表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泡にもなれない  作者: uiuiu
1/2

私は人魚に呪われていた。

ここは海も山もある資源豊かな国。人々は歌い踊り各々好きに食事をし、好きな時に仕事をする、穏やかで自由な国。

この国に人魚にまつわる言い伝えがあると聞き、私は調べに来たがどうやらそれに関わる書物は150年前の大火事で燃えてしまったらしい。噂では人魚が燃やしたと聞くが真相を知っている者はもう居ないと言う。

もうこの国に求める物は何もない。明日には次の国に着いていたい。その前に食事でもしようか、今回は山を登るから恰好も整えるか、と考えていたらレンガが綺麗にはめられた道の上で女が騒いでいる。どうやら無くし物をしたのか、荷物をひっくり返し、何か捜しているようだ。



「やっぱりどこにもない、どこにもないの、私の

銀ヒトデの髪飾りも、銀牛の角の輪飾りだって、ああ!銀貝の文様の腕輪も無いわ!指輪も無い!王女様が私の為にあつらえて下さった人魚姫の尾ひれ飾りをかたどった指輪、あれが一番大事なのに、世界で一つしか無いのよ、世界で一つしか、どれも無いわ。どこにもない、誰か、誰か!来て頂戴!私の大事な物がどこにも!何一つないの!誰か!捜してちょうだい!」

兵隊や、その女の使用人が続々と集まって、商店街を騒がしている。


きっとあれは、貴族の娘だろう。

何か大事な物がなくなったらしい。

きれいに整えている頭をかき乱している。盗難か、そんなことでさえ、この国ではよっぽどの一大事なんだろうか。

争いごとのない、穏やかな国と聞いているから。

私の生まれ故郷では想像もつかないな。助けてやりたいが、私も急いでいる。さっさと次の国に向かおうか。食事だけでも済ましておこう。


そう、食事処を探し、東に歩を進めていると、集まってきた兵隊の中の一人に呼び止められた。


「そこの旅の者!止まれ!」

「なぜだ」

「シアノ家の第3子女のサイリ様の大事なものがなくなった!悪いが来てもらう!」

「訳を言え。私だって急いでいる。それに、騒がしいのは嫌いだ。声のトーンを少し、落としてくれないか。」

「人魚も眠ると言われているこの寒い時期に、この国に来ている旅人は少ない、そして、この穏やかな国で窃盗が起きるとは考えにくい、この国は豊かだ。誰も金に困っていない。だが何も貴方だけを怪しんでいるわけではない。ただ、こちらも怪しまなければいけない、分かってほしい、一緒に来てくれ。」

「焦るのはわかるが一気に話さないでくれ、まあ、この国で旅人が一番怪しいという言い分はわかる。

それにどうせ、何を言っても行かせてはくれないんだろう。

分かった。話だけでもしよう。私は取っていない証拠もある。ついて行こう。見せてやる。

だが、私は騒がしいのは嫌いだ、話をする際、あまり人を集めるな、集めても騒ぐな。これが条件だ、いいか。」

「声を荒げてすまなかった。ああ、助かるよ。」

「頭なんか下げて、ここの国の兵隊は、プライドがないのか。」

「この国でそんなものは必要ない。いや、必要なかったんだ。」

「そんなものかね。兵隊にとって二番目に大事なものだろう。」

「偏見じゃないか」

「今は、どの国でもそれが普通さ。近くに他の国があるのにそんなことも知らないのか?」

「この国の中ですべて収まるからな、国を出る者は少ないのさ」

「そんなものかね、本当に変わった国だな」


そう、兵隊と話していると遠くから多くの若い兵隊がせわしなくこちらに向かってくる。

「大丈夫ですか、サイリ様」

「大丈夫なわけがないわ、だって大事なものが何もないのよ、王女様になんて言ったらいいのかしら。ねえ、私、分からないわ。」

「ねえ、その旅人が怪しいのでしょう、早く捕まえて。兵隊でしょ、しっかりしなさいよ。」


と弱弱しく兵隊に詰め寄るが、兵隊は少し間を置きこういった。

「私はこの国の兵隊で、この国を守るものですが、あなた様だけの為に働いているわけではありません。ですから、まだこの旅人を捕まえたりはしません。連れて行き、話を聞くだけです。」

貴族の娘がまあ!と小さく悲鳴を上げた。かなり動転しているようだ。先ほどの、弱弱しい姿とは打って変わってつかみかかる勢いで、兵隊に詰め寄る。

「誰の為に、何のために多くお金を払っているかわからないわ。誰か!この無礼な兵隊も捕まえて!!牢屋に押し込めなさい!」

「大変な思いをされているとは思いますが、私は、あくまで国の為に働きます。国民の皆様にはたくさんの税金を払っていただいているとはいえ、私が働くのはあなた様の為だけではありません。他にも大事にすべき物があることをご理解ください。」

「わ、私は、大事なものを無くしたのよ!この国で!この国に関する大きな問題とも言えるでしょう!私だけの問題ではないのよ。これから、この国の秩序は乱れる。いいから、兵隊なら怪しい奴全員捕まえなさい!そんな怪しい旅人をかばうって事はあなたもグルなのね!?そうでしょう!ほら!そう、いってごらんなさい。」


貴族の娘が騒いでいる。うるさいな。本当によっぽどの事なんだろう。それとも、よっぽど大事にしていたものなんだろうか。

銀ヒトデ、銀牛、銀貝、人魚の尾ひれ飾り、まるで私が捜している人魚姫の話だ。このあたりが物語にゆかりのある地なのは、間違いなさそうだ。やっぱりもう少し調べた方がいいのかもしれない。

その物語は普通の物語とは少し違う変わった終わり方をする。子供のころ読んで、忘れられなくなってしまった。それが、実際在った話だと言うから驚きだ。


その絵本の人魚は、人間になるのでもなく、幸せに暮らすのでもなく、世界の為に呪われて、死ぬのだ。誰かに助けられることも無く、今も静かに微笑み、世界を見守っているという。会えるのなら、会いたい。会えるだろうか。


「では、旅人来て貰おう」

「わかったよ、だが、食事だけでも済ませさせてくれないか」






人に囲まれて食事をするなんてまっぴらごめんだ。外で兵隊を待たせ近くの宿屋で食事を済ましている間に、その物語を思い出していた。

その絵本の人魚は最初にこう言う、「銀の生き物をこの城にすべて集めてほしい、彼らにはやってもらいたいことがある。」

「それは何ですか」と、家来が聞く。

人魚はこう言う、「それは、銀の国にしかない銀を使った指輪があると聞く、それを手に入れてほしいのじゃ。私のコレクションに加えたい。銀の国には銀色を持つ者しか入れぬ。

だが、私の鱗が銀色だからといって、私が行くわけにもあるまい。この国を放って遠くに行くことなどできぬ。

だから、代わりに彼らに行ってきてもらいたいのだ。」

「頼めるか。」

「はい、そう確かに伝えておきます。

ですが、この国に持ってきてもいいものなのでしょうか。

銀の国にとっては、とても大事なものでは?それとも、店で売っている物でしょうか?」

「大事なものなら無理は言わん。銀の国の秩序を乱すつもりはない。

だた、私も噂に聞いただけでどんなものか、どこで手に入るかわからんのだ。それを調べ、簡単に手に入るような物なら、手に入れてきて欲しい。それだけの事だ。」

「それなら、銀の者をすべて集める必要はないのでは?一人で十分でしょう。」

「いや、私も銀の国の事はよくわからない、銀の者の中にも行った事のある者は稀なのだ。はるか昔のご先祖様の生まれ故郷だと言うのに。そこは、海の一番深いところにあると聞く。何かあった時の為に、大勢で行った方が良いだろう。それに、故郷帰りの手助けにもなるだろう。行きたい者を集めればいい。」

「そうですね、わかりました。では、私も行きましょう。一人でも多い方が良いでしょう。私も帰ってみたいと、思っていましたから。」

「そうか、行ってくれるか。」

「ええ。せっかくですから」

「すまないな、頼んだぞ。」



そうして、銀の生き物を連れた家来は銀の国に着き、指輪のありかを探しだすのだが、銀の国しかない銀の指輪と言う物はなかった。おかしいと思いつつ、似た物も無いから、せめてもと思い家来がそれなりの綺麗な指輪を見つけて人魚姫様に献上するのだが、その指輪がどうにもいわくつきだったようで、呪いを貰ってしまう。だが、人魚は、呪いを解こうとするのではなく、この世のすべてのいわくつきの物を集め、すべての呪いの品を集めてすべての呪いを請け負う事を選んだ。

そして、人魚はそのまま海の底で、静かに微笑みたたずんでいる。


めでたしめでたしってわけにはいかないが、綺麗な物語だとは思う。


ただ、もし一目見られるのなら、死んだ姿でも見てみたいと言うのは、少し変だろうか。だが、生きているのなら、一度話してみたい。これは一種の恋かもしれない。おとぎ話の人魚姫様に、私は惚れているのだ。そう説明しないと探しているのが絵本と知った人間を納得させられないというのも事実で、話すと誰もがすぐに納得するあたり、人と言うのは誰もが、恋や愛と言う言葉に弱いらしい。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ