2話:行き先
前回のあらすじ。
美少女だと言われてご立腹なウィリアム。
「ウィリアム、いい加減機嫌を直したらどうだ?」
大股で先頭を進む小柄な少女、の外見をした男、ウィリアムにアーマーナイトのパトリシアは声をかけた。
共にリザードマンと戦ったパーティと別れてからずっとこの様子だ。
「うるせえ」
「その外見で女性に見られない方が難しい」
「うるせえっての」
「しょうがないだろう? 呪いなのだから」
呪い、その言葉を聞いたウィリアムは大きなため息を吐く。それは長く深いものだった。
「……いつになったらこの服は脱げるんだ」
「けしからん発言だな……」
『全くね』
ウィリアム、パトリシア、エポック、ぽちのパーティメンバー4人以外の声がする。
「出たな」
ウィリアムが鬱陶しそうに声を漏らすと、彼の背後に人工聖霊が姿を現した。
黒衣のドレスに身を包み、貴婦人の佇まい、その姿は人間と寸分違わぬものだった。
魔力によって存在を維持する人工聖霊は淡い光を纏い、それがさらに神聖な姿へと昇華させていた。
この人工精霊の名はヴァルプルギス。感情を持ち、言葉を話す高度な知能を持ち合わせている。そして、ウィリアムは切りたくても切れない縁で結ばれていた。
『その姿のどこに不満があるというの? 最近の流行を取り入れた最先端の服なのよ!』
「いや、私が言いたかったことはそうではないのだが……」
『ウィリアムという名前も可憐な姿に似合わないわ。この際だから改名いたしなさいな。私が良い名前を考えてあげる』
「黙ってろ背後霊。勝手に出てくるんじゃねえ」
ウィリアムは魔力の供給を止め、強制的に人工精霊を消した。
「ああ、なんで消しちゃうんスか!」
エポックが大きな声だして抗議する。
先ほどまでおとなしくしていた彼女だったが、ウィリアムに詰めより更に服の裾を掴んで唾を飛ばしながら声を荒げている。
「またうるせえのが来た……」
「あんなに美しい人工聖霊を持っているのにどうして邪険に扱うんスか!」
跳ねた茶髪とそばかすが目につく、いかにもイケてない感じの少女だが、今は酒場で酒を飲んでいる連中より元気に声を出していた。
「精錬された造形に自立型思考回路と感情豊かな人格素体!
あたしがいくらお金と手間をかけても届かない神の領域に達しておきながら、なぜあのような粗末な扱いができるんスか!」
「うるせえ! 唾飛ぶんだよ!」
エポックの額に手を当てて押しのけた。
「球体間接? いや、あの滑らかな動きは普通の球体間接では無理ッス。と、言うことは関節を動かすだけに人間のように別の部位の筋組織や腱に該当する部分まで組み込まれているわけっスか? 細胞分裂のない人工聖霊が筋組織や腱の消耗を考えてグリーン・ドラゴンの翼膜を使わないとすぐに腕が動かなくなるッス。でも、腕を動かすためだけにいくらかかるんスか? ………………うおおおおおおお! ざっくり計算でも王室警護隊のインペリアルセイバーシリーズくらい買えそうッス!」
彼女は自分の世界に入ると百面相を始め、ようやく解放されたウィリアムは辟易とした顔でぼやくのだった。
「ったく。人工精霊オタクめ」
「ご主人様」
獣人の少女、ぽちがウィリアムの裾を控えめに引っ張る。
「なんだ、お前まで」
「手を、手をぽちに貸してください」
言われた通りウィリアムが手を差し出すとぽちはその手を取って自分の顔に当てた。
掌が鼻を押し、指が無造作に額に当たる。
ぽちはウィリアムの手の匂いを嗅ぎ、自分の匂いをウィリアムの手に擦り付けていた。
「何やってんだお前?」
「エポックさんにご褒美があったのにぽちにないのが不公平だと思ったのです」
彼女はエポックの額を押してどけたのが頭を撫でるスキンシップと勘違いしていた。
犬の獣人であるぽちは主人に従順であり縦社会に生きる存在だ。主人からの賞賛や賛辞が何よりも名誉のある褒美であった。特に頭を撫でられるのは上から2番目に位置する褒美である。
ちなみに1番は仰向けに寝そべった状態でおなかを撫でられることだ。
「ふう。満足しました」
返却され彼の手にはぽちの顔の脂や涎が付着していた。
「……汚ねえなぁ」
ウィリアムが渋い表情で手を服で拭うとぽちは嬉しそうにショートパンツから垂れる尻尾が左右にゆらゆらと揺れていた。服にも自分の匂いが移ったことに満足げなのだ。
「無駄口はそこまでだ」
パトリシアの静止で一行は足を止める。
「さて、古代遺跡に入って初めての階段だな。ウィリアム、行き先を決めてくれ」




