6.雪が積もる
教会に来てから、ルースはずっと羽根を出している。
「寒いの?」
ルースの生命力を吸わないように意識して避けることは出来ない。
そもそも、制御出来るならこんな害悪をもたらす存在になっていない。
「困ったな。
俺が死んだら一緒に居られない」
あくまで側に居るつもりなのか?
「剣も持たないで来るからだよ。
僕に多少免疫がある君でさえそうなのだから、他の人は」
「俺の身体の中のお前の魔力が薄れて来てるんだろうな。
千年も経てば。
羽根も元の俺のものに近い。こんなに立派では、なかったけど。
加えてお前を練成する時に随分お前の魔力を使ったから」
「君が居たから、僕は冥界に戻れなかったんだ」
「それは仕方ない、諦めろ」
ルースはいつも勝手だ。
側に居る時は全く僕のことを見ないくせに離れようとすれば引き止める。
その理由に検討はついていたけれど、まさかルースが僕の死後… いやこれを考えるのはやめよう。
「俺の力が強ければ、もしくはお前に信じて貰えれば。
今すぐにでもお前を止めることが出来るのに。
前みたいに一緒に暮らすことが出来るのに」
ルースが近付いて来るので僕は飛んで逃げる。
「馬鹿なの、ルース、近付いたら死んでしまうよ!」
「クロウ、俺はもう人間じゃないんだ」
「わかってる。どうしてそんなことしたの。
君が人間になるために、僕は森に帰ったのに!」
「あぁ、そうだったのか」
今更そんな顔をする。懐かしむような、悲しむような。
「どうして居なくなったのかと思っていた。
ずっとお前の顔を見ないで、置いて行ってたのは俺だったのに」
「そんなことはいいんだよルース。人間が魔物を怖がるのは当たり前だ。
ルースはハーフだったけど、やっと違いに気付いたんだと思ったのに」
「人に対する憧れも強かった。あの頃は。
けどもうそれも関係ない。
魔力も人もどうでもいい。
俺はお前と暮らすために戻って来たんだ」
ルースと暮らす、なんて悪夢だ。
千年前、僕がやせ細って倒れても気がつかなかった。
もっとも、気付かれないようにしていたのは僕だったが。
「嫌だ!
君と過ごすなんてごめんだ!
やっと死ねたのにどうして放っておいてくれないの!」
「クロウ?」
あぁ駄目だ。
拒絶すればするほど彼は不安になってこちらに来てしまう。
自分が嫌われているともわからず僕の涙を拭っている。
「触らないで。君が穢れてしまう」
「……」
どうせルースは言うことを聞かない。
僕の姿だってどうせろくに見えてはいない。
「リリファルシアンの泉に行って、ルース」
「リリファの…?」
「僕からついた穢れを払って、泉に潜って昔のこともちゃんと思い出して。
それで少しは正気に戻る筈」
「俺は正気だぞクロウ」
これ以上毒を飲ませるのもどうかと思うけれど、多分不安なままじゃルースは動かない。
僕はルースを抱きよせる。
毒を入れ生命力を吸い取ったのでルースは膝をついた。
「ほらもう限界でしょ?
僕の側に居ると言うならリリファルシアンの泉に行って。
帰ってきたら……」
「わかった。行ってくる」
急に大人しくなったルースは踵を返した。
帰ってきたら、ね……
僕は生きるつもりなんて1ミリもないのだけど。




