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12話:昔話⑥

 前回のあらすじ。

 再びパトリシアの銃弾を受けたウィリアム。

 パトリシアの勝利。

 どちらかがギブアップか戦闘が続行できない状態に陥る。ウィリアムが承諾し、ここにいる全員が証人となった。この勝敗のルールに則り、誰もが決着だと確信した。

 そう思った直後、



「パトリシア!」



 ギャラリーの1人が異変に気付き声を上げた。

 だが、歓声にかき消された。

 彼女が気づいた時には既にウィリアムの拳は左頬にぶつかった後だった。



「っ!?」



 一切の抵抗もできず、パトリシアは吹き飛ばされ、ギルドの壁へと激突する。

 その衝撃はギルド内が覗ける大穴を作り出すほどであり、疲弊していた彼女の意識を一発で刈り取った。



「な……!?」

「パトリシア!」



 パトリシアはピクリとも動かない。完全に失神している。

 静まり返るギャラリーの中、土を踏みしめる音が聞こえる。

 ウィリアムが俯いたまま足を1歩前に出した。

 ゆっくりとした足取りで前へと進む。



「お、おい、もういいだろう!」



 ウィリアムに一番近いギャラリーが、静止させようと肩に手を置いた。



「あんたも怪我してんだ、早く治療を……」



 男は絶句した。

 ウィリアムは虚ろな瞳でただただパトリシアの方を向いて歩むのをやめない。

 力のない彼の表情に意思は宿っておらず、話しかけている男の声さえ耳に届いていない。

 静止している男は信じられないと言った顔で、



「おい、誰か止めてくれ! こいつ、気絶してるのに戦おうとしてる!」



 大声で助けを求めた。

 それを聞いた男衆は急いでウィリアムの周りに集まる。



「待て待て待て!」

「終わりだ! おい! 終わりだって!」

「どんな力してんだ! この人数で抑えられねえ!」



 数人の男がウィリアムの腕、胴、衣服を掴み、静止を試みるが彼は止まらない。

 彼を拘束しようとしている全員を引きずりながら、歩むのをやめない。

 戸惑う群衆の中から、受付嬢が今にも泣きそうな顔で、



「み、みなさん、離れてください! 危険なので離れて!」



 と、透明な筒の中に複雑な印が刻まれた魔道具を持って現れた。ウィリアムを抑えようとしていた人間がみんな避難するのを確認し、受付嬢は彼の足元へその魔道具を叩きつけた。

 地面へぶつかった衝撃で筒は砕け、周囲に魔力が溢れる。 

 一瞬にして周囲の温度を奪い、猛烈な冷気が膨れ上がった。

 ウィリアムは半身が氷に包まれ、身動きが完璧に封じられた後もしばらくは前へ進もうと足掻いていたが体力の限界が訪れ停止したのだった。

 こうして決闘は終了した。

 どちらの勝ちなのかと議論が生まれるほどの話題となり後に『ギルド前の決闘事件』として冒険者たちに語り継がれた。

 昔語りが終わり、夜は耽っていた。



「ま、結果、俺に絡んだ連中は後日土下座しに来て、パトリシアは俺の監査役になった、と言うわけだな。なんとも締り所のよくわからない結末になっちまった」

「一応、言っておくが決闘の前と後で監視役の意味が違うぞ。

 決闘前は問題児の監視だったが、決闘後は貴重な戦力を遊ばせておくのはギルドの損失だと判断し、早急にランクを上げる必要があると思ったわけだ。むしろ優遇措置だ」



 エポックとぽちはすでに小さな寝息を立てている。

 最初こそはウィリアム以外に唯一彼が現在の姿になった経緯を知っていたヴァルプルギスが話をしていたが、ギルドに行って3人組みに絡まれた辺りになると飽きた彼女は話し手の役目をパトリシアに押しつけ、エポックと2人で人工精霊や自身の価値観を語り始めてしまった。

 そして、ぽちが寝入るまでの間、パトリシアは『ギルド前の決闘事件』を話す羽目になってしまった。

 まだまだ長い夜を過ごすにあたり、ウィリアムは酒が欲しい気分だったが生憎なことにここはダンジョンだ。そんな気の利いた物は一切存在しなかった。



「俺はちょっかいかけてくるバカがいなくなって、ランクも早くに上がって、攻略メンバーが見つかったから文句はないがな」

「私は正直、古代遺跡攻略の話を初めて聞いてここに来ることになるとは思わなかったよ」

「冒険者になったばかりの奴がよく言う大言壮語だとでも?」

「まぁ、そんなところだ」



 ウィリアムの目標は最初からここ、古代遺跡だ。

 冒険者になりたての頃、関わりを持った人間にそれを言うと真面目に相手にされないか、失笑を買うだけだった。



「今ではギルドや商店の皆は応援しているじゃないか」

「ま、女装した冒険者の話なんか信じないわな」

「ああ、そういえばお前が男だと言った時もギルドの皆は信じなかったな」

「ちゃんとその場で証明しただろう? お前のリアクションは尋常じゃなかったけど」

「いや、それは……仕方のないことだろ?」

「証明するために下を脱いだ時、自分がどんな声出したか覚えているか?」

「その話はよそう、そう、もっといい思い出があっただろう」

「きゃー、だったか」

「この話はもういい! だいたい、初めての採取依頼で不注意に幻惑草に近寄って記憶を失った時は自分の姿を見て女だと思い込んでたではないか! それだけお前の容姿は女性的なんだ!」

「いやなこと思い出させんな!」



 1つの話をきっかけに、2人は思い出話に花を咲かせた。

 まだ来ない夜明けまで、退屈な見張りの時間は少しだけ賑やかに過ぎていくのだった。

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