4.番犬
ラズさんたちに連れて来られた城壁の裏手。
象さんより大きい毛がふさふさの銀色の猫(本狼は狼だと言い張っている)が喋る。
「お前が変化すりゃいいじゃねぇか」
「僕は耐性がないんだよ。
人型が崩れたら理性まで失う」
「ち、しょうがねぇ。
早く乗れよ。時間ないんだろ」
私と未暗さんとラズさん、翠さんは狼の上に跨がった。
銀色の狼はアリオスと言うらしい。
この世界の人の名前の感じが二系統ある気がするのだけど、移動中は風が強くて喋ることが出来ない。
「リリファは今どうしてるの?」
「あれもルースとクロウと顔見知りだからな。泉で出来ることは進めている」
ルースとクロウとは誰のことだろう?
「お前らに対する泉の加護が泉を離れても持つようにする。
一度泉に潜ってからあの馬鹿二羽を説得しに行け。
リリファは泉から出れないからな」
「アリオスは来ないのか」
「俺はあまりリリファの側を離れたくない。
もう歳だから俺の身体がな……」
森の中にぽっかり空いたリリファの領域。ここだけクロウの魔力吸収は届かない。
泉の前に立ち何もない水面を覗く。
「リリファ、どうして僕は泉に映らないの」
今は金髪の女性の姿をとっている泉の精が答える。
「貴方はただのクロウの魔力の影だからです。
けれど貴方が生きたいと願うことは素晴らしい。
この泉に映るように貴方も泉に潜ると良いでしょう。
私の子供たちが近いうちにこちらに来ます。彼等の修行に混ぜて貰いなさい」
「彼等はクロウを殺そうとしているんじゃないの?」
「それは貴方次第ですよ。
欲しい結末を掴み取りなさい」
自動車ぐらい早く風を切るアリオスさんの背中の上。
段々肌寒くなるのを感じていたら翠さんが布をかけてくれる。
これはラズさんのストラでは?
未暗さんはマントを頭から被ってる。雪が降ってきているんだ。
「大丈夫だよラズは死なないから」
「死にませんが生命力もありませんからゾンビになりますよ」
「んー? それは面倒だなぁ 」
翠さんが自分のお腹のベルトに手をかけると、肩や腰から斜めに下がっていたベルトまで一気に解けた。
あれ一本だったの!?
青と金色の立体的な上着では寒さをしのげないと思ったのか
翠さんは白く裾の長いシャツも脱ぎはじめた。
「そこまでしなくていいですって」
「僕も一応医者のようなものだから」
真ん中縦一列のボタンを外しラズさんにかける。
腕が出ている私が言えたことじゃないけど、タンクトップは寒そう。
翠さんは身震いもせずいつものように少しだけ笑みを浮かべている。人間ではないというのは本当なんだ。
「リリファの所についたら温泉入りたいなぁ…」
やっぱり、エルフも寒いのかな。
リリファルシアンの領域、という所に入ったことがすぐにわかった。
雪が積もっていなく、お正月みたいに静か。
ここに来るまでの不気味な静寂とは違うが、ここもまた生者の領域ではないのだろう。眼前にはいくつかの泉。温泉もあるみたい。
「アリオス、苦労をかけましたね」
水が女性の形に集まって、まばたきの間に人間になった。
泉から金髪の女性が姿を現す。
「あんたには世話になってるからな」
「うちの子たちがご迷惑を…
おや、はじめまして。
私はリリファルシアン。
この泉の管理者であり、別の世界を知る者です」
別の世界?
「私、中学二年生の春華です!
別の世界から来たんですけど、私の世界を知っていますか?」
「春華さん。
ええ、桜の綺麗な国の方ですよね。存じております」
「私、元の世界に帰れますか?」
「え、帰ってしまうのかい?」
「無理に引き止めることは出来ませんが」
「春華ちゃん、男どものいうことは聞かなくていいからね」
「春華さんが望む通りに出来ますが……
そうですね、この泉はセーブポイントにちょうど良い」
「セーブ ポイント?」
何でそんな急にゲームみたいな。
「わたくし、桜の国のRPGなるものが好きでして、ええ脱線いたしました。
この泉から春華さんの国に戻れます。
春華さんが学生生活を送っている間この国の時間は動きませんから、好きな時に戻っていらしてくれて構いません」
「何で私、そんなことになっているんですか?」
「春華さんは管理者の素質がありますが、リリファルシアンではない。
つまり泉に縛られず二つの国を行き来出来る存在ですが、詳しいことは自ずとわかって行くでしょう。
今はわからなかったとしても、漫画のネタになりますし」
そうだ、漫画!
「私、漫画描かなきゃ!」
こうしちゃ居られない。忘れないうちに。
「私、一旦桜の国に戻ります!」
私はリリファルシアンさんが【セーブポイント】という旗をふっている泉に飛び込んだ。




