第1話 サラリーマン失格の男
※これは、実話を参考にして創作したフィクションです。あくまでも物語であり、必ずしも転職を勧めるものではございません。諸事情を熟慮してから転職してください。
※物語には、近年の事情が反映されていない場合がございます。そのため、描写に違和感を覚えるかもしれません。
※この物語には、ブラック企業を肯定する意図はございませんが、ブラック企業に勤めた人は、多かれ少なかれ、上司に洗脳されたような状態になると思います。そのような心理を反映した描写が含まれております。
※法律等の記述については、なるべく正確になるように注意していますが、作者は専門家ではありません。誤りが含まれているおそれがあることをご了承ください。
※仕事について悩んでいらっしゃる方は、専門家にご相談ください。
二戸振太という男がいる。
彼のことを一言で表すなら、「サラリーマン失格の男」である。
振太の父親は、某企業に就職し、生涯その会社で勤めた、生粋のサラリーマンだった。
その父親は、振太に「お前はサラリーマンに向いていない」と言った。
振太が打たれ弱く、体力も乏しく、体育会系の雰囲気を嫌っていて、現実離れしたことばかり言っている、というのが理由だった。
後に、振太の面接をした人物が言った。
「君は勤め人に向いてないよ。起業すれば?」
身内からも他人からも、同じような評価を受ける振太であった。
彼が学生だった頃、性格を基にした適職診断を受けた。
その時に出た答えは「クリエイター」だった。
機械までも、振太にサラリーマンを勧めなかった。
おまけに、性格の適性はともかくとして、彼には芸術的センスが欠片もなかった。
こういう人間が、今の日本に、どの程度存在するのかは分からない。
しかし、はっきりと言えることは、周囲からこういう評価を受けている人は、闇雲に就職を目指してはいけないということだ。
振太自身も、自分はサラリーマンには不向きだと考えていた。
彼は、大学卒業後に就職せず、フリーターをしながら夢を追った。
しかし、その夢は叶わなかった。
必要な国家資格の試験に、合格しなかったのである。
振太が、夢を追うことへの限界を強く感じ始めていた頃の日本では、人手不足が喧伝されていた。
新卒採用が圧倒的に有利な日本において、一度非正規になった者が正社員を狙う、千載一遇のチャンスだったのである。
振太は、夢を諦め、就職することを考えた。
夢を諦めた時、人はどのような職業を選ぶだろうか?
大抵の場合、自分の夢に近い職業を選ぶのだと思う。
例えば、作家を目指したのであれば、何らかのライター、あるいは出版社……といった具合にだ。
しかし、振太は、自分の夢とは関係の無い、一般企業を目指した。
理由は色々とあるが、意地になっていた、というのが大きな理由の1つだった。
振太の父親は、振太が夢を追ったのは、普通の企業に就職する能力が無いからだと見なしていた。
本音を言えば、これが否定できなかった振太は、普通の企業への就職によって、父親の考えを否定したかったのである。
だが、結論から言えば、この選択は大きな過ちだった。
振太は、やはり、日本のサラリーマンには向いていない人間だったのである。
振太の面接を担当した面接官は、そのことを、しっかりと見抜いていた。
加えて、彼はExcelが満足に使えなかった。
新卒ならばともかく、転職者としては、無能だと言われても仕方がないだろう。
そのため、振太は、人手不足の状況ですら、面接で落とされ続けた。
そんな振太だが、ついに彼を採用しようとする企業が現れた。
ここで、多くの人が、あることを考えるだろう。
すなわち、「そんな奴を雇うのは、ブラック企業に違いない」ということだ。
確かに、その企業は、ブラック企業と呼んでも差し支えない会社であった。
だが、振太を待ち構えていたのは、ある意味ではブラック企業よりも危険な企業……法律の穴を突いたような存在だったのである。
振太は、その会社で1年6ヶ月勤めてから退職した。
そして、彼は結局、目指していた夢に近い業界で働くことになった。
つまらない意地を張ってはいけない。それが教訓である。