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「そうですね。炙った後に長時間茹でた塩味だけのものなので島国のような複雑な味付けではありませんが美味しいですよ」
「それは楽しみだな。しかし1つしか頼んでいないがいいのか? 他に食べたいものがあるなら別のみ」
「大丈夫ですよ」
羊の頭が1つしか頼まれていないことにアメリアが気づき、心配するが、メイソンに宥められる。
「2人で食べるのにちょうどいいぐらい大きいんですよ。頭を半分にはしてありますが、それでも元が最大体長2メートルを超す羊ですから」
「なるほど。それならいい」
そのまま店の前を通る人々を何となく観察していると羊の頭が来た。
それは意外とテカテカしている見ただけでわかる羊の頭だった。
「ほほう、これが羊の頭か、随分と大きいな」
「切り分けちゃいますね」
メイソンが素早く羊の頭を切り分ける。なお、特に美味しそうな頬の肉がアメリアの方に多く偏ったのは別にメイソンがアメリアのことを好きだからではない。と思う。
「ふむ、あまり臭みがなくて美味しいな」
「基本的に肉食は不味く、草食は美味しいですから」
2人が次々と肉を口に運び、皿を空にしていく。
そしてちょうど食べ終わり、一息ついたところで一応持ってきていた通信機から声が聞こえてきた。
『そろそろミーティングを始めるから戻っておいでー』
連絡してきたのは、アメリアの仲間のミア・ポスルスウェイトだ。ちょうど一息ついたところに連絡してくるあたり『資本主義』よりもタイミングがいい、と思いたいところなのだが残念ながらそんな神秘は流石の『神政主義』でも起こすことは出来ない。
「……どこに盗聴器を仕掛けたんだ?」
『別に盗聴器なんて仕掛けていないよ。ただ私の守護霊から連絡を受け取っているだけだよ?』
「今私はスイッチを切った状態で会話ができているんだがどういうことだ?」
アメリアは通信が入ってすぐにスイッチを切り、その状況で会話していた。勿論、機械というものは電源が入っていない状況で動くものでは無い。
『私の守護霊はスイッチが切れた通信機と別の通信機を繋げることを得意としているんだって前にも言った気がするよ、鎌のアメリアちゃん』
「『鎌』が戦闘特化で『顔』よりも知能が低いことは事実だが、もう1つ事実を教えてやろうか?
『随分と限られた特技だな。貴様の守護霊は幸運を司っているのではなかったか?』と、前に言ったはずだが」
少しイラつき始める『鎌』のアメリアちゃん。だがそのイラつきも次の言葉で驚愕に変わる。
『とりあえず、彼氏と一緒に買った土産を忘れないように急いで帰ってきてくれ。それとこれが終わったら肉の感想と彼氏とはどこまで行ったのか教えてちょうだいね』
「彼氏ではないし、どこまで見ているんだ? というかあってまだ2、3時間しか経っていないのに好きになるとか余程の一目惚れでもなければないだろう。私が一目惚れするような女に見えるか?」
『(出会って数分の女性に担当の長官室までだけではなく長い買い物や食事にまでエスコートしてくれているんだが、そこん所は気にしないんだね)』
「何か言ったか?」
「そうは見えないけど、女なら一目惚れする時はあるってことを小声で言ったんだよ」
なんで小声で言うんだ?
と、不思議そうなアメリアに対して先程から一度も喋っていないメイソンは悲惨なことになっていた。
具体的に言うとミアの彼氏発言によって拍動が加速した心臓にアメリアの純粋な言葉のナイフが刺さり失血死しそうになっていた。
「ん? どうしたんだ? 心臓に持病でも持ってるのか?」
「大、丈夫、です。早く行きましょう」
ものすごい精神力を使い何とか耐えた。
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「さて、それじゃーミーティングを始めるよ」
「とりあえずその指示棒じゃなくてこっちを使ってくれないか?」
会議室のような所で白板を背にしながらミアが言った。そして手には猫の肉球が先に付いた指示棒を持っていた。
勿論、『死神』の中でも鉄仮面と言われているアメリアはそんな可愛らしい物は嫌なようでノーマルな指揮棒を取り出してきた。
「全くもう、アメリアちゃんは可愛げがないなぁ」
「質問いいですか?」
「どうぞ、なんならアメリアちゃんの昔話でもするけど」
「いえ、『死神』とはなんなのか知りたかったのですが」
「ああ、そっちのことね」
「『死神』というのは『神政主義』の暗殺部隊だ。神の領域に入り込んだ馬鹿ものを殺すのが仕事だな」
「地動説の時みたいなものですか」
メイソンがどんよりとした顔になる。
メイソンが言っている地動説の時というのは有名なガリレオの話である。天動説が信じられている時代にガリレオが地動説を発表し、宗教裁判などにかけられて大変だったという話なのだがメイソンが想像しているのは同じように教会の意向に反した物が磔にされるシーンだ。
「いや、あの時とは全然違う」
「でも自然界には存在しない物質、とかを作り出したら怒りだしたりしないんですか?」
「そんなことで『神政主義』は目くじら立てないよ。それどころか3大勢力の中で最もクローンや人造人間の技術が進んでいるのは『神政主義』だ」
「クローンとか思いっきり神への冒涜な気がするんですが」
「それがそうでも無いんだよ」
ミアは、『神政主義』では、神々はまず空間を作り出した。そして幾千もの時を経て空間に宇宙が作られた。
宇宙は神がお造りになられた万能の物質、原子により作られており。万物は原子の組み合わせで出来るパズルのようなものである。
そのためプラスチックなどは神から頂いたパズルを組み立てただけである。そして我々人間はほかの動物と違い、牙や爪の代わりに知恵を得た。その知恵を使いこの世界を解明するのは我々人間に与えられた義務である。
ということを説明してくれた。
「まあ、そんなわけだから今までにない新しいものを発見したらそれが今までの常識をぶっ壊すものでも真実なら表彰されるわけなんだよ。だから技術力、科学力だけを見ると3大勢力で1番なんだよね」
「ならどうして今回のターゲットは粛清される羽目になったんですか?」
「既存の原子を使わずに新しいものを作ろうとしたからだね。サイクロトロンって知ってるかな? 原子を加速する装置なんだけど、そのとっても大きなドーナッツみたいなもので原子と原子をぶつけることによって新しい原子を作り出す技術を開発しちゃったんだね」
「勿論、新しい原子を発見したのならまだいいが今回のは2つの異なる原子によって『作られた』原子だから神の領域に入り込んでいるわけだ。上の言い分が『原子を作り出せるのは神だけだ』らしいからな」
「それで話を戻すけども死神は基本的に5人構成でね、暗殺担当の『鎌』と頭脳、人脈担当の『顔』、車などの乗り物系担当の『足』、ハッキングとか精密機器担当の『腕』、それと世界各地を渡り歩いている私たちからの報告を上に報告して、上からの命令を教えてくれるフギンというオッサンが『カラス』。この5人で分担しているんだよ」
一通り説明し終わったところでミアが手をパンっと叩き、切り替える。
「さて、ではミーティングを始めるよ。今回のターゲットはルード・フォールン。核融合のスペシャリストね。どうやら海を行くクルーザーから潜水艦に乗り移ってそのままフォールス海対岸の『資本主義』基地まで行くつもりみたいだからそれまでに捕まえて首を掻っ捌くだけだね」




