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「(年齢とかはどうでもいいが問題はその戦い方ですね。街中などの障害物が多い場所を好み、狙撃やトラップなどの遠距離での暗殺が得意。こんな首都のど真ん中では戦い合いたくない相手ですね)」
2つの資料を机に戻す。
「今回はどういう作戦で行くんですか?」
「アメリアちゃんにその2人を殺してもらうだけ。予測も何も出来ないからね。基本的にアメリアちゃんが追っかけている間にわたしが情報を集めて指示を出すって感じなんだよ」
「潜伏場所は?」
「ここ、この廃屋の中に潜伏しているはずね」
ミアが広げた地図の中に印をつける。
そして考えが浅いメイソンが疑問の声を上げる。
「場所がわかってるんだったら軍でも襲えるんじゃないですか?」
「大勢で行くと逃げられるし、少数だと返り討ちにあうのよ」
「だから少数でも勝てる戦力が選ばれたわけだ」
「使用できる武器はそこにある分ね」
ミアが指さした先にいくつかの武器とバックパックがある。
「各種グレネードにいつもの3つ。それと細々したものが入ってるわ。それを持ったらすぐにお使いに行ってね」
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その廃屋は数年前に潰れた木造の宿だった。
恐らく数年前の不況で潰れたのだろうがまだ住むことは出来そうだ。
三階建てで2、3階が宿泊室で1階に受付や食堂のようなものがある。
「しかし、逃げられたりしないんですかね」
「逃げたりはしないさ。逃げられるよりも怖いのはこちらを逆に追ってこられること。一度姿を見失ったら一定の距離が空いたイタチごっこになるぞ」
「……それは面倒臭いですね」
「そうならないようにするんだよ。行くぞ」
アメリアが銃身が短いタイプの短機関銃を持って宿屋に入る。
屋内では小回りが効くほうが使いやすいのである。そのため今回はライフルはいらない子である。
1つ1つ注意しながら部屋を回る。
「随分と脆いですね」
「廃屋だからな」
そして2階の階段から3つ目の部屋。その扉を開けた途端アメリアが発砲した。
「あら、やるじゃない。成長したわね。ターゲットに話しかけて取り逃してしまうくせ直せたのね」
「久しぶりだな。エース」
だがその銃弾は全てリンダが構えた防弾盾に防がれる。
いくら防弾盾と言っても正面から受けては衝撃を逃がしきれずやられてしまう。
なので少し角度をつけて斜めに逸らす。すると短機関銃の弾がリンダを避けて後ろの壁に着弾する。
「それで反撃もせず隠れもせず。それどころか逃げもしない理由はなんなんだ?」
「そうね。布教、と言ったところかしら」
「布教、ですか?」
「そう、私が何故『神政主義』を裏切って彼の元についたのか不思議に思っているだろうし、その説明もついでにね」
アメリアがライフルに持ち替えつつリンダに吐き捨てるように言う。
「どうせグランに言いくるめられたんだろ。『死神』のエースともあろうものが情けない」
「そうね。言いくるめられた、はあながち間違ってはいなかしら。『死神』、あなた達が掲げている正義は警察では取り締まれないほどの黒を殺すこと。それに対して彼の正義は法の穴を突く悪人を殺すこと」
「俗に言うグレーを取り締まるということか?」
「そうよ」
その答えを聞いてライフルを握るアメリアの手に力がこもる。
「グレーの中には白に近い悪人と少し黒に近い善人の両方がいるはずだ。それに白とグレーの線引きはどうやって決めているんだ!」
「もちろん自分が信じる正義よ」
「人の人生を自分の裁量だけで決めるというのか。傲慢だな」
この辺りの正義の話は『神政主義』の思想をあまり理解していないメイソンには入りにくい。だがそれでもリンダが自分の正義に基づいて正しいと思って行動していることは理解出来る。
リンダの考え方が傲慢なことを含めて、だ。
「確かに傲慢ね。でもあなた達の黒には善人が混じっている。アメリア、あなたは『あの』博士が神の領域に入り込んだ、それだけで殺したのでしょう?
でもその神の領域とやらは人間が決めたものでしょう?」
盾を持っていない方の手を胸に当て祈るように言葉を紡ぐ。
「人間が決めた法で裁くのも、1人の人間が決めた正義で裁くのも」
手を下ろし、写真からは想像もできなかった屈託の無い笑顔をあげる。
「どちらも傲慢だとは思わない?」
「そんな屁理屈を聞いて『死神』を抜けたのか!」
『死神』が自分の居場所だと信じているアメリアにとって、そんな屁理屈のような正義で否定されることは耐え難い事だったのだろう。
口調が少し荒くなる。
「んー、それもちょっと違うわね。私はそんな屁理屈で抜けたわけじゃないわよ。確かに少し共感した部分もあるけど大勢で考え、民衆の採決を取って決めた法と、1人の正義じゃ重みが違うからね」
「ならどうしてグランの元についたんだ?」
「グランに私が恋したからよ」
突然の告白に(元)宿屋の時間が止まる。
が、停止した時間の中でリンダだけが喋り続ける。
「姫の呼び声1つで騎士が世界を敵に回すように、女神フレイヤが消えた夫を世界の隅々まで探したように」
この辺でスっと具体例が出る辺り『神政主義』らしいと言えなくもない。




