8.呼ぶ
リリファルシアンさんと紫水さんがダンジョンの調節をしている間、ヨウさんに声をかけられた。
「泉の中で困ったら、僕の名前を呼んでね、春華」
「名前?」
「僕はまだ弱い妖精だから、泉の中で実体を取れないんだ。
君が呼んだら側に行ける」
「ヨウさんを応援するってこと?」
「そういうこと」
「わかった」
にっこり笑う。
年頃も同じように見えるし、友達みたいだな。
「ラズ、これを持っていきなさい」
髪の短くなった王様が、自分の左薬指にはめていた指輪ともう一つ、少しサイズの小さい指輪を渡す。
「何で二個なんです」
嫌な予感しかしない。
「三回のうち一回は未暗とラズ、君達二人で戦うことになる。
積年の疑問が解けるぞ良かったな」
「嫌な予感しかしないわ」
「俺とさしで勝負した際は貴方が負けたが、二人なら望みはあるだろう」
紫水の未暗に対する口調には少しだけ敬意がある。
彼女の家の者に紫眼の魅了が効かないからかと思っていたが、それだけではないような。
「そうね。拳で語り合いましょう」
どうして私以外はわりと脳筋なんだろう…
「泉に潜るには装備・服装が大切です。
特にラズさん。その足の開かない服は駄目です」
ラズさんが十字架のようなステッキをひとふり
しようとしたらどこからか向日葵の切り花が飛んできて突き刺さる。
「リリファの領域で魔法科学を使っちゃ駄目だよ」
「それなら私ただの役立たずじゃないですか」
「リリファ、服は僕のお古があるよね?
泉の中は魔力に満ちてるから、ラズなら魔法使えるようになるよ。
未暗は使えないから剣技で頑張ってね」
「わかったわ」
ラズさんは翠さんと一緒に木陰にひっこみ、白ランで帰ってきた。
「そう言えばこの剣、私が持ったままでいいんですか?」
血染めの剣。間違えた勇者の剣
「それも思い出深いものだが、捨てたのは俺だしな。
おい少し貸せ」
言われた通り剣を差し出す。
何故か紫水さんには逆らえない。
「あ、それは穢れがひどいので泉に入れないで下さい」
「面倒だな。
仕方ない、俺がするか」
リリファ、水貰うぞと言って泉の水をスライムのように掴む。紫水さんは魔法使いなんだ。
それを勇者の剣に押しつける。
「哀しみは元の主に。希望を新しい主に与えなさい。
次に手に取る者に相応しい形に変われ」
赤い刀身の血が紫水さんに飲まれ、銀色の刀身に戻る。
「あぁ、勇者の剣が!」
「俺がクロウを殺せるものを放っておく訳がないだろう、馬鹿が。
おい、ちょっと持ってみろ」
紫水さんに手渡された剣を握る。近付くと本当に綺麗な人だ。
剣は私の手の中で一度解け、
別の形に変わる。
魔法少女の持つステッキ……
かと思ったけどこれ
「カブラペン!」
勇者、ではなく漫画家必携のアイテムになってしまった!
「はは、何だそれ。
文でも書くのが趣味なのか?」
「桜の国ではこれで黒白の絵を描くんですよ」
「絵か。絵は俺も好きだ。
頑張れよ、ガキ」
何故か紫水さんに頭を撫でられる。
「もう私達、それで戦うしかないみたいですね」
「それがいいよ。十四の女の子に殺魔王は辛いって。
僕と未暗も頑張るから、春華は気楽に行こう」
「不思議だね春華。前よりずっと、クロウが助かる気がしてきたよ」
ヨウ君は駆け寄ってきて手を握ってくれた。




