廃病院でひとりかくれんぼをやってみた
とある廃病院の解体作業中、壊れたビデオカメラが見つかった。それにはとても奇妙な映像データが残されていて、そしてその奇妙な映像データの中身にはなんと行方不明で捜索願が出されている人物が映っていた……。
「みなさんこんばんは、リョウです。今現在、幽霊が出ると噂の廃病院で一昔流行ったひとりかくれんぼやっています」
廃れた宿直室の押し入れの中、暗視モードのビデオカメラを自分自身に向けながら小さく独り言――この先動画を見るであろう何人もの視聴者に向けて話す。
「私の鬼はもう済ませて、今はこれと同じ熊のぬいぐるみが鬼の番です。幽霊が出るという廃病院でひとりかくれんぼをやったらどんなことがおきるでしょうか」
そう言い終わると持っていた熊のぬいぐるみとビデオカメラを、そっと押し入れの隅っこの積み上げた瓦礫の上に置き、恐怖に呑まれそうな弱弱しい自分を映す。
「なんだか……寒気を感じます。とても気味が悪いです」
一切合切の生命をも感じない静寂、まるで冥界にいるかのような暗闇に、ぞわっとした寒気が全身を震える。気を紛らわせるようにビデオカメラに向かって話しつつ、ひとりかくれんぼを終わらせる為の塩水をそっと持つ。いつでも終わらせられる用意と、状況報告だけはしっかりとしながら幽霊が来るのをじっと待ち続ける。
押し入れに隠れてどれくらい経っただろうか――?
静かにポケットからスマホを取り出し時間を確認しようと思ったその時、
――ギイィィ。
閉めていたはずの宿直室のドアが開く音がした。
「はっ……」
ドクン、ドクンと心臓が高鳴り飛び出しそうになる。ヘッドホンで聞いているような、うるさい鼓動を感じながらすぐにスマホの画面をすぐに地に伏せて光が外に漏れないように消し、ゆっくりと祈るように塩水を持ちながら身を縮ませた。
一呼吸、一呼吸――浅く、静かにして時が過ぎるのを待つ……。
押し入れの向こう、宿直室から幽霊の気配が無くなったと思ったら持っていた塩水をすぐさま一口含む。そしてビデオカメラと塩水が入ったコップを持つと、幽霊から逃げ出すように勢いよく押し入れから飛び出した。
トイレの洗面台、水が溜まったその中にぬいぐるみがある。ビデオカメラで周りを撮るのも忘れて、脇目も振らず全速力で走りトイレに向かった。
入った瞬間、戦慄した。
洗面台に置いていたはずのぬいぐるみが、まるでひとりでに動いたかのように床に転がっていたのだ。驚きで立ち止まってしまうが、ひとりかくれんぼを終わらせるためにはこのぬいぐるみに塩水をかけるしかない。
コップの中の塩水、口に含んだ塩水の順にかけてそして宣言をする。
「私の勝ち、私の勝ち、私の勝ち」
これでひとりかくれんぼは終わりだ。
息を切らし、腰を曲げたまま持っているビデオカメラを自分に向ける。
「はあ、はあ……。やばい、相当やばかった。廃病院でひとりかくれんぼなんてやったら絶対呪われる……。だからこんな事は止めとけよ」
視聴者に感想とその危険性を伝えてから「ふう」と一息つき、少し落ち着いたら自分に向けていたビデオカメラを元に戻して顔を上げた次の瞬間、目の前の鏡に顎から上が無い顔なしの女性が後ろに佇んでいた……。
「うわあああぁぁ」
恐怖と驚愕でビデオカメラは手元から落ち〝ガシャン〟という音と共に映像は途切れてしまった――。
この顎から上が無い女性の幽霊はひとりかくれんぼをして呼ばれたのか?
はたまたこの病院に出ると噂の幽霊だったのか?
そしてこの映像を撮ったリョウと名乗る人物はビデオカメラを置いてどこに消えてしまったのか?
その答えを知るのはこの顎から上が無い女性の幽霊だけなのかもしれない……。