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21話:パラケルスス

 前回のあらすじ。

 トーマスパーティとの戦闘にほぼ完封した。

 ウィリアムはぽちを連れて階段をのぼっていた。



「あの人たちを信用して良いのでしょうか」

「さあな」



 トーマスはすんなりと口を開いた。

 普段は情報換金を専門にしていることは本当だった。

 低階層でウィリアムたちと出会ったのは偶然で、再会したのはもっと偶然だった。

 そして、トーマスたちが昇降用の小部屋から出てくるのを見られたのと、ウィリアムたちが予想外の速さで古代都市を攻略していることに焦り、スカル・アラクネーの巣に置き去りにして殺すことを決意した。

 彼らが葬った冒険者の遺品など、トーマスたちへ疑いがかかりそうなものは古代遺跡のウィリアムたちと再会した階に隠しているため、発見されるのを恐れたとのことだった。

 トーマスは、本来はこんな行き当たりばったりな方法ではなく町でカモとなりそうな冒険者を見つけて一緒に古代遺跡へ入り罠に嵌めていた、とも付け足す。



「嘘かもしれん」

「じゃあ、これも罠ではないでしょうか?」

「かもな」



 トーマスたちの情報で展望室の昇降用の小部屋の裏側には隠し扉が存在した。

 階段を上がると扉があり、そこにはトーマスたちも入ったことがないらしい。

 理由としては、もしも扉を開けることで古代遺跡が機能を停止してしまったら、こんなにいい『狩場』を失うことになるため、わざと放置していたらしい。



「罠なら、ぽちが時間を稼ぐのでご主人様は逃げてください」

「全員で生きて帰るんじゃなかったのか。そのためのパーティ分割の組み合わせだろ?」

「あぅ……そうでした」

「ま、意気込みは伝わった」

「はい!」



 ぽちは尻尾を嬉しそうに揺らした。



「それに、おそらくだが危険はない」

「どうしてわかるのですか?」

「この服の能力だろう」



 ウィリアムが来ているのは東洋風の民族服である。詰襟とスリットの開いたワンピース状でとても動きやすいものだ。



「集中すると視界に色がかる。その色合いで俺にとって良い方向と悪い方向が大まかにわかる。

 昔、剣奴仲間で東洋人の男が言っていた。東洋には気という概念があり、気は万物に宿る。人、獣、魔物、山、川、土地、建物などなど、生命が干渉すれば無機物にも存在するらしい。

 この服は様々な気を感知して、俺に視覚情報として教えているのだろう。

 スカル・アラクネーとの戦闘時、奴の周囲や攻撃が行われる瞬間は強い赤色が見え、攻撃があたらない場所は青く見えた」

「そういえば、ご主人様の指示通りに動いたら皆に攻撃がちっとも当たりませんでした」

「この通路には薄らと青い色が見える。おそらく安全だ」



 階段の頂上には扉だ。今まで古代都市で見てきたものとは違い、わざわざ手で押さなければ開かない扉だった。

 ウィリアムは迷うことなく扉を開いた。

 中は薄暗く壁に埋まった赤や緑など、小さく点滅する光源がわずかにあるだけでとても視界が悪い。



「不思議です。臭いがありません」

「臭いが?」

「はい。ここまで何も感じないのは初めてです」

『ようこそ。侵入者諸君』



 声が聞こえた。澄み切った、よく通る男の声だった。



「声? 話が通じるなら姿くらい見せろ」

『それは失礼』



 音もなく明かりが灯った。

 そこは窓のない、小さな部屋だった。

 声の主はすぐに見つかった。部屋の中央に鎮座する台座の上に浮かんでいた。

 端正な顔立ちの男だったが、彼の身体からは微量な魔力が零れ、薄く発光していた。



「ん? お前、人工精霊か?」

『人工精霊……ああ、君たちが使っているデバイスか』

「でば……?」

『君たちが人工精霊と呼んでいるのは体外式補助端末、通称デバイス。私はその上位端末として作成された疑似生命体だ。私を作った人間からはヒューマノイドと呼ばれていたよ』

「言ってる事がイマイチわからんな」

『わからないのも無理はないだろう。巡回ロボットから送られてきた映像を時折見ていたが、君たちの文明は私が作られた時代とは大分かけ離れているようだね』

「だろうな。お偉い学者様方はここの技術を手に入れようと躍起になっているよ」

『それは良くない。過ぎた技術は時には毒になる。赤ん坊に刃物を渡すのと一緒だ』

「お前からすると俺らはまだ赤ん坊並みの文明か」

『事実だろう?』

「はっ、言ってくれるなぁ。滅んじまったくせに」

『それも事実。奇しくも僕と君は出会ってしまった。この出会いは、どちらの事実が欠けても成しえなかったとするなら、それはとても奇跡的なことだと喜ぶべきだね』

「ずいぶん詩人なんだな」

『自分でも驚いている。僕はこんなことを言うようなインターフェイスを持ち合わせていたことにね。ところで君は何しにこんなところまで来たんだい? その様子だと技術とか興味なさそうに見えるんだけど』

「ああ、そうだった。おい、ヴァルプルギス」

『はあーい』



 ウィリアムの人工精霊、ヴァルプルギスが姿を現した。



『久しぶりねAX-19番』

『やあ、VG-71番。巡回ロボットから映像を受信したときは驚いたよ』



 男は嬉しそうにヴァルプルギスの方へ近づくが、台座からは先に進めず、もどかしそうにしていた。



『いつぶりだい?』

『さあ? 私もつい最近、再起動したばかりなの』

「どことなく似ていると思っていたがやっぱり顔見知りか」

『ええ、言うなれば兄妹かしら』

『ところでVG-71番、さっき彼は君のことをヴァルプルギスと言ったが、もしかしてそれは名前かい?』

『そうよ、私が考えたの素敵でしょ?』

『素晴らしいよ!』



 ヒューマノイドの男は感情を高ぶらせ、喜びに満ちていた。



『素敵な名前だね、VG-71番……いや、ヴァルプルギス。私には自分に名前を付けるという発想がなかったよ。君は昔からみんなが思いもつかないことをよく思いつく子だったものな』

『なんだったら貴方にも付けてあげようかしら?』

『おお、ぜひ、付けてくれ給え!』

『そうね……パラケルスス、なんてどうかしら?』

「また、言いにくい名前を……」

『最高だ!』

「こいつらとはセンスが合わない……おっと、そろそろ、本題に入っていいか?」



 盛り上がっている2人にウィリアムが口を挟んだ。



『そういえば、まだ聞いていなかったね。君の目的を。

 かわいい妹に再会させてくれたんだ。できれば君の願いは叶えてあげたい』

「なら、簡単だ。俺の呪いを解いてくれ」

『呪い?』

『パラケルスス、彼は遺伝子操作によって肉体に変化が生じてしまったのよ』

『ほう』

『彼をこの姿にしたのは私がインストールされていた端末の防衛機能でね、私の持ちうる能力では彼の肉体を元に戻すことができないの。貴方なら可能なんじゃないかしら?』

『いや、僕にも無理だよ』

「は?」



 ウィリアムが信じられない、といった表情になった。



『僕が司るのは新エネルギーによって反作用の原理を利用した遠隔操作……君たちの言い方的には手を触れずに物を動かす魔術ってところかな。空だって飛べるんだよ』

「ここまで来てお空が飛べます…………だと? ヴァルプルギス、てめぇ……騙したな!」



 今にも飛びかかりそうなウィリアムだったがわずかに残った理性で踏みとどまる。



『あら、私に非はないわよ? 単純に機能のアップデートに必要な施設がここじゃなかった、というだけ。まだまだ建物はあるんだから、それのどこかでしょ?』



 それを聞いたウィリアムはぐったりとうな垂れた。 



「ご主人様」

「……なんだ、ぽち」

「それじゃあ、まだ一緒に冒険できるのですね」



 花が咲いたように笑う彼女を見て、ウィリアムはとうとう何も言えなくなってしまった。

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