カラマテヨ
ズギュン
一発の弾丸で、闇に葬られた出来事であった。
「これで証人は消えた」
殺人事件というただ一人の事ではなく、大勢の命が関わるほどの秘密を明かそうとした、正直者の口を封じた。
こちらに都合の良い事だけをすればいい。
語るんじゃあない。
◇ ◇
「ふあぁっ……あー……」
欠伸をする幼き少年のいる部屋は、世界中の情報を細かに取得できるように、ほぼ360度、覆いつくするようにモニターが繋がれていた。まるでプラネタリウムのように。
今、色々な情報が錯綜しており、我が国家機密を盗もうとしている存在がいるようだ。……というより、いるのだ。そんな国家機密を守るために、この少年が存在する。それもタダの少年ではない。
ブィィィッ
「ラブ・スプリング様。報道官から……」
「分かってるよ、ギーニ。僕も出るよ」
この特別な部屋に直通するエレベーターから降りて来た秘書のような存在、ギーニと一緒に上に向かう。
「大国で自由の国は大変だよね。毎日のように情報戦から電脳戦、領海、宇宙に……色んな戦争で周りの小国と戦わなきゃいけないんだから」
「国防とはそーいうものです。それと、口も過ぎますよ、ラブ・スプリング様。アメリカの”守護神”」
自由を示すには未来永劫、絶対的な強さがいる。
人の支配、法の支配、権力の支配。
様々あれど、支配にも征服にも恐れるほどの強さがある。その中でラブ・スプリングという少年は人を越えた存在として、創られたこの地球上で一体しかない。
大国を支配している、ロボットである。
人の老いを持たず、時代の中で生きることができ、人を超える情報容量を持ち、人のように判断も行える人工の感情も持つ。当然、一個人で使用して良いモノじゃない戦闘力も兼ね備える。
国にいる人々の平和のため、ロボットが人間の管理を行っているという裏の正体。
彼自身も国家機密に値する。
上に達したところで、アジア系のボディガードである山寺光一がラブ・スプリングの傍につく。その彼にこの国で起こっている出来事を、冗談っぽく話す。
「酷いよねぇー。人権差別とか、本人の家族や親戚への嫌がらせとかー、……人としてやるかな?普通」
「お前はそもそも人間じゃねぇーじゃん」
「酷い。僕はロボットでも人間を幸せに管理するためにある存在なんだよ、光一!」
「そーいう言葉選びがちょっと疑っちまうよ」
「おふざけしてないで、各州の暴動を止めないと余計な血が流れるだけです。この暴動は明らかに敵国からの侵略行為の足掛かりだと、証拠も掴んでおります。国内の大企業と富豪層にも繋がりが……」
「まーまー。そう熱くならないでいいよ、ギーニ」
”守護神”
政治的な関与でも、軍事的な関与でも……あらゆる事が、このアメリカのために働く彼の存在。
自国で起こっている政府に対する暴動の裏に、敵国の影。
「え?こんな事をメディアに言うんですか?」
「うんうん」
「大変な事になりますよ」
「今、国内が大変な事になってるじゃん。僕って、虐殺する戦争は好きじゃないんだ。向こうの気持ちも考えているよ」
「白々しいんだけど……」
証拠を揃えたという自信があり、メディアはその証拠の提出を求めた。世間に証明しろと。
それ別にあんた等に見せなくていいじゃん。裁判所でよくね?
……敵国の影がこーいうところまで伸びているというわけか。
そんなわけで。
政府からメディアに伝える報道官は
「〇✖◇社の息子さんにこんなスキャンダルがあり」
!?
「大企業は〇〇〇との繋がりを証言。動画で収めていますし、証拠も押収してます。ここにはないんですけど、〇✖◇社のここらへんに証拠の動画があって」
!???
「メディアの■■■が敵国から献金をもらっていると、政府に証言する者達が複数。人物の名前を読み上げますね」
分かりましたよ。私達が掴んでる証拠を全部言いますよ~って、ラブ・スプリングが集めた情報をメディア様に伝えていく。
証拠がいくつもあると言い、それを辿れば敵国の事が分かる。無論、それを許すわけもない。静かなる侵略こそ、支配に必要なもの。証拠、証言、証人をもみ消す。
一般人の方は知らなくて、良し!
「ちょっと、待ってくれ!」
「何かの間違いだ!!」
「五月蠅い!裏切り者が!!」
「証拠を消せ!!」
語る者がいなければ、裁判をしようが無意味。むしろ、暴動を増幅させる事になる。
死人に口なし!!……わずか2日で、政府がメディアに伝えた証人、証拠などは闇に消えてしまった。
ズズズッ
熱い日本茶を飲みながら、世界中の情報をとれる部屋でその事を知ったラブ・スプリング。まぁ、こーなるだろうと分かっていた上で、証人を消すという行為をした連中の尻尾を光一達に捕ませてはいた。
さらにこれまた事実な虚偽だが、
「ごめんなさい。2日前に証人とか証拠をメディアに伝えたんですけど、8割方間違いてました(笑)。ごめんなさ~い。証言も何も持っていません。裏切り者とか言ってごめんなさい。死んじゃって可哀想(笑)」
「正義はあるのか、この政府!!」
「あなた方の嘘でまかせで、亡くなった方がいるんですよ!」
「責任をとれ!」
巨大な組織が襲って来ている。
だが、組織の末端を制御するには至っておらず。降ろすべき政府の言葉を信じ、証人達と証言を消してしまった。だって、自分達が捨てられると思ったからだ。
だが、ただの同士討ちであると気付いた時、遺体になる者と刑務所に入れられる者に……。
暴動を扇動していた者達の大半がこの似非の発言で災難に遭った。
そして、
「メディアなんですから、真実をしっかりと調査して報道しましょうね。あなた方は、私達が嘘つきとか私達に有りもしないニュースを、国民に向けて大袈裟に伝えている側なんですから」
「!……………」
「あなた方を真似ただけですよ。そこまで訴える事じゃないでしょ?ちゃんと証人も証拠もありますし、亡くなった方が誰に殺されたかも掴みましたから」
まぁ、国民からの信頼を落とす結果にしたが。
不思議な事にこの出来事から、政府への暴動は一気に落ち着いた。