15話:オーガの階
前回のあらすじ。
二人は無事仲直りしたので通りすがりのオーガをスナック感覚で首ちょんしたとさ。
「この階は鬼どもの巣か」
「オーガ種はどんな特徴があるんですか?」
「基本群れる。やってることは人間と一緒だ。群れて効率よく獲物を狩る。ただし、自分たち以外全部敵か餌って考えだ」
「そんなの獣と変わりありません。ご主人様とぽちの連携の前に鬼は無力です」
「魔物と獣は違う。魔物は狡猾だ。仲間すら利用して人を罠にかける」
「はい、ご主人様はぽちが守ります」
「……話聞いてたか?」
斥候としてぽちはウィリアムの前を進む。
嗅覚、聴覚、視覚をフルに使い、潜んでいる危険を見つけ出そうとする。
「ご主人様、この先の角にさっきのハイ・オーガと同じにおいがします」
「数はわかるか?」
「1匹だけです」
「1匹? こっそり様子を見てこれるか?」
「はい」
足音を立てずにぽちが通路を駆け、曲がり角の寸前で背を壁に当て顔の半分を出しつつ奥の様子を確認する。
「上と下へ行ける階段がある広場にハイ・オーガが1匹で見張りを……居眠りしてます」
ウィリアムもぽちに倣って曲がり角から広場を確認する。
階段のある広場は物にあふれていた。
殺した冒険者から奪った物だと思われる装備品や廃材、他の魔物の残骸などが山を築き、その山は複数存在する。
「よく見ればノーフェイスが混ざってるな。この階の奴は根こそぎハイ・オーガが駆除してくれたわけだ。ははっ、いい奴らじゃないか」
「どうしますか、ご主人様?」
「ご親切に上と下の階段が揃って目の前にあるんだ。このまま進むぞ」
「あれは罠、なんですよね? 迂回しないんですか?」
「中身が分かっているドッキリ箱に引っかかる奴はいない。罠と分かった罠も然りだ。
それにどの道、進むにしろ帰るにしろここを通らなければならねぇ。俺の背中を預けるぞ」
「……! はい!」
その言葉と乱雑に彼女の頭を撫でればそれ以上の説明はぽちに必要なかった。無表情だった顔に喜びの色が差し込んだ。
「いくぞ」
ウィリアムは剣を鞘から抜き、地面を蹴った。
丈夫な床が軋むほどの踏み込み、居眠りしているハイ・オーガが瞼を開く前に近づく。
一振りで刃が胴体と首を泣き別れさせる。
しかし、彼は猛烈な違和感に襲われることになる。
「手ごたえがおかしい。生きている肉の感触じゃねぇ……」
その違和感の正体はすぐに判明した。
切り捨てたハイ・オーガの背に無理やり括りつけられた大量の糸と鈴があり、眠っていると思っていた顔は瞼を縫い付けられている。
「死体! こいつら仲間の死体を鳴子代わりにしたのか!」
鈴が鳴る。仲間を利用したお手製の警鐘機はよく響いた。
その音は扉の向こうで待機していたハイ・オーガたちの耳に入り、山積みにされたゴミで死角になっていた扉が開かれた。
大量のハイ・オーガが獲物を前に涎を撒き散らしながら押し寄せた。
あっという間にウィリアムとぽちはハイ・オーガの集団に囲まれてしまう。
「上、等!」
振り上げた剣がハイ・オーガの脳天を左右に分断する。
別のハイ・オーガが攻撃後の隙をつき、ウィリアムの脳天に錆びた鉄鎚をたたき込もうとした瞬間、両手が地面に転がった。
「ぽちの前でご主人様を傷つけさせない」
ぽちは静かな殺気を刃に込め、サポートに徹する。
両腕が突然なくなったハイ・オーガは転がっている手を唖然と眺めることしかできない。
「落としたぜ」
その声が聞こえたと同時に自分の持っていた鉄鎚によって、ハイ・オーガは脳漿を撒き散らすことになった。
「ご主人様、上にも」
部屋には梯子で壁沿いに作られた狭い通路に上れるようになっている。
そこにも扉があり、中からは弓矢を持ったハイ・オーガがウィリアムたちに鏃を向けている。
「しゃらくせぇ!」
ウィリアムはそこらへんに落ちている物を拾い、自分を見下ろすハイ・オーガに投げた。
『ゲギャ!?』
前衛的なオブジェへと姿を変えたハイ・オーガだったが、別の弓を持ったハイ・オーガが仲間の死体を踏みつけ矢を放つ。
首を横に傾けて矢を回避するが、大鉈を持ったハイ・オーガが後ろから彼に接近した。
「おい、ぽち。上のカタして来い」
大鉈を持ったハイ・オーガに裏拳を見舞いながらぽちへと指示を出し、
「はい」
ぽちが短剣でよろめいた大鉈のハイ・オーガの頸動脈を切り裂きながら承知した。
彼女は壁を数歩走ると弓を構えるハイ・オーガたちの居る高い通路に上る。ぽちからしたら2、3メートル程度なら梯子を使わずとも容易に移動できるのだった。
弓矢を持ったハイ・オーガたちは戦慄した。さっきまで下にいた獣人の暗殺者が安全圏にいる自分たちの目の前に華麗に着地したのだから。
「オラァ!」
上からの弓が降ってこなくなると、ウィリアムは剣を振り回しながらハイ・オーガたちを蹂躙していく。
無造作に振るったひと薙ぎで複数のハイ・オーガが次々と物言わぬ死体へと変わる。
「おら、どうした! 怖気づいたか!」




