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11話:昔話⑤

 前回のあらすじ。

 至近距離で榴弾を食らったウィリアム。

 肩で息をするパトリシアにギャラリーの声は届かない。

 まだ冷めない身体の熱、高鳴る心臓、鎮まらない心はまだ戦いを終わりだと思っていなかった。

 再び盾を構え、銃の先端に付けられた装填器具を前後させた。



「おいおい、もう決まっただろパトリ……」



 近くのギャラリーが彼女へ近寄ろうとして止まった。

 他の者もさっきまでの歓声が嘘のように静まり返った。

 ギャラリーもパトリシアも視線を向けるのはただ1つ。

 平然と立ち上がったウィリアムに大勢の視線が向けられてた。



「でかい盾を構えてるから攻撃手段は片手でとり回せる物だとは思ったが銃か」



 服に血が滲み、口の端や額から流血しているものの彼は何食わぬ顔で構えをとった。



「嘘だろ……」



 至近距離での大型討伐銃による爆撃を受けて無事でいられる彼に皆が畏怖する。



「ふふ。まだだ」



 パトリシアは笑みを浮かべる。普段の彼女からは想像もできない獰猛な笑みだ。

 彼女は自分が笑っていることに気がついていない。ただ漠然ともう少しこの時間を続けたいと感じていた。



「おォォォ!」



 ウィリアムが前傾姿勢でパトリシアへ迫り、彼女は距離を詰められまいと右手に持った銃から弾丸を放つ。

 顔の前で両腕を交差させウィリアムは榴弾の爆発を真っ向から受け止める。



「榴弾では勝負を決められない、か。化物め」



 彼の動きは鈍ることなく、再びパトリシアと腕を前に差し出せば届く場所まで接近した。



「ふん!」



 大木を薙ぎ払えそうな回し蹴りがパトリシアの盾を襲い、地面ごと彼女は後退する。

 反撃の隙を許さず、ウィリアムは距離を詰める。

 一方、パトリシアは再び防戦を強いられていた。

 彼女が使用している銃という武器は冒険者の中で使用者が少なく市場も小規模だ。

 メンテナンスを怠れば威力や命中率が下がり、最悪値段の高い鈍器と化す。

 長期の旅ではメンテナンスの道具や手間は致命的なものとなり一部の愛好家くらいしか使っているものがいないだろう。

 彼女がそんな武器を選ぶ理由とは、防御中心の戦術の幅を広げるためである。

 盾役は味方を敵の攻撃から守る役職上、命の危険が高いために冷静な判断力と確かな技術、長年の経験によって『堅実さ』を必要とする職種だ。

 パトリシアは盾を最大限に有効に使うため、銃の他にも魔術や他の武器・道具を用意している。だが、ウィリアムの超接近戦よって彼女を防御に専念させることによって、その他の手段へ切り替えることを阻害し、事実上封殺されている。



「はは、どうした、どうしたぁ!」

「只者ではないと思ったがこれほどとは……私に与えられた好機はあといくつもないな。だとするな、次で終わらせるつもりで行くしか勝機はない!」



 ウィリアムの蹴りがパトリシアを捕らえるが、放たれた足は残像を薙ぎ払うだけで一切の手ごたえを感じなかった。

 彼の側面にいつのまにかパトリシアが移動していた。



「それはさっき見たぞ」



 ウィリアムは予測していた移動先に肘鉄を繰り出す。

 彼の肘が真横に移動したパトリシアの盾に吸い込まれる。

 が、しかし。それもまた残像だった。



「……っ!?」



 さらにもう1歩分、彼女は横へ移動していた。

 2回分、攻撃が避けられたことによる隙。

 パトリシアは、持っている銃のグリップから手を離し、銃身を素早く装填装置を上下させ、すぐにグリップを握りなおした。

 ポンプ式の装填行為をジャグリングのように片手で済ます。



「拘束せよ、ピクシーズ!」



 パトリシアの声に反応し、彼女の盾が形状を変えた。

 1枚の板だった盾が分裂し、複数の鉄片に姿を変えた。1枚ずつに意思があるようにウィリアムへ迫る。



「なに!?」



 鉄片には人工精霊の姿があった。おとぎ話に出てくるような羽の生えた妖精だ。

 人工精霊を武具に組み込み運用する冒険者は珍しくない。

 ただし、パトリシアが従えるのは1枚の鉄片につき1体、総数48体で1つの人工精霊『ピクシーズ』だ。



「出たぞ! パトリシアの奥の手!」



 ギャラリーの1人が叫んだ。

 48枚の鉄板はウィリアムの身体に纏わりつく。

 たった1枚が身体に触れた瞬間、ずしりとした重圧が襲った。



「動けねぇ。魔術での拘束か!」



 常人をはるかに超える身体能力を有するウィリアムだが、下級の竜種の動きすら止められる拘束術には抗えなかった。



「くそ、どけぇ!」



 パトリシアは、ウィリアムの前まで歩む。

 その距離は互いの吐息がかかるほど近い。

 彼女は銃口をウィリアムの胸に当て、目を見据える。



「3発目は敵を仕留めるために火薬の量を多くしている。降参するなら今だぞ?」



 パトリシアの警告にウィリアムは、



「面白い冗談だ」



 笑顔で拒否した。

 ゼロレンジから引き金を絞り、銃口から榴弾が発射された。眩い光と耳をつんざく爆音がウィリアムを包み込む。



「やり過ぎだろ……」

「死んだんじゃないか?」

「耳いてえ」

「げほっ……」



 煙によりギャラリーはおろか、パトリシアでさえウィリアムの姿を見失う。

 パトリシアは正面の煙を睨みつけたままだ。

 汗が頬を伝い顎から滴る。

 息はとうに上がり、腕は痺れて感覚がない。

 銃の弾丸は尽いた。

 立っているだけで精一杯だった。

 だが、まだ彼女の心は戦っている。

 ウィリアムの倒れた姿を見るまでは気を抜けなかった。



「あ」



 ギャラリーの誰かが声を漏らす。

 煙が晴れ、ウィリアムは顔を俯かせながら地面をその足で踏んでいた。

 レールのように地面に2本の線が描かれ、榴弾の威力で後退した跡が見られる。



「い、生きているのか?」

「立ってるぞ」

「なんであれ食らって原形留めてるんだ……」



 パトリシアは全身の骨が軋み、筋肉が悲鳴を叫んでいるが構わず彼の元まで歩み寄った。

 手をウィリアムの額に当て、前髪を払い表情を確認する。



「気絶している」



 彼の瞳には力がなく、誰も写していなかった。

 パトリシアは高らかに腕を上げた。

 ギャラリーは呆気にとられたまま、天高く銃を掲げる彼女に視線を集める。



「私の勝利だ!」

「「「うぉおおおおおおおおおおおおおお!」」」



 空気が震えるほどの喝采がギルド前の通りを包んだ。

 途中から観戦に来た者、建物から覗いていた者さえ巻き込んだ人々の声は共振するように響き渡る。

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