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虹の国   作者: 中原
12/26

12.包丁

「おめでとう、一等賞の包丁をあげよう」

「まさかラズがサーフィン出来るようになるなんて」

「少し身体能力が上がっているみたいですね。死にぞこないではないようだ」

包丁は二本配られた。

「懐かしいなぁ。僕とモモは晩年まで一緒に住んでいてね。料理は僕の担当だった」

「仲が良かったんですね」

「うん。色々とモモが大きくなるまで待つつもりだったのだけど、僕が先に死んでしまったからね。

それでも一緒に過ごした日々は楽しかったよ。僕らの代で おっとこれはモモから話してもらうことだった」

クランは鼻歌を歌いながら包丁を包装しようとしていたが、すぐ使うのでいいですと断った。

「物凄く切れ味いいから、鞘をつけておくね。

え、お菓子が切れる?

見ただけで逃げていくから必要ないよ」


クランと離れ、旗の立っているケーキの所まで歩く。

ゴールと書いてあるからあそこなんだろう。

「はぁ、気が重いです」

「私はだいたい検討ついて来てるけど」

「え、そうなんですか」

「ええ、紫水と少し話したことがあるから。

別に私は望みなんてないし、誰かが望むならそうするのだけど。

貴方はそんな単純には行かないんでしょうね」

私が頭脳担当の筈なのに未暗の方が頭が良い。

「あぁ、言わなくていいです。

腹を括れる気なんて全くありませんから」


ケーキに付いた扉を開けると、ひどい音と火薬の匂い、紙吹雪が舞った。

「到着おめでとう! なのじゃ!」

春華と翠は大きな画面の前のテーブルで

輪切りの果物の刺さったジュースを飲んでいる。

次はお前の番だからな、翠。

「言われた通り、包丁を持ってきました。

私も未暗も料理は得意ではないんですが……」

「良い、良い。

ただの親睦会じゃからのー」

「今なんと」

「それっぽく言えば絆の力UPじゃ」

「……

ラズとはずっと一緒に居たけれど、意図的に仲良くしたことはなかったわね。

小さい頃は人見知りだったし、大きくなってからは忙しくしてたじゃない」

「私は未暗以外に親しい人も居ませんから、親しい人達がどういうことをするのか想像もつきませんが」

「ワークライフバランスは気にした方がいいと思うんじゃ。

あぁ足りぬ、足りぬ、全然足りぬ。

老婆心が爆発してしまうのう……」

「モモ、それぐらいにしてあげなよ。

彼らには彼らの生き方があるだろう。

僕らの得られなかったエンディングを代わってもらうことは出来ない」

何故か我々の後ろではなくモモの後ろからクランが現れる。

「私たちの最後も悪くなかったと思っているのよ」

振り返りざま突然女性の声になる。

「まぁ、それぐらいで。

モモさん達が私達の心配をしてくれているのはわかったけれど、一番救わなけれいけないのは魔王でしょう。

ラズ、さくっと料理作ってここを突破するわよ」

「はい未暗」

「何じゃ、しっかりしておるの」

「ついてきて。厨房に案内するね」


調理室には様々な食材と調理器具が揃っている。

「これ、翠にやらせた方が食材が無駄にならないのでは」

「好きなものを作っていいよ。というか、相手の好きなものね。

ずっと一緒に居たのならわかるだろう」

「わかったわ」

え、わからない。

未暗の好きなものなんてわからない。

甘味が嫌いなことぐらいしか知らない。

だって彼女と

……一緒に食事を取ったことがない?

「うわぁぁ」

私は寿命が短い恐怖に駆られ、生きていた証を残したかった。

だから自分の持てる時間のすべてを魔法科学に費やした。

紫水に言わせれば、それがますます私の寿命を削っていたらしいが……

もはや自分が何を食べていたのかさえ思い出せない。

……未暗は何を作ってくれるのだろう。


パンをトーストして、ウインナーを焼いて、トマトを切る。

私はサンドウィッチぐらいしか作れないんだ。

隣でひたすらミキサーの音がしていた。


「はい、出来た」

「出来ました……」

「うんうん、いいんじゃないかな?」

「おぬしら、料理が苦手というのは本当じゃったようじゃの」

未暗が作ってくれたのは、すごい色のジュースだ。

「いつもはパック詰めしてるんだけど、ここにはないから」

「え、あれの中身市販品じゃなかったんですか」

「途中から私が作ってたのよ。

ラズは味音痴だから気づかなかったでしょう」

食事の時間も惜しんで研究している時に飲んでいたものだ。

「え……

すみません未暗、給与手当増やします!」

「あらそう。じゃあお願いするわ」

「いい話でまとまりそうじゃったのに雇用関係……」

「ラズもありがとう。

私があんまり味付けのない素朴な料理が好きなの知っていたのね」

それは私が味付けの仕方を知らなかっただけです!

という言葉を飲み込んだ。

「ま、まぁ仲はいいようじゃのー。

色んな関係があるもんじゃな……」

「ねぇ、気が済んだのなら僕に料理を作らせてよ。

春華もお腹すいてると思うんだ」

暇をしていた背の高い妖精がその場をさらって行った。


「……暇だ」

ラスボスとして待っているが一向に第一弾が来ない。

あのモモという女。指輪を返しに来た奴か。

「料理か……」

俺は料理が趣味だったが、クロウは食事の必要ない妖精だった。

彼に食べさせてあげることはなかったし、出来なかった。

「やめよう。思い出すと暗くなる」

クロウの傍に居ず、こんな茶番に付き合ってやっているのは彼らが私の息子たちだからだ。

せめて翠の番までは。

緑葉? 羽根を抜き取られたせいであいつにも多少俺の魔力は混ざっているだろう。だからと言って思い入れはないが。

ラズには目をかけ、手をかけ、幸せを願っているつもりなのにどうしてか本人には嫌われている。

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