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「メイソン・レッドメイン上等兵。本国警備大隊への配属を命じる」
そんな一言と少しの書類だけでメイソンはケープ半島防衛大隊から移動させられた。
左遷かな? とも思ったが配属先が本国の首都ということは少なくとも何かをやらかした上での左遷では無いようだ。
今現在、本国に認定されているのは『資本主義』のアメリカ、『神政主義』のイギリス、そしてこれからメイソンが働くことになる『共産主義』のソビエト社会主義共和国連邦。すなわちソ連である。
そしてメイソンは警備大隊でのゲスト室のようなところ、すなわち上官の前にいた。
もっとも、その上官は少将や中佐どころか軍曹ですらなかった。
上官の名は
「ミア・グリーンバーグ、君の上官で『死神』の『顔』担当だ。よろしく」
「何がどうなってこうなったんですか?」
「うーん、その説明もしてあげるね」
ミアの説明はとても端的なもので、本国での仕事で必要だから移動させてもらった。との事だった。
「そんな簡単に人事って動かせるものなんですかね」
「今回は君がうちのアメリアちゃんに恋をしているから出来たことだね」
メイソンがビクッと震える。
「大丈夫、今あの子はいないから安心していいよ。まぁ、今回から私達は恋のキューピットもやるからね。大船に乗った気持ちでいてくれていいよ」
『死神』が天使を担ってもいいのかわからないのだがとりあえず任せてみようかな。
と、思ったメイソンがあるナイフを見つける。
「あれ? これってアメリアさんが身につけてるナイフですか?」
「違うよ。それは私が作ってもらったものだよ」
よく見てみると鎌を持っているはずの天使はハートが矢じりとして付いた弓矢を持っていた。
「せっかく恋のキューピットをやるんだから鎌なんて危ないものは置かないとね」
「死神から天使にジョブチェンジしたんですか」
メイソンがうんざりしたような顔でミアに聞く。
「いやいや、元々似たようなものだよ。天使の中には死んだ人の魂を天界まで運ぶ約目を持ったものもいるんだ。その行先が冥界になった途端、死神なんて呼ばれるんだから嫌になっちゃうよね」
「随分と楽しそうですね」
「そういう君は楽しそうじゃないね。緊張しているのかい?」
メイソンは先程からコップを空にする作業を何度も何度も繰り返していた。
もちろんそんな内職をしたところで儲かるわけもないし、ただただお茶を入れるミアの手間が増えるだけである。
が、そんな仕草も恋愛初心者のようで微笑ましい。
「軍に所属してからずっとケープ半島にいましたから。移動なんて初めてなんですよ」
「それは緊張するね。でもここはそんなに銃弾飛び交うわけじゃないから安心していいよ」
と、ミアが言った途端に通信機から連絡が入る。
『すまない新人。F地区で銃乱射事件だ。そこにいる『顔』を連れて向かってくれ。おそらくテロリストだろうから短距離狙撃銃を忘れずにな。射殺も許可する。全力で行ってこい!』
とてつもなく気まずい雰囲気になる。
「と、とりあえず行こうか」
「銃弾飛び交ってましたね」
「そうだね」
メイソンとミアが装備を簡単に整えてからジープに乗り込みF地区に向かう。
運転手はサーシャだ。
F地区はモスクワの北あたりで市街地が立ち並ぶ。
モスクワは首都ではあるが40キロも移動すればすぐに森に着く。
ということは森に逃げられるととても面倒だということになる。
「だから逃げられる前に射殺しないとね」
「可愛い声と顔でえげつないこと言わないで貰えますか? ギャップが……」
「むぅ、アメリアと一緒にいる時よりも気楽そうだね」
「一目惚れした相手と共同作業するのは緊張するもんなんですよ」
「その点私は恋愛対象じゃないから気楽に接することが出来るということ?」
メイソンが大きく頷く。
ミアが泣きそうになるが上司としての意地なのか我慢する。
「着いたよ。ボス」
「ありがとう、サーシャ。ほら行くよ新人くん」
「新人ってこれでも5年以上戦場で働いている軍人ですよ?」
「ここじゃ新入りでしょ? だいたい歩き方も知らないようじゃ新人のままだよ」
「?」
何を言っているのかよくわからないのだがとりあえず降りる。
ついでに言っておくとメイソンは沼地や砂浜でも50メートル8秒台で走れる。
が、メイソンは首都がどんなものかあまり分かっていなかったようだ。
「な、なんですか。この人の数は」
「うーん、まぁ、そうなるね。銃乱射でパニックを起こしているんだよ。ほら早いとこ上に登って狙撃しよう」
まるで満員電車のような人混みをスルスルと縫うようにミアが進む。
それに対してメイソンはずっずっとかき分けるように進んでいく。
ミアが人混みを抜けて目標のビルの前に辿り着く。だがメイソンはまだ半分くらいしか進めていない。
「はははは、やっぱり戦場で生きてきた軍人は市街戦が苦手みたいだね」
今のメイソンには市街戦どころか進むことすら難しいのだがミアにとってはそんな細かいことはどうでもいいみたいだ。
そして1分ほどでミアの場所まで辿り着いた。
「ほんっとになんなんですかこの人混みは」
「まぁ、街では銃乱射されたらパニックに陥るのが普通だからね。私たちみたいに冷静に対処できる人間の方が珍しいんだよ」
と、言われても今まで冷静に対処出来る人間達のところで生活していたメイソンにはあまり理解できない。
「それに比べてミアさんは慣れてますね」
「『鎌』のアメリアちゃんに比べたらまだまだだけど、これでも人殺しの経験は多いからね。それに市街地が私たちの戦場だからね」
さすがですね
と、膝に手を付きながら休んでいるメイソンが返す。
がメイソンが元気になる者が帰ってきた。
「お、アメリアちゃんじゃん」
「あ、ミア、とそこにいるのはメイソンか! 久しぶりだな」
アメリアがミアたちに気づき人混みをスルスルと避けながら向かってくる。




