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18話:スカル・アラクネー

 前回のあらすじ。

 たまたま1話の時に出会った冒険者パーティと再会して協力することになった。

「うちのパーティの評判は置いといて、情報交換といこうじゃないか」

「もちろんだ。利害が一致するなら情報を提供するし、持っているアイテムを交換か売却するのもやぶさかじゃねぇ」

「私たちは1階層ずつ攻略しながらここまで来た。各階のフロアマップと出現する魔物、休憩に使えそうな場所の情報なら提供できる」

「おお、それは助かる! ここまで難易度が高いダンジョンだと高階層の情報がほぼ出回らなくてな」



 トーマスは紙と細く削った木炭でメモを取り始めた。

 メモを取る冒険者は珍しい。冒険者は誰でもなることができる上に危険な仕事が多いため、識字率があまり高くない職業である。重要な情報は頭で覚える者が圧倒的に多い。

 かく言うパトリシアも提供する情報はメモを取っているわけではなく暗記していた。



「ああ、これか?」



 トーマスはパトリシアがメモを見ていることに気がついた。



「俺らは攻略目的じゃなくて情報換金のためにダンジョンに潜ってるんだ。情報を売っているから、こういったメモひとつで情報の価値が結構変わるんだよ」



 情報換金とは、攻略を目指したり、依頼を受注して成功させて報酬を得るのとは違い、様々な情報をギルドや冒険者へ売って生計を立てることだ。



「確かに人の記憶はあいまいなものだからな、人によって言っていることが違うこともある。情報を整理するには、メモを取るのが一番だろう」

「わかってくれて嬉しいよ。大抵の奴は怪訝な顔してくるんだ」



 パトリシアが情報を提供し、トーマスがメモを取り時に質問をする。

 ウィリアム一行が手に入れた情報を一通り提供し終えると、今度はトーマスたちから情報をもらうことになった。



「俺たちは下層をあの後も調査してたんだが、途中でこの奇妙な部屋を見つけてな」



 トーマスは自分たちが出てきた2枚戸の扉がある方に視線を向けた。

 扉の向こうは人間が4、5人ほど立って入れるような小さな部屋となっている。



「転移魔術か何かか?」

「いや、おそらくこの小さな部屋自体が上がってきたらしい。原理はわからんけどな」

「この部屋自体が? じゃあ、これを使えばかなりの階をショートカットできるのか?」

「ああ、俺たちはアンタらと一緒に戦った階から階段は昇っていない。あの部屋に入ったと思ったらいつの間にかこの階まで昇ってしまった、というわけだな」

「チッ、そんな便利なものがあったのかよ……」



 ウィリアムは憎らしげに小部屋の扉を睨みつける。



「そんな顔をするなウィリアム。帰りは楽でいいじゃないか」

「ふん!」



 パトリシアがなだめるが彼の眉間の皺は深く刻まれたままだ。



「すまないな。それでこの小部屋についてもう少し教えてくれないか?」

「俺たちがいた階からアンタらが上ってきた階数を聞く限りじゃあ、この小部屋はすべての階に移動できるわけじゃいな」

「それはどうしてわかるのだ?」

「扉の上にある光っている文字があるだろう? 俺たちが乗った時は左の方が光っていたんだが、今は右側の文字が光っている。おそらく最上階に近づくにつれて点灯する文字の位置がズレるんだろう。



 そこから推察するとあそこに書かれている文字の数とあんたらの上った回数がイコールにならないから特定の階層にしか止まらないんだと思う」



「なるほど、ならばこの小部屋で後もう1回上の階へ移動できそうだな」

「そうだな。もし最上階のボス部屋直行や部屋から出たら即死の罠だったらと思うと肝が冷えるぜ」



 トーマスは冗談交じりに話すが、実際にはあり得ないことではなかった。

 ベテランパーティが一番陥りやすいパターンは魔物に倒されるよりも罠によって壊滅することの方が多いのだ。

 魔物の情報は共有したり、危なくなったら撤退という方法をとるのがベターとされているが罠は発動と同時に詰みになる可能性が高い。



「なぁ、提案なんだが、俺らもあんたらと一緒に攻略させてもらっていいか?」

「あ? お前ら情報換金専門じゃねぇのかよ」

「お宝は興味がないわけじゃないが、俺たちは情報換金をやっているくらいだから堅実な稼ぎを目指している」



 情報換金を行う冒険者はベテランが多い。

 ベテランならば引き際を見極める目が養われており、危険を冒さずに行動できる。

 そのため、体力に限界が見えてきた者や腕に自信がない者など、戦闘に向かない者はこう言った攻略とは違うやり口で金銭を稼いでいる。



「でも、目の前に攻略一歩手前のパーティがいて、運よく俺たちもこの場にいる。ってことは、ボスや最上階付近の情報を得るチャンスなんだよ。

 俺らは情報を得て金に換える、あんたらは俺らのサポートを受けて攻略してお宝を得る。どうだ? ギブアンドテイクってやつだろう?」



「俺たちがボスの情報を持ち帰ればお前らは必要ないだろう」

「いや、そううまくはいかないんだウィリアム」



 パトリシアが首を横に振る。



「我々が報告したなら情報の価値は彼らより一段か二段落ちるだろう」

「こいつらには今まで情報換金をしてきた実績があるからか」

「その通りだ。私たちのパーティが結成して1年、新米冒険者と言えるキャリアが2名いる。同じ情報を扱っても価値に差が出てしまうのはしょうがないことだ」



 ウィリアムとぽちは約1年前に冒険者になった。世間一般で言う新米冒険者が1~2年目、3年以降から本格的な冒険を行うようになる。

 いくら彼らが新人離れした戦闘力を持っていようが、経歴の浅さはどうしようもない事柄であった。



「サポートっていうのは具体的にどんなもんだ?」

「まず、物資の提供だ。食料、薬なんかを安く売る。幸いストックを使わず来れたからな。



 そして、あの小部屋の操作方法を教える。弾みでここまで来てしまったが、1回操作すれば誰でも覚えられる仕組みだった。

 最後にボス戦でボス以外の雑魚が出てきた場合は俺たちが担当する。それならあんたらはボスに集中できるだろう?」



「お前らが雑魚に苦戦するようなら?」

「切り捨ててかまわねぇ」

「いいだろう。具体的な作戦を練ろう」



 トーマスは顔に喜びの色を浮かべた。



「そうこなくっちゃ!」

「方針が決まったところで最上階のボス対策だな」

「俺はそんなにダンジョン探索は経験ないんだが、ボスには何かアテがあるのか?」



 ウィリアムがトーマスとパトリシアに問いかけた。



「そうだなぁ。いくつかパターンはあるぞ。単騎の大型ボス、複数の中型ボス、大多数の雑魚、あとは特殊な条件をクリアしないと倒せないボスか?」

「大型ボスか大多数の雑魚のどちらかだろうな」

「その理由は?」

「これほど大規模なダンジョンを支配下におけるのは大型ボスでないと無理だ」

「俺もそう思う。んで、大型ボスの戦闘力がない場合、ダンジョンでよく見かける魔物をけしかけてくる可能性がある。ここならノーフェイスの集団だな」



 トーマスが笑いながら言うが、それを想像したパトリシアが眉尻を下げながら辟易する。



「考えただけで嫌になる光景だな」

「ふん。特殊な条件がなければどれも同じさ。近づいて殴って終わりだ」



 ウィリアムが鼻を鳴らし、その反応にトーマスは満足げに相槌をうった。



「はは、さすが俺が見込んだだけあるぜ!



 運搬の順番だが、見ての通りあの小部屋は5人が限界だ。だから2回に分けよう。アンタらと俺がまず乗って、そんで俺が戻ってウチのパーティを連れてくる。どうだ?」



「わかったそれでいい。さっそく行くぞ」



 ウィリアムたちが小部屋の中に入ると、外から見た時よりも窮屈に感じた。

 操作盤が扉の脇にあり、トーマスがいくつかの手順を踏むと扉が閉まった。

 位置取りは真っ先に扉から出れるように盾を構えたパトリシア、その彼女の後ろにウィリアムがいて、彼の左右にエポックとぽちが備えている。



「じゃあ、行くぞ」



 トーマスは扉の横に浮かび上がる光を指でなぞる。

 小部屋に伝わる振動、浮遊感により上昇しているのがわかった。



「なんだ? 腹腸が浮かぶような感覚だ」

「はは、俺たちも最初驚いたよ。新手の罠なんじゃねぇかって」



 無駄口を2、3挟むと到着した。小さな鐘の音に似た音と共に振動が止んだのだ。



「扉は自動で開くぞ」

「よし、私から行く!」



 パトリシアは一気に踏み込んで小部屋から飛び出た。

 そして、横から飛び出てきた腕のようなものが彼女を薙ぎ払い、ウィリアムたちの視界から消えた。



「パトリシア!」



 ウィリアムたちが小部屋から出ると部屋の隅で体勢を持ちなおそうとしているパトリシアの姿があった。



「大丈夫だ。上にいるぞ、気をつけろ!」



 彼女の声でウィリアムたち3人は視線を上げる。

 そこにはドーム状の天井の内側に無数の糸が結界のように張り巡らされていた。

 糸を足場に1体の魔物がウィリアムたちを見下ろしている。



「スカル・アラクネーッス!」



 骸骨が笑っていた。



「こいつがここのボスか」



 むき出しになった人間の頭蓋がおぞましい雰囲気を纏い、人間の上半身と蜘蛛の下半身を持った大型の魔物だ。

 身体は皮膚を剥がされたように筋肉や露出している。

 巣を作り獲物がテリトリーへ入るまでジッと待ち構え、粘着性があり、人間の力では断ち切るのがう可能なほど頑丈な糸で獲物を捕獲する習性をしている。

 他にも蜘蛛の身体には神経毒を持った爪や一般的な家ほどもある巨体による力技など厄介な武器を持っていた。

 何よりも冒険者が恐れるのは、捕まった際に神経毒で意識を残した状態で幼虫を体内に植え付けられ絶命するまで内側から食われ栄養源にされてしまうという話だった。

 スカル・アラクネーの巣には、夥しい量の餌食となった人間の白骨が山積みにされているのは有名な話である。中には村1つが犠牲となり、発見した冒険者が心的外傷を負い引退に追い込まれた者も存在する。

 ギルドが推奨している討伐人数は20名。間違いなく古代遺跡で一番の強敵である。



「じゃあ、頑張ってくれ」



 トーマスの声が微かにウィリアムの耳に届いた。

 視線を向けると、小部屋の扉が閉じる瞬間に薄ら笑いを浮かべたトーマスの顔があった。

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