9.支度
「泉に潜る前に。
自己紹介がまだだったじゃない。
僕は玉翠。
翠でいい。
人間界で暮らせる珍しいタイプの妖精さんだ。
春華は知らないだろうけれど妖精はだいたい森で生まれる。
僕は森に居た頃はリリファルシアンに世話になっていて、
森に来た王様 玉紫水様について人間界に来た。
薬師で人間の医術の心得がある。回復魔法も使える。
ラズと未暗は紫水様の部下だったから、茶飲み仲間だね」
「私は好きで紫水様に下った訳ではないのですが。
私はラズ、魔法科学者です。
未暗は同郷の出身で、宮廷に召される際護衛をお願いしたんです」
神父さんじゃなかったのか。
「うちはラズの家の分家なのよ。遠いご先祖様が同じなの。
とは言っても性質は正反対。
ラズの家は代々魔法の才能があって、うちは全くない。その代わり紫水の魔法は効かない特殊体質なのよね」
「未暗は私より七つ年上でしたっけ?
私の家はかなり短命ですが、未暗の家は寿命がとても長いんです。
未暗だって若いでしょう」
「そんなことないんだけどねぇ」
「そう言えばヨウはどこの妖精さんなの?」
「僕はその……
クロウの良心の顕現というか、彼の影なんだ。
一人前の妖精じゃない。
だから泉で力を得て、泉に映る者になりたいんだ」
「クロウさん?」
「クロウのことは、わかるけど、わかりたくない。
考えていることも少しわかるから、きっと奴も僕が見ているものは見える。
奴は絶望してるから綺麗なものを見せてあげたい。
僕が前向きに進んで行けばもしかしたら奴も治るかもしれない。淡い期待だけど」
「そっか。じゃあ一緒に居ようね」
「うん」
「そろそろいいか?」
「紫水様の自己紹介がまだなのでは?」
「何… だと……」
じぃぃ。
みんなの視線が紫水さんに集まった。
「……
俺は千年以上前に生まれた。生まれた時は妖精と人間のハーフで、名前はルースと言った。
クロウを殺してから数百年記憶がなくて、目覚めてから気紛れに人間の王になったら紫水と呼ばれるようになった。
ルースは人間の頃の名前だから紫水と呼んでくれると助かるな。
こいつらとの縁は嫌でも知ることになるだろう。迷宮の奥で待ってるさ」
泉に潜る前に得た装備は私のペンとラズさんの服だけ。
リリファルシアンさんは泉の中に休憩所を作ってくれていて、そこで装備・道具・食料の調達、睡眠なども取れるらしい。
ということで私たちは今泉の中の始まりの休憩所だ。
ヨウは蝶々の姿になってついてきている。
紫水さんはラスボス、と。
「装備品の確認をしようか。
未暗はいつも通りで、ラズのロザリオは魔法科学用から魔法用に変えたよね。春華はペンがある。
使い方はよくわからないけど」
「翠さんはどんな武器で戦うんですか」
「僕は回復要員だからなぁ」
「貴方その体格で、その馬鹿力で回復要員ですって?」
ちらっとリリファルシアンさんがくれたタブレットの画面を確認する。
翠さんのステータスはSTRが15、SIZが18、+1D6のダメボが……
「いやぁ……
まぁここはシュミレーションらしいからいいか。
殴っても剣でも弓でもいいんだけど……
弓は過労死しそうだから拳にするよ。手袋あるかな?」
翠さんはナックルの棚にある一番安い手袋を装備する。そんな装備で大丈夫かな?
「現実世界ではラズはぼろぼろになるだけで死なないけど、こっちではちゃんと体力が0になったら気絶するって。
だから回復薬とか気付薬は分散して持とうね」
翠さんは買い込んだものをみんなに分ける。
「え、ラズストラ欲しいの? やめときなって」
「何故ですか」
「神父の格好してたら女の子口説けないだろう」
「……」
ラズさんはすごく眉を潜めたが買うのはやめたようだ。
「ラズもはじめから短命じゃなければ、諦めなくて済んだことも多かったでしょうに。
好きな女の子でも居るのかしら」
あ、これは駄目な奴ですラズさん。
翠さんのステは一回で出ました。




