2話:遭遇と邂逅
考えながら書くって難しいですね。
獣の臭い。
その臭いは他の匂いを飲み込み、渦巻くようにして僕の頭に鮮烈な情報を伝えてくる。
濃度、生理的な嫌悪、関連した過去の記憶。
そして酷く強いこの臭いは、これを発するモノの息遣いまで感じさせるようだった。
『ウオオオオオオオオオオオオオ!!!』
「っ!」
再びの獣の声に反射的に飛び起き、冷え切った指で室内灯のリモコンのボタンを連打するが、勿論さっき試したばかりなのに点くはずもない。
けれど条件反射で反応してしまったのだ。
「点け、点けよ……!」
姿の見えない臭いと声だけの恐怖に耐えられなくて。
なんとか狼狽する体を理性で落ち着かせると、ようやくリモコンを手放す。そして考える。
とりあえず今わかる情報を集めた結果、遠吠えの主は群れを作っていて四足歩行。狼に近いものだと考える。
遠吠えは3~4重に違う声で聞こえるし、同じように吠える類人猿は夜中には吠えないってネットで見たことがある。
ちなみに犬ではなく狼にしたのは最悪の事態を見越しておくため。
夢の中だったら狼が出てきたっておかしくはないからだ。
「……ん?」
たった今、重要な本末転倒があった気がした。
あれ、夢の中?
夢の中だったらこんなに必死に怯えながら相手のことを考える必要ないんじゃないか?
「……はぁ、そうだった。夢じゃないか」
さっきまでの緊張や必死な思考が馬鹿らしくなって、またベッドに上半身を預ける。
そうすると異常に早く鼓動する心臓に気が付き、さっきまでの自分がどれだけ焦っていたかが分かる。
とりあえず落ち着くために飴でも舐めるか。
夢の中でも変わらず、枕元に大量に置いてある飴の中から手探りで一つ取り出して口に入れる。レモン味。
もう飴を舐めるという行為は好物や趣味を超えて生命活動に近い分類だ。暇があれば口に放り込むほどに。
「……ん?」
味を感じると同時に、ピリピリとしたものを感じた。
一瞬、炭酸キャンディーかと思ったが、この感覚は体の内側から来ているような気がする。
どこから感じているものなのか、感覚を体の内側に向けようとした時。
「ウオオオオオオオオオオオオオ!!!」
三度響いたその声は、近づいてきていた。
それも、かなり近くに。
もう声だけではない、その主たちが揺らす木々のさざめきまで聞こえるレベルだった。
夢だ、これは夢。
そう頭の中で囁く自分もいたが、その声は獣の声で掻き消されてしまった。
「っ!」
咄嗟に布団を頭まで被って、その中で丸くなる。
鼻の利く狼を想定しておいてこの防御方法はあんまりだとも思ったが、今更一握り残った理性では体は制御できない。
音や匂いで気配を漏らさないように口を閉じて歯を食いしばるが、震える奥歯と飴玉がガタガタとうるさい。
夢だ、夢。何を怖がっている。という自分と、ただひたすらに狼狽えている自分とがない交ぜになって頭がロクに回らない。
ただ段々と近づいてくる濃い気配だけが恐怖を加速させる。
ザザザザザザザ――。
近い。
ザザザザザザザ――!
来るッ!
思わず布団の隙間から森の方を覗き見る――が。
バァン!
「へぁ?」
現れた場所は目の前に広がる森ではなく、背後のドア。
そして飛び込んできたのは獣ではなく。
不思議な髪色をした綺麗な少女だった。
結局ヒロインを最後の最後に本当に書いただけになってしまった……。
次回はなんとかヒロインの描写ぐらいは……!




