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第4話 灰色建設の社員

 灰色建設の管理職には、あり得ないメンバーが揃っていた。

 彼らも、その多くが氷河期世代の人間であり、そうでない者は、昭和からサラリーマンだった者達である。

 そんな管理職達は、灰色建設を支えながら、間違った方向に導いていた。


 既に中年にもかかわらず、週1日の休みで、連日の長時間残業をこなす体力。

 驚異的なパワハラ耐性。

 休日でも仕事のことばかりを考えて、自ら勉強する向上心。

 平社員と同じような仕事であれば、平社員の何倍もやってのけるスキル。

 常に人手不足だが、足りない分は、自分が残業して補う。

 社長からの強烈なパワハラに慣れているために、自分のパワハラを、パワハラだと認識していない。

 部下が退職することに慣れているせいで、部下が辞めても、心を痛めることがない。

 仕事を教えても、部下がすぐに退職してしまうため、管理職であるにもかかわらず、部下を育てる能力に乏しい。


 彼らは、各々が、大会社の社員として通用しそうなほどの体力とスキルとメンタルを保有していた。

 だが、人の上に立つための能力は、皆無に近いと言うべきレベルだった。

 客観的に見れば辞めた人の方が正しくても、「あいつは駄目な奴だった」「うちはブラック企業じゃない。言いたい奴には、勝手に言わせておけばいい」などという態度である。

 そうして、数ヶ月おきに部下が変わる、人材の自転車操業を続けていた。


 まさに、この社長にしてこの管理職あり、といったところだろう。

 だが、こんな状態を生み出した原因である社長は、必ずしも、管理職達のことを良く思っていなかった。

 世間の目は厳しくなっており、法改正が数年後に迫っているため、こんな状態がいつまでも続いては困るからだ。


 民事であれば、訴えられても、交渉次第でどうにかできる。

 しかし、刑事事件化すれば、最悪の場合、社長は刑事罰を受けてしまうのである。

 それは絶対に避けたい、と思うのは当然だろう。


 問題は、法改正の前にもあった。

 管理職達は、既に中年以上の年齢である。

 いかに彼らが体力に恵まれていても、若い頃と同じ感覚では、必ず限界が来る。

 万が一、病気で倒れて死んでしまったら、遺族から過労死として訴えられるリスクは、決して無視して良いものではなかった。


 そもそも、管理職に仕事が集中しているために、彼らの代わりができる社員はいないのだ。

 誰かが倒れたら、確実に仕事が回らなくなる。

 それは、深刻なリスクだった。


 年末と決算期を除き、残業時間は、管理職も含めて月に45時間以内。

 それが、実現可能であれば、達成しておきたい基準なのである。


 社長は、状況の改善を何度も命じていたが、人手不足の状況は、一向に変わらなかった。

 何故なら、せっかく夜の残業を減らしても、管理職の早出残業が増えただけだからだ。

 灰色建設の管理職が、社長の顔色ばかり伺って、帳尻合わせを繰り返してきた結果だと言えるだろう。


 そもそも、灰色建設で働くためには、パワハラ耐性が高いことが最低条件だ。

 普通の人なら、そんな会社に勤めたいとは思わない。

 そのため、せっかく雇っても、優秀な人ほど、家庭の事情などを名目として退職してしまうのである。


 では、灰色建設に長期間勤めている平社員は、どういう人達なのか?

 彼らは、諦め、耐え、聞き流していた。


 灰色建設は、平社員にも、氷河期世代が多かった。

 倒産やリストラの危機に晒され、人権などというものを主張していては、あっという間に職を失ってしまう環境で生きてきた人達である。

 だが、彼らには、管理職になるほどの能力は無かった。

 いや……あえて身に付けなかった、という面もあるだろう。


 灰色建設の管理職になれば、社長のパワハラを、直に受けることになる。

 さらに、休みは週1日で、長時間の残業をしなければならない。

 そして、彼らが管理職を目指すなら、休日の全てを、仕事のために捧げる必要があっただろう。

 給料が上がったとしても、割に合わないことは明らかだ。


 結果として、灰色建設は、異常なほど仕事をする管理職と、やる気のない平社員、といった構図の組織と化した。

 はっきり言って、腐った会社である。


 奇妙なバランスで、組織が形成されていた。

 社長がパワハラをしても、管理職がパワハラをしても、特に問題となることは無かった。

 耐えられない者は、すぐに辞めてしまうため、「問題にする人間」が存在しなかったのである。


 だが、振太が入社すると、問題が表面化した。

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