第15話 幽々たる者
今回はシリアス要素が多くなった気がします。
そうなるとどんどん後始末が大変になる訳で。
そろそろ投稿ペースを元に戻したい…
「よし。使ってくれたか」
黒い世界の中で、1人の男がそう呟いた。
「これでもう廻す事も無いと思いたいが…」
(まあ、何が起こるか分からないからな)
「用意しとくか…」
【覇王の棺】が、無理矢理こじ開けられる事で、少しずつその中身が流れ出ていく。
(なるほど…な。このせいで死んだ…のか…)
強力な魔力の嵐に晒されながらも、脳に大量の情報が送り込まれてくる。増幅された大量の魔力が、自身の身体を通って魔法陣に吸い込まれる。そんな状態で、例え魔力の扱いに優れた吸血鬼と言えど、そう長く持つ訳が無く、既に吐き気と頭痛、それに目眩にも襲われて、地面にうずくまっていた。
(もう少し…もう少しで…)
何も考えられない程の頭痛に、顔を歪める。
(もう少しで…俺の…)
全身のありとあらゆる物を抉り返されるような、今までに感じた事の無い苦痛。
(俺の…本当の記憶が…)
ほんの少しの光に向けて右手を伸ばす。
(もう…少し…なのに…)
必死に歯を食いしばる。
(これ以上は…もう…持たない…!)
鼓動が速まり、脳に響いてくる。
(だ…駄目…だ…)
色んな記憶が蘇る。家族と過ごした暖かい時間。シャノと過ごした楽しい時間。
(これ以上続けたら…)
前世とは違う、生きる価値があると思えた日々。毎日が楽しく、明日に希望を持つということを実感できた日々。
(戻れなくなる…!)
ただ盲目的に生きるのでは無く、自らの意思で、自らの望みの為に、全力を尽くすことの出来る、この世界に。
「なんっ…!」
顔を上げると、そこには敵が放った視界を埋める程の魔法や、矢が目の前に迫っていた。
〜???〜
『世界に対する虚偽を観測。対象の抹殺を検討』
『対象に【処刑者】を確認。抹殺の中止を提案』
『抹殺の中止を容認』
『代わりに罰を与える事を提案』
『【処刑者】以外の【処刑者達】の剥奪及び幽々たる者の付与を提案』
『各称号の剥奪を及び、称号の付与を容認。
【創造者】【暗殺者】【狙撃者】【賢者】【聖者】の称号を剥奪。
【創造者】の剥奪に失敗。
【創造者】の使用記録をロード…完了。
【称号:幽々たる者】を付与…完了』
その瞬間、光の壁が現れる。万物を守護する守護者の盾が。盾の向こうでは、幾度となく爆発が起こり、大量の魔法が盾によって防がれている。
「お兄ちゃん!」
声が聞こえる。
「シャノ!?」
いつの間にか魔法陣は消え、俺を襲っていた苦痛も消え去っていた。
「大丈夫!?お兄ちゃん!何だか凄く辛そうな顔してたけど…」
「大丈夫だ。今はもうなんともないから」
「本当?本当に大丈夫なの?」
「ああ、本当に大丈夫だ」
「なら良かった」
シャノはホッとした様子で胸を撫で下ろした。
「こんな可愛い妹に心配をかけさせるなんて、兄貴失格だな」
「そんな事ないもん!お兄ちゃんはいつだって私のお兄ちゃんだもん!」
「ふふっ」
思わず笑ってしまった。
「なんで笑うの!?」
「いや、怒ってるシャノがあまりにも可愛いかったからつい」
「もー…お兄ちゃんの意地悪」
顔を膨らませるシャノ。
「ごめんごめん。この埋め合わせはちゃんとするから」
「じゃあ、今度またホットケーキ作って!」
「分かったよ。約束だ」
「えへへー」
ニッコリと笑顔を浮かべるシャノ。
(本当に可愛い妹だ…)
優しく頭を撫でながら、シャノに話しかける。
「じゃあ、ちょっと行ってくるよ」
「うん。気を付けてね」
「おい!本当に大丈夫なのか!?」
走ってきた父さんが話しかけてくる。
「うん。大丈夫。父さんの方こそ大丈夫?」
普通の人間があれだけの魔力を浴びたらヤバそうだけどな。
「馬鹿言え、俺はこの程度じゃ何ともねえよ」
と言いつつも、かなりしんどそうだ。
「じゃあ今度こそ行ってくる。シャノはちゃんと家を守っておいてくれよ!」
〜イギリシア・ショウフラン〜
俺は冒険者ギルドの、ユラアーシ王国セカンワールウォード支部のギルドマスターをしている、イギリシア・ショウフランだ。今は、俺の大親友である、クレイヤ・レイ・グレイの要請を受けて、王国所属騎士団と、同じく王国所属魔道士団数十人と共に、彼の自宅へと急いでいる。先程、彼の自宅の方からとてつもなく強大な魔力が発せられて、セカンワール領の住民や王国所属軍が大騒ぎになっていた所、彼からその影響でスタンピードが起こったとの連絡が入り、すぐさま王国所属軍に協力を依頼して、今まさに彼が作ったという転移用の魔法陣を起動し、現場に到着する所だ。
魔法陣の魔力に包まれ、思わず目を閉じる。光が止むと、山のここよりもう少し登った辺りで、物凄い儀式魔法が展開され、その魔力がかなり離れたこの場所にもビリビリと伝わって来る。誰がやっているのかは知らないが、とても人間が行えるとは思えない魔力量だ。
「ギルマス…これは、かなり不味いんじゃないですか?」
「あぁ、そうだな」
王国軍は怖気付いたのか、皆戸惑っている様だ。貴族出身の者の中には泣きながら「俺は行かない!」と、駄々をこねている者もいる。
(これだから温室育ちのガキは嫌いなんだ)
「…どうします?」
「わざわざ聞く必要あるか?」
「ですね」
と、後輩が苦笑する。
「これよりこの魔力の源へ行く!全員俺に続けー!」
「「「「「ウオォォォォ!!!」」」」」
(本当に、何が起こっているんだ?)
〜???〜
「処刑者…か」
広い部屋の最奥にある玉座にいる者が、そう言った。
「調査は如何しましょうか」
「頼む。今はまだ脅威とは言えんが、何をやらかすか分かった物じゃない」
「承知しました」
「くれぐれも、我々の存在を悟らせるなよ」
「仰せのままに」
(さて、何をやってくれるのか…)
「楽しみだ」
次回は多分戦闘になります。遂に戦闘です。一度諦めた戦闘です。今度はもう逃げない!
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