1.眠気
授業中は眠い。
毎日学校があって放課後は部活や塾。サラリーマンとどう違うのだろう。
私は塾も部活も行ってないけれど、家の手伝いや勉強は確実にあるわけで。
私はまだ中学二年だけど、高校に行って大学に行って奨学金を返しながら働いて……
(いつになったら好きなことが出来る?)
見通しは暗い。確実にオーバーワーク。
(旅に出たい)
旅行とかそんな雑事じゃなく。魂を遠くに飛ばしたい。
「……スヤァ」
空は暗い闇。
足下には森。その中に教会が見える。いや、墓地かな?
そこから少し離れた所に円形に素の地面向きだしになっている所がある。
草の一本も生えず、そこだけ空気が重い。
夢で良かったな、と本能的に思う。
そんな死の土地にひとつの黒い影があった。
「あんなに辛かったのに どうして蘇ってしまったんだろう」
カラスのような黒い羽根を纏った長い髪の女の子……
いや、男の子?
暗くてよくわからない。
その人影はとても重そうに起き上がった。
「だからもう一度
殺して 僕を ルース……」
彼が願いを口にすると、森のカラスが飛び立って行った。
さっきとは別の場所に飛んだみたい。空も曇っているが昼間だろう。
カラスの鳴き声が遠くで聞こえる。城壁に守られた街。
城の中に緑や水も見える。
街全体からすればさほど大きくないお城が中心にちょこっとある。
そこの高い窓から外を眺めている人が居る。
「魔王が蘇ったみたいだねぇ」
長い金髪の背が高い人。
肌の色は白いけれど、東洋人だとも西洋人だとも思わなかった。
すっとした鼻筋にすっとした目。
仕草は女性的で、着ている服もスカートなのに
鋭いまなざしは女性のものではない。
というか、見たこともない紫色の瞳をしている。
とても綺麗だけれど身を滅ぼしそうな宝石の色。
目が合った気がしたので離れた。
とは言っても私は浮いているのだけど。
高く泳いで俯瞰すると別の男の人が入ってきたことがわかった。
常緑樹みたいな緑の髪をポニーテールに結っている。
かなり背が高いが威圧感はない。地面に立てば怖く見えるかな?
……怖くないや。
金髪の人も和装とも洋装とも言い難い変な格好をしているけど、
緑の髪の人はもっと構造のわからない服を着ていた。
耳が尖ったりはしていないけどどう見てもエルフ。
身体全体が光を弾いているようにキラキラしてる。
絶対に人間じゃない。アイドルだってあんなんじゃない。
そして金髪の人はどこか禍々しいけれど、緑の髪の人は全く邪悪な気がしない。
「王様。
ラズから居住区を中心に結界を張ったとの報告を受けています。
紫水様、貴方が出遅れるなんて珍しいですね」
「出遅れたんじゃなくて、待ってたんだよ、翠」
「え」
「私はこの時を1000年待っていた。魔王を失ったその日から」
「紫水様、私を置いて行かないですよね」
「君ね、駄目だよ。人間のフリをしていても翠は妖精だろう。魔王の魔力の影響を受けやすい。
大人しくリリファルシアンの泉に行って保護して貰いなさい」
「そんな」
「私も魔王に会ったら性格が変わるからね。
優しい君の養父もここまでだ」
「待って下さい、紫水!」
紫水と呼ばれた金髪の人は虚空から剣を取り出し、自身の長い髪を一太刀で切った。
剣を投げ捨て窓から飛び立つ。
白い羽根が見えた気がした。
「どうしてあの人は……」
剣と髪を抱えたまま座りこんでしまった緑の髪の人を見る。
(何だか可哀相だな)
「?」
(目が合った!?)
「私にも見えない妖精なんて、珍しいな」
彼は疲れた笑顔を見せた。
忘れてたけど数学の時間だった。
「夕凪さん、お願いします」
「はい」
え、何処だ。
隣の席のレイちゃんがこっそり問題の場所を教えてくれる。
予習で解いておいて良かった。
先生は頑張ってねと優しく言ってくれる。
志望校が少し、いやだいぶ高望みなのを知っているんだろう。
レイちゃんと同じ学校に行きたかったな。
レイちゃんは私よりはるかに頭がいいのだけれど、私がちょうどいいぐらいのレベルの学校を志望している。
なんでもそこに神絵師様が居るとか。
私も受験が終わったら漫画を描きたいと思ってるんだけど、とっても下手なのに高校生からで間に合うのかな。
また鮮やかな夢。
けれど世界観設定を間違えたのかと思うくらい、SFみたいな青い機械の研究室の中。
あ、あの緑の髪の人が居るからこれはさっきの夢の続きか。
「何ですかこれは」
総白髪なのに顔は若いお兄さんが、緑の髪の人と話している。
目は青いけどやっぱり何処の国の人かわからない顔立ち。でもどう見ても神父という格好をしている。
「紫水様の髪と紫水様の退魔の剣。千年前に魔王を殺した時のだね」
「つまり寝返ったと」
「話が早いな。そういうこと」
「まぁ前々から感づいてはいたんです。だから対策も取っていた」
「え、そうなの」
「けれど人道的に問題が
未暗には言わないで下さいね」
「それは無理じゃないかな」
「……」
白髪の人は目を伏せ、深呼吸した。
「何故私が魔王の魔力データを持っているか追及しないで欲しいんですが、魔王の魔力はこの紫水様の退魔の剣で消失します。伝説の通りですね。
この剣が紫水様にしか使えないのも伝説の通り。
この剣は元々紫水様の血で染めてある剣だからです。
だから紫水様の身体にリンクしています。
この辺ちゃんとデータとってます」
「ふんふん。それで?」
「何故紫水の血染めの剣が
他のエネルギーを吸い取り続け何をしても死なない魔王を殺せたのかはともかく。
つまり紫水の身体とこの剣があれば魔王は殺せるんです」
「うんうん」
「ここに紫水の髪があります」
「うん?」
「これを魔法科学装置に入れてウィンウィンっとな」
「!!」
私は教室で昼寝をしていた筈だった。
そして不思議な夢を見ていた。鮮やかな空想世界を漂っているのだと。
けれど急に重力の感覚がする。
細く長い手足。冷たい床の感覚。視界で揺れる金の髪。
「この身体
私のじゃない!」




