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17話:エレベーター

 前回のあらすじ。

 離れ離れになったパーティも無事合流しオーガたちを根絶やしにしたとさ。

 ウィリアムたちは古代遺跡を順調に上に進み、時折見える外の風景からだいぶ高層にいることが伺えた。

 古代遺跡に潜入した時は窓から見える大地が近かったが、現在の階層から見えるのは他の遺跡の屋上が見える。



「だいぶ最上階に近づいたんじゃないか?」



 パトリシアが窓から外を眺めている。

 ウィリアムたちは魔物がいない部屋で夜を過ごし、身体を休めていたところだ。



「だといいけどな」



 グリフォンの肉を焼いたものを貪るウィリアム。景色よりも食事であった。



「階層が高いから翼を持つ魔物がいたのは僥倖だったな」

「大きなテラスがあることにも、そこに魔物が巣くっていたことにも、私は古代遺跡の奥深さに舌を巻いたよ」

「何を今さら」



 骨になったグリフォンを床に投げ捨て、手に付いた油をなめるウィリアム。



「過程はどうでもいい。結果を求める俺たちに重要なのはそこじゃないのはお前も分かっているだろう」

「旅は景色まで含んで楽しむものだと思うがね」

「なら楽しみ方が違うだけさ。お前は美しい景色を見れて楽しい。俺は目的に近づいているのが分かって嬉しい。どちらも楽しんでいることに変わりはねぇだろ?」

「はは……とても楽しんでいるようで私も嬉しいよ」



 パトリシアは肩をすくめた。



「ま、残念ながらそろそろ旅の終わりだけどな」



 ウィリアムは扉を指差した。

 これまで見かけてきた扉はどの階も同じ形状をしていた。

 しかし、彼が示した扉はその通例とは異なる形状をしている。



「今までの扉は1枚板の引き戸だったが、コレは2枚の板が左右に滑るタイプの扉だな」

「明らかに他と違う。最上階を目前にこれは嬉しい話じゃあねぇか。終わりが見えてきた」

「しかし、開け方がわからないぞ?」



 パトリシアの言うとおり、扉の開閉方法が不明だった。

 通常、扉には緑か赤の明かりが灯っているが、この2枚戸の扉は光ってすらいない。

 ウィリアムたちから見ても機能が停止しているように見えた。



「動かすための仕掛けがあるはずだが見当がつかないな」

「冒険者歴が一番長いお前がわからなきゃ誰もわからねぇな。だけど、律儀に正規の方法で開け閉めしなくてもいいだろ?」

「一応、言っておくがその『やり方』ができるのはお前だけだからな……。普通の冒険者は選択肢にも入れないよ」

「お褒め頂き光栄だね。おい、ヴァルプルギス」



 ウィリアムは自身の人工聖霊を呼び出した。

 黒衣に身を包んだ人工聖霊は口元に笑みを浮かべている。



『さあ、ウィリアム。今日はどんなお洋服を御所望かしら?』

「小規模で高威力なやつ」

『じゃあ、これかしら』



 ウィリアムの服装が水色のワンピースへと換装される。

 詰襟と足がほとんど剥き出しになったスリットが特徴的な服だった。



『それは東洋の山岳国伝統の衣装でね、女性が様々な用途で着用していたわ。武術が盛んな国だったから動きやすい工夫がされているの』

「まぁ、素材も柔らかくて動きやすい。髪が団子になっているのも邪魔にならなくていいんじゃねぇか?」

『ふふふ、嬉しいわ。貴方もいよいよ服の感想が言えるようになったのね』

「……女装のし過ぎて頭がおかしくなったようだ」



 気を取り直し、ウィリアムは全身の魔力を一点に集中させる。

 へその下の丹田たんでんという部分に魔力が集まり、次に血の巡りにその魔力を乗せることで全身に循環させる。それにより、眠っていた経絡けいらくが活性化し身体能力が向上する。



「よし、行く……ぞ?」



 ウィリアムが集中させた魔力を放とうとした時、沈黙していた扉が動き出す。

 扉の上には見たことのない文字が浮かび上がり、左から順番に点灯していく。



「なんだ? 動きやがったぞ」



 かすかな稼働音を響かせる扉を前にパーティメンバーはその動向を伺うのだった。

 扉の上に書かれた文字が右から2番目のところに光が灯ると、軽快な音が響き稼働音が止んだ。

 ゆっくりと2枚戸の扉は左右に開く。



「警戒!」



 パトリシアの号令と共にエポックとぽちが警戒体勢に移り、ウィリアムだけは仁王立ちした状態で扉を睨んでいる。

 扉が完全に開かれ、中から数名の冒険者が現れた。



「ん?」



 出てきた冒険者の1人とウィリアムが顔を合わせ、見覚えのある顔だと気が付いた。

 数日前に階下でリザードマン相手に共闘した冒険者だった。



「おお、アンタらか!」



 嬉しそうな顔でリーダーらしき中年の冒険者がウィリアムへ駆け寄った。



「久しぶりじゃねぇか。元気そうだな」

「ああ、この前は世話になったな。そっちも誰も欠けずにいて何よりだ」



 互いに再会の握手を差し出したのだった。

 冒険者が迷宮内で再会することはあるが、挑戦者の数が少ない高難易度の古代遺跡での再会は非常に珍しいだろう。



「そういえば自己紹介がまだだったな、俺はトーマス。一応、このメンツのリーダーだ」



 不精鬚の中年男トーマスは腰に下げたロングソードから剣士とわかる。



「後ろにいる連中が俺のパーティメンバーだ。タンクがジーニー、魔術師がウェルザ、弓兵がロロウェイだ」

「俺はウィリアムだ」

「ウィリアム? もしかして、アンタが『あの』ウィリアムか?」



 トーマスはウィリアムの名前を聞いて目を瞬いた。



「『あの』と言われても、俺自身は何のことかわからんぞ」

「アンタちょいと有名人だぞ?」



 愉快そうにトーマスが笑う。



「って、ことはそっちの盾持ったのは風紀委員パトリシア、人工精霊愛好家のエポックに獣人奴隷のぽちだろ?

 ああ、悪い。気を悪くしたらすまん。けどよ、アンタらたった1年足らずでBランク上位なって、色々とやらかしてるらしいじゃないか。むしろ知らなかったら潜りだぜ?」



 名前を言い当てられ、顔を見合うウィリアム一行だった。



「俺らそんな有名なのか?」

「さぁ? 自分の評価とか気にしたことないッスから」



 自分たちの評価に無頓着なパーティメンバーに、パトリシアは苦笑いを浮かべる。

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