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6話:休息

 前回のあらすじ。

 ノーフェイスを撃破し一行は着々と上の階へ進む。

 古代遺跡内部には多くの扉が存在するが、それらの中で開くものは割りと少ない。

 1階層に入れる部屋は、階層によってバラつきはあるが、平均的に1つ程度だ。

 通路は魔物が跋扈しており、冒険者たちは休息のために部屋探しに必死だ。

 せっかく階段を見つけて上の階に進めても、休憩できそうな部屋がなければわざわざ戻ることもありうる。

 それほど部屋は重要になってくる。



「ここか。入口が1つで遮蔽物も掩蔽物もない。いい部屋じゃないか」



 当然、ウィリアムたちにも休息は必要である。



「正直、あまりあてにはしてなかったがな」

「まだ低階層なら情報屋の話も多少は信頼できるだろう」

「ま、せっかく買った情報だし有効利用だ。今日はここで休憩するとしよう」



 今晩の寝床を確保するため、町の情報屋から仕入れた情報に従って、彼らはこの部屋へ目指し、到着したのだ。



「ぽちもご苦労だったな」



 ウィリアムのパーティは嗅覚と聴覚が優れた獣人のぽちがいるため、探索能力は並みの冒険者パーティよりも長けている。

 本来ならば、いくつも分岐した通路を歩き回り、構造を把握するのに時間を要する。

 更に魔物が徘徊しているため迂回したり隠れてやり過ごすので尚のことだ。

 しかし、ウィリアムたちはぽちが敵の居場所を察知して先制が取れるので、戦闘は常に最小限かつ最大効率を発揮して迂回の手間を省いていた。

 おかげでパーティはだいぶ余力を残した状態で冒険をすることができる。



「ほら、頭だせ」



 ウィリアムに言われるがまま、ぽちは尻尾を振りながら彼に頭を差し出した。



「ん……♪」



 ウィリアムの指がぽちの頭をなでる。

 嬉しそうに目を細め、今日の褒美を受け取る姿は年相応な無垢な子供そのものだった。



「お前は十分働いたし、今日はゆっくり休め」

「はい。お言葉に甘えるのです」



 ぽちは外套を脱ぎ、寝支度を始めた。



「『タリスマン・トーテム』を設置してはいるが、一応見張りは必要だろう。今日は俺とパトリシアがやる」



 『タリスマン』とは教会が販売している魔物を寄せ付けない清浄な魔力が宿ったアイテムでポケットに入れられるロザリオの形をしている。

 通常の『タリスマン』は1人用だが、他にも『タリスマン・トーテム』『タリスマン・ポーション』などの設置型や散布型など複数種類あった。

 町から遠く、広大なこの土地での冒険はいかに休息を取るかが肝になり、満足な休息が取れなければ全滅を引き起こすため、金に糸目はつけない者も少なくない。



「腹減ったな」

「燻製とパンを出そう」

「この食事にも飽きてきたッスね。贅沢を言ってはダメなんでしょうけど」

「剣奴やってた頃の飯に比べれば十分に食えるけどな」



 ウィリアムはナイフで保存用のパンに切れ込みを入れ、そこに燻製した肉を挟み一気にかぶりついた。

 硬いパンを物ともせず豪快に噛みちぎり、発達した顎の力で咀嚼する。



「エポック、ぽち、それ食ったら寝ろ。明日も早いからな」

「わかりましたッス」

「はい。ありがとうございます」

「ウィリアム、疲労の方は大丈夫か? なんだったら今日は私1人で見張りでも構わないぞ」



 エポックやぽちはウィリアム同様齧り付きながら食べているのに対し、パトリシアは上品にパンをちぎっている。育ちの違いがにじみ出ている。



「いや問題ない。今日は戦闘もなかったしな」



 食事とも言えないような最低限の栄養補給を済ませ、いつものようにぽちがウィリアムの足を枕にしながら、つぶらで大きな瞳で彼を見上げる。



「ご主人様、寝物語を聞かせてください」

「悪い魔物がいました。正義の騎士が倒します。人々は平和に暮らしました。終わり」



 さすがにそれはないだろう、という視線がパトリシアとエポックからウィリアムに注がれるが、ぽちは小さく拍手をする。



「すごいです。完璧なシナリオです」

「いいのか君はそれで」



 さすがのパトリシアもぽちの反応に苦笑気味だ。



「文句があるならお前が何か話してやれ」

「私がか? ふむ……そう話を振られると困るものだな。希望はあるのかい?」

「パトリシアさんが知っていて、ぽちが知らないご主人様のお話があれば聞きたいです」

「そういえば、お2人が何でパーティ組んでるか不思議だったッス。どういった経緯で組むようになったんすか?」



 エポックも食いついた。



「私とウィリアムが出会った頃の話か。いいだろう。では、どこから話したものかな」



 パトリシアが顎に手を当てて思案していると、



『私の出番のようね』



 ヴァルプルギスが現れた。

 命令も出していないのに勝手に出現した彼女にウィリアムは露骨に表情をしかめた。



「出たな、背後霊。何の用だ」

「どうして君の出番なんだい?」

「ヴァルプルギス様ぁ!」

「あ、精霊さん。こんばんはです」



 パトリシア、エポック、ぽちの3名が各々の反応でヴァルプルギスを歓迎した。



『うふふふ、皆にこの男がこの姿になる前のことを教えてあげようと思ってね。寝物語にはちょうどいいんじゃないかしら?』

「何しに出てきたかと思えば……」

「ほう、それは興味深いな。私もウィリアムの前の姿は知らないからな」

「ヴァルプルギス様にお話を賜るなんて光栄ッス!」

「ぽちと出会う前のご主人様のお話なら興味があります」



 全員の視線を受け、満足そうにヴァルプルギスは大げさな仕草を付けて語り始める。



『あれは一年位前ね。私が長い長い眠りから目が覚めると、そこにはこの世のものとは思えないブ男がいたの』

「ブ男……どのような容姿だったんだ?」

「私も男の人って聞いた時には信じられなかったッス」

「ぽちはどんな姿でもご主人様が大好きです」



 ヴァルプルギスの言葉に反応したのはウィリアム以外の面々だった。



『ゴリラ、もしくは良くてオーガね』

「散々な評価だな」



 ヴァルプルギルの話しを聞きパトリシアは数度瞬きをして長い睫を揺らした。

 ウィリアムは話しに加わらず、水筒に口をつけていた。



『長年、剣奴をしていたから全身傷だらけで筋肉の鎧に覆われた大男だったわ。

 初めて見た時に思ったの。なんて私が求める美とは正反対なのだろう、と。

 そして、同時にこの男を完璧な美少女に出来れば私の悲願は達成するとも感じたの』

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