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9話:昔話③

 前回のあらすじ。

 ウィリアムは美少女になって古代遺跡を目指さなければいけなくなった。

 翌朝、冒険者ギルドの受付にウィリアムはいた。

 汗臭い男たちがひしめくギルド内は必然的に少女、のような見た目のウィリアムは注目の的になった。

 子供や女性の冒険者も存在する。

 いちいち女子供が来たところで冒険者たちも気にはしないのだが、今回は違う。

 入り口付近にいた冒険者たちはウィリアムの姿を見ると怪訝な顔をするのだ。

 その原因は彼の服装だ。

 まるでこの場に相応しくない、貴族の子女が嗜むフリルがついた機能性を無視した洋服が冒険者たちの関心を一手に引き受けていた。

 時と場合によって服装は重要だ。荒事を扱う連中がたむろする場所では浮いてしまうことうけあいだ。

 異物を飲み込んだカエルのように違和感を感じ、冒険者たちはウィリアム視線を彼に向けていた。



「たくっ……見世物じゃねぇんだぞ」



 ウィリアムは誰にも聞こえない声量で毒づく。

 この格好はヴァルプルギスに出かける時、彼女の魔術で強制された姿だった。

 理由を問い詰めたところ。



『だって可愛い服でお出かけ日和じゃない?』



 と、ウィリアムが理解できない返答が返ってきた。

 無理に脱ごうとすると全身に激痛が走り、屈強な肉体と精神力を持つ彼でも抗えなかった。服を脱ぐのをやめた後は嘘のように痛みが消え、怪我や後遺症といったものがなかったのだ。



「くそっ……呪いだ。呪いの服だ」



 再び毒づいた。

 昨日の今日とで散々な目に遭わされ、彼の眉間には特大のシワが刻まれている。

 可憐な少女が冒険者ギルドに不相応な服を身につけ、研いだナイフのように鋭い眼光を撒き散らしながら男のような歩調で闊歩する。

 目立つなという方が無理だった。



「ようこそ。冒険者ギルドへ。ご用件はなんでしょう?」



 極めて冷静にいつも通りを心がけて対応するギルド受付嬢。伊達に海千山千の冒険者を相手にして着たわけではない精神力を見せつけるが、持っているペンが逆さであった。



「冒険者登録をしたい」



 すっかり少女のように変わってしまった高い声で告げると周囲から笑い声が聞こえる。



「ははは! お嬢ちゃん、そりゃ本気か?」



 もっとも近くにいた1人の男がウィリアムの肩を馴れ馴れしく掴む。

 ウィリアムは無表情でその男に振り返り視線を合わせた。

 バカにした様子の男は半笑いで彼に声をかける。



「だったら俺が冒険のイロハを教えてやるよ。もちろん有料でな。それとももっと別のイロハを――」

「そうか」



 未だに肩に触れている手を握り、そのまま持ち上げた。手ではない。男を体ごとだ。肉体は完全に地面から離れている。



「は?」



 男は素っ頓狂な声を上げ、周りで見ていた冒険者も受付嬢も唖然としている。

 大の男を少女が軽々と片腕で持ち上げた瞬間を目撃すれば無理もなかった。



「軽い。筋肉とお頭が足りない証拠だ。出直してこい」



 そのまま空中へ放り投げる。

 地面との接点を絶たれ、身じろぎ1つ取れない空中で男が次に見たのはウィリアムが放った膝蹴りだった。

 肉と骨が同時に潰れる音、決して低くはない天井に男が衝突する音、天井から跳ねて床へ激突する音の3つが立て続けにギルド内に響き渡る。

 活気に包まれていたギルドの空気は一瞬で凍りつく。



「どうした、イロハを教えてくれるんじゃなかったのか?」



 犬歯をむき出しにウィリアムが笑うと冒険者たちの顔色が一気に変わる。



「てめぇ……!」

「ガキだからって容赦しねぇぞ!」



 おそらく蹴られた男の仲間と思われる冒険者2人が腰の剣に手を伸ばす。



「いいねぇ、分かりやすい」



 ウィリアムはそれを歓迎するべく指の骨を盛大に鳴らした。



「待て」



 凛とした声が割って入る。



「ここをどこだと思っている。冒険者の聖地ギルドだぞ。私闘は禁じられているのを知らないのか」



 男ばかりのギルド内で珍しい女性冒険者だ。

 双方の殺気に怯むことなく、鎧に身を包み大盾を背負う長身の女性冒険者は粛々と言葉を紡ぐ。



「私闘は懲罰対象だ」



 彼女の登場に周囲の冒険者もバツが悪そうな顔に変わる。



「なんだ、お前?」



 ウィリアムは冒険者の女に対し質問を投げかける。



「パトリシア=ゴードン。B3ランクの冒険者だ。この場の調停を行うために間に入らせて貰った」 

「引っこんでな。これは俺が売られた喧嘩だ」



 ウィリアムの言葉に周りの冒険者たちはざわめく。



「あいつ、パトリシアに意見したぞ」「なんて無謀な」「あの『風紀委員』のパトリシアに向かってすげぇな」「……可愛い」



 ウィリアムは外野を言葉は意に介さずパトリシアと名乗った女を鋭い眼光で睨みつける。



「ギルド在籍者が問題を起こそうとしている状況を収拾するのは当然だ。この場でランクが最も高い私が負わなければならない責任でもある」

「はぁ……」



 ウィリアムは大きなため息を吐いた。



「わかってねぇな。ギルド調和を整えたいならお前はこの場に出るべきではねぇ」

「どういう意味だ?」

「俺はこれからギルドに属して活動しようとして、そこに転がってる馬鹿のような連中にちょっかいをかけられたわけだ」

「それは見ていた。だから私は状況の悪化を防ぐために仲裁に入ったわけだ」

「アホか」



 ウィリアムはにべもない言葉を吐く。



「これから冒険者になる奴がちょっかいをかけてくる連中を対処できなくてどうする。どっちが上か下かはっきり本人同士で決めなきゃ、いらん確執が残るだろうが」



 ウィリアムの意見に対し、パトリシアは頷く。



「君の意見はもっともだ。

 しかし、ギルドには私闘禁止のルールがある。私が君の胸の内を知っていたとしても、どちらがが優勢でも私が止めることは確かだっただろう」

「じゃあ、どうする? 俺を冒険者にしないつもりか? それともその連中に罰でも与えるのか? 結局、間に誰かが入った時点でシコリは残るぞ」

「ああ、だから、戦えばいい」

「あん? 私闘は」

「禁止だ。だが、決闘なら問題ない」

「決闘だぁ?」

「そう、双方に譲れないものがある場合、双方の合意があれば決闘を行える。そして、勝った方の主張を正とする。由緒正しいギルドのルールだ」

「上等だ。俺が勝てばそいつらは全員金輪際俺にちょっかいかけない、そいつらが勝てば土下座でもすればいいのか?」

「こっちのセリフだ小娘!」

「裸にひん剥いて外歩けなくしてやるぜ!」



 相手側の冒険者も決闘に関してはノリ気だった。

 ウィリアムと冒険者たちが視線で火花を散らしている間でパトリシアは首を横に振る。



「いや、戦うのは私とだ」

「は? 話が見えねぇぞ。さっきも言ったが直接そいつらに分からせる必要があるんだよ」



 周囲の冒険者たちもウィリアムと同様、首を傾げている。



「勘違いしているようだが、まず今回の騒動で非があるのは全面的に彼らだ。故に罰則は必ず発生する。証人として私が立証するからな」

「な、パトリシア、テメェ俺らを売るのかよ!」「こっちは1人やられてんだぞ!」



 ウィリアムが殴った冒険者の仲間が声を荒げる。

 彼女は気にもせず話を進める。



「今回、決闘をする主な理由は君への教育だ」

「教育だぁ?」

「先ほどのやり取りを見て心配になったのさ。これから同僚になる人物が、とんだじゃじゃ馬ということにね」



 パトリシアは不敵に笑う。ここにきてようやく初めて彼女の表情が変わったのだった。



「ははっ!」



 ウィリアムが歯を見せながら口角を釣り上げた。



「そういうことかよ」

「一応、君にも利点はある。君は実力を見せ、私を倒すなり善戦するなりすれば、先ほどの懸念事項は取り除くことができる。

 1対複数は決闘としてはふさわしくないのと、君が戦うべき相手は君の先制攻撃でご覧の有様だ。私が代行として戦えば人数的な問題が解決でき、君の実力を証明する相手として私のランクは十分だと自負している」



「なんでもいい。そこの連中よりはマシだ」

「よし、ならばついてこい。外でやろう」



 2人がギルドから出て行こうとするが、ここで面白くないのは冒険者たちだった。



「おい待てよ、パトリシア! もしお前が勝った時、俺らはどうなるんだよ!」

「そうだ、俺たちの代行ってことはこっちにも何か利点があるんだろうな!」

「私が勝った場合、彼女に謝罪させ問題を起こさないように教育係として私がつく。ついでにお前たちの処遇も軽くしよう。中立だろう?」

「ちっ、ついでかよ!」「へへ、パトリシアが教育係になるならむしろ良い気味だぜ」

「お前、どれだけここの連中に嫌われているんだ?」

「さぁな」



 涼しい顔でパトリシアは肩をすくめてギルドを出た。

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