼を1匹切り裂いたと思ったら、もう次の魔法を撃てる状態を作って、すぐに次の黒狼へ撃っているのだ。あの魔法発現速度は異常だと感じた。
エリンは左辺の3匹の黒狼を倒した。右辺の残り3匹となった。
ハルさんとギランさんも負けられないという表情で、火魔法で直径50㎝火の玉を作ってそれぞれ、右辺にいる黒狼を1匹ずつ倒した。
残り一匹は前衛近くまで迫ってきて、エナさんに襲い掛かった。黒狼はエナさんに噛み攻撃を仕掛けようとしていた。エナさんはその攻撃を落ち着いた様子で黒狼の噛みつき攻撃を見切って、横腹を切り裂いた。
黒狼は切り裂かれてもまだ動けるようでよたよたと歩きながらエナさんに次の攻撃をしかけようとした。でも、その様子は瀕死の状態で最後の悪あがきのような攻撃だった。それをエリンはさせる暇を与えなかった。エリンは攻撃をさせる前に背後から黒狼の心臓へ剣で突き刺してとどめを刺しのだ。黒狼はこの攻撃によりこと切れて倒れた。
キョウさんは12匹の黒狼を倒されたのを見て、笑顔になって、「私は何もする暇はなかったよ」と誇らしげに言った。
僕たちは黒狼が死んだのを確認して、その場を後にした。
こちらの被害なしで、12匹の黒狼を討伐したのだ。かなりの大戦果だと思う。
このメンバーなら、案外楽に切り抜けられるのかもしれないな。
そう思って、僕たちは馬車で移動を開始した。
でも、その考えは甘かった。
馬車移動の最中、黒狼の群れの遭遇はこれだけではなく、そのあと何回も続いた。
「普段、このへんでは、黒狼なんて滅多に出ないのになんでこんなに出るのかしら?」
戦闘終了後、エリンは馬車に乗り込んでからつぶやくように言った。エリンの表情は暗かった。エリンだけではなく、メイもリノンも、表情が暗かった。それにかなり疲労している様子だった。エリンはまだ、余裕があるのか疲労している様子はない。
「やっぱり、異常だよな。」と僕は言った。
本当に何が起こっているんだ?
今のところこちらの被害はないけれど、こんなことを何回も続けていたら、疲弊の具合から絶対に判断ミスが生じる。
一度休憩したいけれど、この場で休憩したとしても、いつ、また、黒狼に襲われるかがわからない。心と身体が休まらなければ、休憩しても意味がそれほどない。
それに、アガレストもこのような黒狼の群れが大量にいる状況であれば、一刻も早くアガレストに向かうほうがいいのか?
わからない。
そんな考え事をしていた時、先頭の馬車から空の上へ火の魔法が放たれた。
魔獣の出現だ。
キョウさんたちは馬車から降りて戦闘準備に入った。でも、その表情は疲労の色が濃かった。
今度の敵は黒狼20匹だった。今までよりも多い。アガレストに近づくほどに敵の数が多くなってきている。
僕たちも戦闘準備をして、後方から黒狼へ魔法攻撃を放った。
僕たちは後方から魔法で10匹を仕留めることはできたけれど、10匹に接近を許してしまった。
皆、やっぱり疲労がたまってきているのだ。動きが鈍ってきている。
残り10匹を前に出てエリンとエナさん、キョウさんが剣で応戦した。
僕たち後衛は一度後ろに下がった。
魔獣兵団ではそれぞれ、戦いのスタイルが違う。
魔法を重点において戦う魔法使いは基本的には近接の戦闘はあまり得意ではない。
なので、敵に接近されたら、基本的には一度下がって態勢を整えて戦うのだ。
でも、態勢を立て直すための時間を与えてくれないような強大な敵に出くわす場合もある。
その時は、態勢立て直すための時間を稼いでくれる人が必要なのだ。
今その役割を担っているのは、前衛で剣を振るっているエリンとキョウさんとエナさんだ。
エナさんは自分の目の良さと剣の腕の良さを生かして黒狼次々に倒していっている。
一方でエリンやキョウさんは魔法も剣も両方使うことが出来て、前衛、後衛をどちらもできる人もいる。その人たちは状況に応じて戦い方を変えて戦ってくれるのだ。
それでも、対応できない敵もいる。
今がその時で、エリンたち3人では対応できずに、3匹ほどが前衛を抜けて後衛の僕たちに向かって突っ込んできたのだ。
ハルさんとギランさんはさすがに、慣れているのか、すぐに魔法を完成させて、突っ込んできた黒狼に火の魔法を当てて、一匹ずつ仕留めた。
でも、最後の一匹が僕たちを抜けて、最も後ろにいたリノンに向かって、突っ込んでいった。
リノンはそれを見て、薬品を黒狼に向かって投げつけた。だが、黒狼はそれを見て、横に飛んで避けてしまった。避けらてもリノンは焦ってはいなかった。
その薬品は地面にあたって爆発したのだ。その爆風によって黒狼は吹き飛ばされた。でも、その爆風は威力が大きすぎるのと、近くで爆発したせいで黒狼だけではなく、リノンも吹っ飛ばされてしまったのだ。リノンは爆風で3mほど、後ろに吹き飛ばされて、背中から落下した。
「リノン!」と僕は叫んだ。
僕はすぐにリノンのもとへ駆け寄った。
メイも水魔法で、吹き飛ばされた黒狼を凍らせてとどめを刺して、リノンもとへ駆け寄った。
僕はリノンを抱き起した。リノンは、意識はあるようで、虚ろな目をして、「大丈夫よ」とつぶやいた。そして、なんとか立ち上がった。でも、リノンは少しよろけてしまったようで、転びそうになった。そんなリノンに僕は抱きついて支えてあげた。
リノンは少しばつの悪いような表情を作り、恥ずかしそうに「ありがとう」とつぶやいた。
そんな僕たちをメイは心配そうな顔で見ていた。でもその顔は少し赤かった。
傍から見たら確かに、抱き合っているように見えるかもしれない。
僕も少し恥ずかしくなった。
僕はリノンに肩を貸して、皆もとへ向かった。
他の皆は黒狼を全て、討伐したようだった。
他の皆はリノンの様子を見て、心配そうな表情を作った。
「リノン、大丈夫?」
エリンは心配そうな表情で僕とリノンの傍に近寄って、ケガの具合を見ながら聞いた。
「大丈夫よ。転んだだけよ。」とリノンは元気よく答えた。
リノンは少し歩きづらそうにしていた。背中から落ちたのだ。きっと背中を痛めているのだろう。
キョウさんはその様子を見て考え込んでいた。
「もう少しでアガレストに着くがどうするかな。」とキョウさんは言った。
どうするかなというのは、リノンのケガしている状態で、このままアガレストに向かっていいのだろうかと考えているようだ。仮にアガレストに着いたとしても安全とは言えないのだ。
今動きの鈍い、リノンが黒狼みたいな魔獣に襲われたら、危険だ。
「大丈夫です。このまま、向かいましょう。今この場にいても危険なことに変わりありません。それなら、安全かもしれないアガレストに向かったほうが何倍もいいです。」
リノンはキョウさんに抗議した。
キョウさんはしばらく、考え込んで言った。
「わかった。確かにその通りかもしれない。なら、レイ、メイ、リノンを頼んでもいいか?」
「「了解です。」」と僕とメイは返事をした。
「メイ、戦闘が始まったら、リノンを幻術で隠してほしい。」
と僕は言った。
「わかった。」とメイは頷いた。
メイの幻術があれば、余程のことがなければ大丈夫だろう。
リノンはばつの悪そうな顔で、申し訳なさそうに言った。
「足手まといになってごめん。」
「そんなことないよ。さっきの黒狼が突っ込んできたときの対応はすごかったよ。」
僕は正直な感想を言った。リノンの対応が間違っていたら、もしかしたら、切り裂かれていたのかもしれないのだ。それに、もともとは僕のミスだと思った。黒狼をリノンのいるほうへ行かせてしまったのだ。本当はリノンに僕のせいでごめんと言いたかったけれど、リノンは気を遣われすぎるのを嫌うので、口には出さなかった。
「アガレストまであと少しだ。気を引き締めていこう。」
キョウさんは皆に号令した。
僕も気合をいれていこうと思った。




