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サラリーマン失格の男とグレー企業  作者: たかまち ゆう


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第11話 総務課の現状

 この人は……何を言っているのだろうか?

 引き留められて、振太は困惑した。


 入社して1年が経ったにもかかわらず、振太は雑用を除けば、1種類の書類の処理ばかりをしている。

 時々、もう1種類の書類も処理しているが、大して重要な役割でないことは確かだ。

 大量に抱えていた、書類をスキャナーで取り込む仕事も終わり、そのことは、既に課長にも報告していた。


 加えて、最近は総務課の仕事の全てが減少傾向だ。

 後輩社員が成長すれば、振太の穴を補うことは、それほど難しくないはずだが……?

 ひょっとして、退職の申し出について、後輩社員に先を越されたか?


 そう思った振太に、総務課長は、思いもよらなかったことを告げた。

 実は、ベテラン事務員がミスを連発して、課長と先輩社員が必死にフォローしているのだ、と。

 その影響で仕事が溜まってしまい、今、必死に処理しているらしいのだ。

 課長は、「あいつは大雑把な奴で……」などと言い訳した。


 成長していないことは、課長も同じだった。

 教え方が雑すぎて、同業他社から来たベテラン事務員ですら、仕事の覚え方が曖昧になってしまい、頻繁にミスをしていたのである。


 振太は、ベテラン事務員に同情するのと同時に、自分が役に立たないことで負担をかけてしまったことについて、申し訳ない気持ちになった。

 課長に懇願されただけでなく、ベテラン事務員への償いの意味も含めて、振太は3ヶ月だけ会社に残ることを了承した。

 課長のことは見捨てたい気分だったのだが、Excelを勉強する時間が出来たことに、本音を言えば安心していた。


 振太は、それとなく、総務課にもう1人は採用した方が良いのではないかと話を振った。

 すると、課長も、そのことは考えている様子だった。


 会社に3ヶ月だけ残ることを伝えると、パソコンスクールの校長は、非常に残念そうな顔をした。

「そうですか……。では、その間にExcelを仕上げて、Wordに取り掛かりましょう」


 校長は、こうなることが分かっていた様子だった。

 実は、校長は転職の経験者であり、総務課長と同じような上司に苦しめられて、転職した経験があったのである。

 やたらと振太に甘いことを言っていたのも、心の底から出た言葉だったのだ。

 振太は、校長を疑ったことについて、申し訳なく思った。


 それから間もなく、後輩社員が退職を申し出た。

 退職理由として、課長によるパワハラを挙げていた。


 後輩社員が、課長の言動をパワハラだと認識したことは当然だろう。


「相談しろ! だが自分で考えろ!」

「仕事は休みを使って自分で覚えろ!」

「他の社員から仕事を頼まれても断るな! だが残業はするな! 工夫すれば、仕事は終わるはずだ! 具体的な方法は自分で考えろ! もし終わらなければ、朝早く来い!」


 こんな言動をしていて、パワハラの自覚のない課長の方が、よほど非常識な人間だろう。

 だが、課長は、自分は当然のことを言っていると思っているのだ。


 非常識な世界にいて、常識が狂ってしまうと、人間は異常な言動を繰り返すようになってしまうのである。

 少しだけ話を聞くと、志の高いことを言っているように聞こえてしまうこともある「グレー企業」の恐ろしさだと言えるだろう。

 カルト宗教に近い何かを、振太は感じた。


 総務課は、代わりに新たな人を雇った。

 新たな後輩社員が入社したのは、振太が退職を申し出てから2ヶ月後のことである。

 だが、その後輩社員は、灰色建設の酷い実態を知ると、たったの1週間で辞めてしまった。


 あまりにも早すぎて、課長がパワハラに及ぶ時間すら無かった。

 そうなる前に、全てを察して逃げたことは、賢明だと言えるだろう。


 その頃になると、振太は、あることを考えるようになっていた。

 それは、「こんな会社、潰れてしまった方が、世の中のためではないだろうか?」ということだ。


 一応、社員は40人ほどいたので、本当に全員を路頭に迷わせたら、大変なことになっただろう。

 だが、社長の言動が酷いために管理職がおかしくなり、管理職が異常なために平社員が次々と辞めるというのは、あまりにも狂った環境である。


 振太は、労働基準監督署の所在地を調べた。

 駄目で元々なので、自分の考えを、公の機関に訴えてみようと考えたのだ。


 だが、調べてみて、通報しても無駄だと悟った。

 労働基準監督署は、極めて多忙であるらしく、灰色建設よりも遥かに酷いブラック企業ですら、簡単には対応してくれないらしい。

 ただの「グレー企業」にすぎない灰色建設が、労働基準監督署に潰される可能性は、1%も無いだろう。


 特に、建設会社は「残業上限の設定が2024年から」という、ある意味では「公認のブラック業界」である。

 早出残業を合わせても、月に30時間も残業をしていない振太が訴えたところで、監督官が動いてくれるとは思えない。

 それは、早出残業を合わせた毎月の残業時間が100時間を突破している、管理職達の状況を訴えても同じだろう。


 公が動かないから「グレー企業」なのだ。

 管理職が自ら訴えたら、事情は違うかもしれないが……。


 総務課は、極めて忙しい状態に戻ってしまった。

 だが、ベテラン事務員の影響で溜まっていた仕事は片付いていた。

 総務課は、振太がいなくても、それほど問題ない状態になってきていたのである。

 いよいよ退職だ。振太は、その日を心待ちにしていた。


 ところが、3ヶ月が経過する前に、課長は言った。

「頼む! もう3ヶ月だけ残ってくれ!」

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