Vol.12
優太がそんなことをしていた頃もう一人の客人の未散はというと……衣に事情聴取をしていた。
衣の部屋の前に立ったときは「入るな」と抵抗されるかと思い躊躇したが、思い切ってノックをしたら……簡単に入れた。
未散が思ってたとおり衣は後悔の念に駆られている様子で1人で泣きはらしていた。
――この2人は一体何なの。
未散はかなり呆れてしまっていたがこの際仕方がない。
「衣、座ろうか」
未散は部屋のドアまで自分を迎えに来てくれた衣と一緒に部屋の中に入り絨毯の上に座った。
「衣さぁ、くっつきたいないならくっつこうよ。あたしもいい加減疲れてきたんだけど」
「……はい……ごめんなさい……」
「いや、謝られても困るんだけど」
「ごめんなさい……」
「……だから、あたしに謝らないで」
まったくこの美少年美少女コンビはどっちも主人公泣かせでしょうがない。
「わかってると思うけど、優太は『衣に嫌われた』って思ってるからね。衣がなんにも言わなかったらここで話は終わっちゃうからね」
未散はちらと衣を見てちょっとだけ冷たく言い放った。
「未散ぅ」
衣の方は口をへの字にして泣くのを我慢しているが、すでに瞬きしただけで涙がこぼれそう。
――やっぱり衣ってかわいいわ。
未散はその姿に思わず、
「衣、もういいよ。もうわかったから」
……そう言いそうになる。
しかしそれではダメなのだ。
なぜならそれは、優太が『察する』ということができないがきんちょ……いや、少年のような男なので、残念ながらこの衣の複雑な思いを汲み取る器量がないから。
未散はわざとぷいっ、とそっぽを向いた。
「もう!かわいく泣いたって優太にはわかんないわよ、あいつニブいんだから」
「……ふえーん……!」
自分でもわかっていることを未散にまた言われ、衣ははらはらと涙をこぼす。
――しまった、強く言い過ぎた。
衣の姿に未散はビクッとする。
――あーもうどうしよう……収拾つかないよ……。
ごめん悪かった、と謝り衣の頭をぽんぽんと撫でながら未散は考えを巡らせる。
――優太も5年も好きな女の言動パターンくらい把握しておいてほしいよ……なんであそこまで鈍感なのよ……。
未散は心の中で優太に文句をたれる。
……とそのときに、
「衣っ!」
と優太がそう叫びながら登場したのだ。
「……だから、なんで優太っていっつもそうなの?!いきなり人の部屋のドア開けないの、しかも女の子の部屋なのに!」
未散は優太にお説教をする。
「……で、なんなの?今度は何?」
多分下で衣ママに何か言われて衝動的にココに来たんだろうと感づいた未散だったが、あえて気づかないフリをして優太をわざと睨みつける。
「いや、あの、えっと……」
未散の質問に優太は辟易する。
それを見て未散は思わず噴出してしまった。
――もういいや、優太にまかせちゃおっと。
無責任この上ないがふと思いついた案に未散は開き直った。
どれ、と未散は立ち上がる。
「じゃああとは若いお2人でどうぞ」
まるでお見合いを取り仕切っているオバちゃんのごとく「ほら入って」と未散は廊下で突っ立っている優太を衣の部屋に入れると、「はい座って」と衣の正面に立たせた優太の腕を下へと引っ張り座らせた。
「優太、今度は……」
ドアを閉めようと振り返った未散は優太に「早まるんじゃないわよ」と言おうとしたが、
「……まあいいやなんでもない。これ以上言うとオバちゃんみたいだからやめとく」
じゃあね、と未散はバタンと部屋のドアを閉めた。
――あーもうー大丈夫かなぁ……。
本当は心配でしょうがないがあの場に自分がいても不自然なだけ。
未散の長年の悩みは今日で解消されるのかは定かではないが下で待つことにした。
廊下を歩いている途中で「なんだよオバちゃんて」と優太の不服そうな声が聞こえたが、未散は完全に無視して階段を下りた。