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13話:くぅん

 前回のあらすじ。

 ウィリアムが美少女になってパトリシアと出会った時の話が終わった。

 一行はまた冒険へと戻る。

 古代遺跡の中には現代の技術では再現できないようなものがそこらに転がっていた。

 例えばガラス。

 町で普及している窓ガラスの大きさはせいぜい大人の身体半分ほどである。

 その点、古代遺跡のガラスは規格外だ。壁一面が透明なガラスとなり外を展望できるようになっているほどだ。

 分厚く、少し叩いたところではひびどころか傷1つ付くことはない。



「すごい大きなガラスッスねぇ。これでショーケースを作って人工聖霊を360度鑑賞できればどんなに素敵なことか」

「これほど頑丈な透明な板なら暴徒鎮圧時に盾として使えるのではないか? 視界が塞がらない、というのは大きな利点だ」

「見てくださいご主人様。ぽちとご主人様が映っています。このまま切り出してお家に飾れたらいいのに」



 人の身長よりはるかに高く、壁一面が区切れることなく1枚のガラス。

 そこから展望できるのは数え切れぬ高層建造物たちと遥か下に見える地上。

 薄くなった空気に地上よりも強い風が吹き曝す高層階で外の音はおろか、風による振動さえも遮断してしまう。

 これを作り出すのは町の職人、ひいては国の誰であってにもできないだろう。

 ウィリアムも古代遺跡で見られるものには技術水準の高さを感じるが、彼としては一刻も早く元の姿に戻る手段以外には興味はなかった。

 持ち帰れば人々の生活が安定し裕福になるものがあろうが、巨万の富に繋がろうが、得られるかもしれない名誉と名声にも、彼は微塵も興味がなかった。

 彼は自分の命があり、自由があり、生活のできる仕事と最低限の賃金さえあればこの上ない幸福だという結論を若き日から気づいてしまったのが原因だろう。

 伊達に幼少から剣奴をやってきた訳ではなかった。



「お前ら、いいから早く行くぞ。またノーフェイスが出てきたらたまったもんじゃねぇ」



 ウィリアムが急かすと窓辺に張り付いていた女性陣がようやく動き出した。



「この階はいつにも増して奇妙だな」



 ウィリアムの後ろからパトリシアが告げ、嘆息交じりに彼も同意する。



「シンプル故に何かあるんじゃねぇかと勘ぐらされるな」



 彼らがいるのは通路も部屋も扉もなく、あるのは階段のみという階層だ。

 下層へと続く階段と上層に登るための階段は直線にして5分とかからない道のりである。

 それ以外の四方はガラスが1面、窓のない壁が3面という作りになっていた。



「一応、罠を警戒するぞ。全員、3人分くらいの間隔を取って進む。順番はパトリシア、エポック、ぽち、俺」



 罠が存在する可能性を考慮し、全員がお互いをフォローし合える距離を保ちつつ、一網打尽にならないように間隔を離すことにした。

 先頭のパトリシアは前方を警戒しながら、慎重に進む。



「何かあったら前の奴を優先しろ」



 後方からウィリアムが指示を出すと、ぽちがほんの一瞬だけウィリアムを見てすぐに視線を前に戻した。



「ぽち、どうした?」

「何でも、ないです」



 ちょうど部屋の真ん中あたりに一行が進んだ時だった、けたたましい音が部屋に響く。

 焦燥感を湧きあがらせる音だった。

 パトリシアが前方に対し盾を構え、エポックとぽちが後方から彼女を支援できるように注意を払った。

 ウィリアムは後ろを警戒する。



「足下!」



 パトリシアの声がした瞬間、部屋全体の床が急上昇する。

 迫りくる天井は前後の階段へたどり着くよりも早く彼らと接触しそうだ。



「ヴァルプルギス! 攻撃力高めのやつ!」



 ウィリアムの服装が一瞬にして冒険者ものから純白のレースと銀の鎧という清廉で高潔なものへと変わった。

 手には両刃の剣を握り、刀身には獅子の意匠が施されている。



「『金獅子のライオネル・クラウン』!」



 刀身が魔力で覆われ、ウィリアムが振り上げたことで、地から空へと稲妻が登った。

 その威力は迫りくる天井を大破させ、巨大な裂け目を作り出し、成す術なく床と天井に挟まれ圧死するしかなかった運命を強引に捻じ曲げた。



「飛び込め!」



 パーティ全員が遮二無二になって天井にできた裂け目へと飛び込んだ。

 ウィリアムが上層へ飛び込んだと同時に下層の床が天井と接触する振動と轟音が響いた。

 すかさず次に全神経を集中させ、周囲の警戒にあたる。

 彼が飛び込んだところは部屋だ。扉が1つ、窓はなし、床にはウィリアムが明けた穴以外は何も置かれていない。



「ひとまずは安全、と」



 ウィリアムは自身に早急な危険が及ばないことを確認できると警戒を解いた。

 そして、こめかみに青筋を浮かべ、猛獣のような視線を後ろに向けた。



「……くぅん」



 ぽちがいた。

 怒られた子犬のようにぽちはウィリアムの視線と目を合わせようとしない。

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