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逃走そして地下道へ

リノンは夜の公園を歩いていた。

リノンは、仕事が夜遅くなる時は公園に出て、リフレッシュする。

公園で歩きながら、物事を考えていたら、いいアイデアが浮かぶことがあるからだ。

それに、1日中研究所にこもって、作業するのはなかなか、骨が折れるのだ。


リノンはいつも、夜遅くまで、作業をしているわけではないが、今回運び込まれたギングマの研究を早く終わらせたかったのだ。


今、レイやメイがマウの手袋を使って訓練している。きっと、改良点が出てくると思う。改良点があれば、リノンは改良したかったのだ。


リノンが改良する段階で、手が空いていない事態は避けたかったのだ。

そのため、リノンは連日研究所で働きづめだ。


でも、この魔獣研究という仕事を苦痛とは感じない。

リノンは心底、研究することが好きなのだ。


リノンはそろそろ、研究所に戻ろうかと思ったとき、空が光輝いた。そして、キーンって音が鳴り響いた。リノンは光った空を見て、これは魔法だと思った。


(この魔法は光魔法? ということはメイが撃った?)


リノンは、はっとした顔になった。たしか、空に魔法を撃ちあげることは、魔獣兵団では何かの合図に使うと聞いたことがあった。それは、危険が迫っているという合図か、敵がここにいるという合図。


(どっちだろう?)とリノンは考えた。

でも、敵がいても私にできることなんてなにもない。


なら、研究所に急いで、戻って皆に危険が迫っていると知らせたほうがいいのだろう。

こうして、リノンは急いで、研究所に戻ったのだ。


一方そのころ、僕とメイは訓練場から研究所へ行く道を全力で走っていた。

今のところ、追手はいない。

オオカミの一団に追いつかれたら、僕とメイは助からないだろうと思った。

僕もメイもさっきの魔法で魔力を使い切ってしまった。

戦う手段がもう、ないのだ。

だから、体力が続く限り全力で走った。


僕もメイも魔獣兵団で鍛えられているから、体力には自信はある。

研究所までならなんとか体力はもつと思う。

それでも、オオカミの足は速い。

人間の速度はオオカミの速度に劣るのだ。

僕は願った。追いつかれないでくれと。


結局は追手はなかった。


僕は、研究所に着いて、ほっと息をついた。

いや、まだだ。まだ、終わっていない。これからが正念場だ。

緊張を解いていい場面じゃない。


僕たちは研究所の入口から中に入った。

建物の中の入口近くにはナジュさんとリノン、あと他の研究員の10人ほどが、待っていた。


リノン達が僕たちに気付いて近づいてきた。


「さっき、光魔法が見えたけど、なにかあったの?」

とリノンは少し焦ったような表情で聞いた。


僕はさっきあったことを手短に話した。


訓練場で黒フードの人が黒狼を50匹ほど魔法で召喚したこと。

もしかしたら、この町を攻めるつもりでいるかもしれないこと。

そして、その目的は研究所かもしれないことなど。


研究員達は誰も、信じなかった。でも、ナジュさんだけは信じてくれた。


「なら、大事な研究データだけ持って逃げるべきだね。黒狼50匹がこの町に入ってきたということなら、町の自警団だけでは、対処は不可能だろう。」

とナジュさんは提案した。


町の外と中では守りやすさが段違いだ。町の外からであれば、高い壁、堅固な門があるので、魔獣の攻撃は届かない。魔獣を町の中にさえ入れなければ、遠距離から一方的に攻撃することが出来るのだ。


だが、町の中に魔獣を入れてしまったら、その優位性がなくなる。魔獣と正面から戦わないとならないのだ。魔獣兵団の精鋭であれば、ある程度戦うことが出来るとは思う。

でも、町の自警団では、難しいと思う。


ナジュさんは他の研究員に急いで逃げる準備をしろと指示を出した。


「信じるんですか所長?」


「嘘を言って、私たちがいなくなってから、研究データを盗むんじゃないんですか?」


他の研究員達はさっきの話が信じられなくて、騒ぎ始めた。

やはり、信じられない話だよなと思った。その場で見ていないと信じられないだろう。


騒ぎ始めた研究員にナジュさんは一喝した。


「うるさい!はやくやれ!こんな荒唐無稽な話が嘘なわけないだろう!いいから言うとおりにしろ!」


他の研究員達はナジュさんの一喝で緊張したような表情になった。でも、まだ、信じられないのか、研究員たちはもたもたしていた。


もたもたしている研究員にナジュさんは怒鳴った。


「死にたくないなら、急げ!」


その言葉で研究員たちは目が覚めたような顔になり、急いで逃げる準備に取り掛かった。

ナジュさんはそれを見て、まったくとつぶやくように言った。


僕はこの場が落ち着いてから、ナジュさんに言った。

「町の住民にも知らせたほうがいいと思います。」


「そうだね。それなら、」


ナジュさんは急に話を止めて、入口の近くにある壁まで走った。そして、壁に隠されていたボタンを押した。入口のシャッターが閉まり、研究所が閉鎖されていく。緊急用の防犯機能を作動させたようだ。


「なにかが、研究所の敷地内に入ってきたようだね。さっき言っていた魔獣かな?」


ナジュさんはどのような方法かわからないが、魔獣が近くまで来ていると感じているようだった。


ナジュさんは僕たちのところまで戻ってきて言った。


「君たち二人はリノンを連れて、今すぐにでも地下道からこの町を出てほしい。」


「地下道?」と僕はナジュさんに聞いた。


「緊急避難用に作られた道なんだけど、この研究所の地下から町の外の南の森までつながっているんだ。」


「え、ナジュさんたちはどうするんですか?」


「私はこの町の住民に放送して、避難するように伝えるよ。他の研究員も逃げる準備ができたら、地下道から逃げるから大丈夫だよ。」


「僕も残って、手伝います。」


魔獣に襲われる可能性が高いこの場所は、すぐにでも、戦場になるはずだ。

それに、この防犯機能だけでは、そう長くは持ちこたえることはできないはずだ。

魔力切れの僕がいても、戦力になるか、わからないが、いないよりいたほうがいいだろうと思った。


「いや、君たち二人はリノンを護衛として守ってあげてほしい。」


ナジュさんはそう言って、僕とメイ、そして、最後にリノンをそれぞれ見た。


「でも、魔獣が研究所に入ってきたら、どうするんですか?それに町の住民の避難のことも心配です。」と僕は言った。


ナジュさんは困ったような顔になり、言った。


「それは、なんとかするよ。この防犯機能も簡単には破られないから大丈夫だよ。それに、町には魔獣兵団の兵士が何人かはいるからそんなに心配しなくてもいいよ。逃げるだけなら、なんともない。だから、君たちはリノンを守ってあげてほしい。」


僕はまだ、納得はできなかったので、反論しようとした。

だけど、ナジュさんの目を見て、言葉が出なくなった。

その目はここは何とかするから、リノンを頼むと言っているように見えた。

でも、本当にいいのだろうか?魔獣兵団は市民を魔獣から守ることが使命だ。

それなのに、僕だけが、先に逃げてもいいのだろうか?

そんなことを考えていたら、ナジュさんは話を続けた。


「待ち合せを決めておこう。この近くならアケ村が近いから、そこで、落ち合おう。」

とナジュさんはリノンを見て言った。


「わかりました。すぐに来てくださいね。」

とリノンが心配そうな顔でナジュさんに言った。


「ああ、心配するな。やるべきことをやったら、すぐに行く。」


僕は悩みに悩んだ結果、ナジュさんの選択に従うことにした。

ナジュさんのことも心配ではあったが、メイ、リノンのほうも心配だったのだ。

もし、地下道の抜けた森で、魔獣に出くわしてしまったら、メイとリノンだけでは対処できないかもしれない。それなら、僕も一緒にいたほうがいいのだろう。


こうして、僕とメイとリノンで地下道に向かうことになった。


地下道は1階にある地下へ降りるハシゴから行く必要がある。

リノンは床に手を当てて手探りで探し始めた。


そのハシゴは巧妙に隠されているらしい。

リノンはようやく、当たりを見つけたようで、床の床板を外した。


見つけたハシゴはいかにも古びていた。そして、ハシゴの先は真っ暗だった。


「誰か、使った人はいるのか?」と僕はリノンに聞いてみた。


「知らないわ。場所だけは聞いていていただけだし。」


多分、僕が先に行ったほうがいいのだろう。僕は魔力蛍光灯をリノンに渡して言った。


「とりあえず、僕が先に降りるから、リノンは明かりを下に照らしていて。降りても大丈夫そうだったら、声をかけるから、待ってて。」


「気を遣わなくていいのに。」とリノンはつぶやくように言った。


僕は聞こえないふりをして、先に降りっていった。

僕は壊れないこと祈りつつ、一段一段ゆっくりと降りっていった。

ハシゴは古びていたけれど、作りはしっかりしていた。

僕は問題なく下まで、降りきった。高さはだいたい4~5mくらい。


「大丈夫。降りてきて。それなりの高さだから気を付けて降りてきて。」と僕は叫んだ。


リノン、メイの順に降りてきた。


「一応、床板は元に戻しておいたよ。」

とメイはリノンに聞こえないように僕に小声で言った。


僕は、頷いた。多分、そのほうがいいのだろう。もしものためにも。

もしものためというのは、敵がこのハシゴを発見して、僕たちを追ってくることだ。

とりあえず、床板を元に戻しておけば、地下道があるとは気づかないかもしれない。

でも、それは、ナジュさん達が魔獣に襲われて、ハシゴが使えなかったことを想定しての事だ。ひどい想定だと思う。


だけど、僕はこの想定が間違っているとは思わない。

それぐらい、慎重進めていかないと、生き残れない環境に身を置いているからだ。

だから、これは危険察知能力みたいなものだと思っている。


地下道は真っ暗だったが、明かりのおかげである程度は見渡すことはできた。

道幅は2mくらいで、決して、広くはなかったが、問題なく通れると思った。

僕たちは注意しながら、歩みを進めた。


歩く順番は僕が先頭で、次にリノン、メイの順で進んでいった。

僕が前で、メイが後ろでリノンを守る配置だ。

リノンを守ってほしいとナジュさんと約束したので、果たそうと思ってのことだ。


リノンはこの配置にも不満なのか、つぶやくように言った。

「気を遣わなくていいのに。」


「リノンを護衛するようにってナジュさんと約束したからな。」と僕は言った。


リノンは納得いかなかったのか、不満そうな顔だった。


僕は、はあとため息をついた。

多分リノンは気を遣われるのがいやなんだろう。

まあ、でも、リノンにどう思われても進むしかないのだ。

とりあえず、何があっても、対処できるように慎重に歩みを進めようと僕は思った。

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