執事のひとりごと
主の部屋を出て、思わずわたくしは、ほくそ笑みました。執事たるもの、そう易々と感情を表に出してはならぬ、という掟ゆえに留めましたが、本当は、小躍りでもしたい気分でございます。
あの人嫌いのルーイ様が、一人の女性にお心を傾ける日が来ようとは!
初めは、王宮から侍女として遣わされたリーゼロッテ様を、ルーイ様は疎ましく思っておられたようです。王宮から送られてくる侍女は、皆、第一王子のエーリッヒ殿下の配下にある者ですから。
しかし驚いたことに、リーゼロッテ様がこの城へ来て三日目には、ルーイ様とご一緒にお茶をなさるようになったのです。
今までの侍女ではあり得なかったことでございます。
リーゼロッテ様は確かにエーリッヒ殿下から、ルーイ様の監視を言いつかっているようですが、彼女にとってそれは二の次で、第一義はルーイ様の侍女として働くことらしいのです。その姿勢がお気に召したのでしょう、ルーイ様は、リーゼロッテ様をお側に置くようになりました。
リーゼロッテ様は、こう言っては何ですが、特別お綺麗というわけではありません。けれど、花のような方なのです。あの方の持つ、花のように可憐で心を和ませる雰囲気や、大地に根を張る花のように、たくましく芯の強いお心が、きっとルーイ様の頑ななお心を解いてくださると確信しております。
今朝ほどルーイ様とリーゼロッテ様は少々誤解があったようで、気まずい思いをしていらっしゃるようでした。その理由をリーゼロッテ様からお聞きして、わたくしは思わず笑みをこぼしてしまいました。
ルーイ様の行動は、すべて、リーゼロッテ様を想うがゆえのこと。そして、それに対するリーゼロッテ様の反応も、ルーイ様をお慕いするがゆえのこと。
わたくしはルーイ様が幼い頃からお仕えしてまいりましたから、あのお方が心根のお優しい方だと存じています。けれど、王宮でのお立場や不穏な噂のせいで、ルーイ様は畏怖されることが多いのです。しかし、リーゼロッテ様は、この短期間にルーイ様の本質を見抜き、あの方を受け入れてくださいました。
ルーイ様は王妃であらせられる母君の愛を十分に受けられなかった哀しいお育ちのせいか、人と交わることを不得手としておりましたが、リーゼロッテ様はそのお心に自然と寄り添い、ルーイ様のあの美しい瞳を、真っすぐに見つめ返されるのです。
お二人はまだ、ご自分のお気持ちに気付いておられないようですが、何かきっかけがあれば、すぐにお心が通い合うようになるでしょう。
そのきっかけを、たった今蒔いてきたところでございます。
どのような花が咲くか、今から楽しみでございますね。ふぉっふぉっふぉっ。




