13.
部屋に入ると、ケータイが震えた。祥吾かもしれない、と見ると、スミカからのメールだった。
『おばさん、元気? 悪いけど、また泊めて? 置きっぱの洗濯物あるし、エアコンあるでしょ?』
芽菜は脱力した。お腹の底からおかしかった。
『いいよ』
とメールする。
『わーい。わるいけど、道覚えてないの。駅はわかるから迎えに来て』
とあり、時間も書いていない。
でもそれでも構わなかった。一人でいるより心強い。社長宅から帰って芽菜は着替えもしていなかったので、そのまますぐに家を出て駅に向かった。
駅の改札では誰も待っている人はいなかった。今、だれかを待っているのは芽菜一人だ。そして、今日は約束している人が来る。
それに、もしかしたら、スミカが一緒に木島屋旅館まで行ってくれるのではないだろうか? 彼女なら、芽菜の変な趣味をちゃんと祥吾にわかるように説明してくれるのではないだろうか?
他力本願だけど…。スミカにはなんだか人を安心させる力がある。
これから解決しなければならないことがあるというのに、芽菜はなんだか楽しくなってきており、スミカと一緒に木島屋旅館に行くことが楽しみになってきていた。
改札口にスミカが現れた。仕事帰りのサラリーマン、ウーマンが多い中、完全に一人目立っている。髪の毛の先をオレンジにしたらしい。今日はツインテールにしている。例によって、リュッを背負い、ボストン二つを一つずつ手に提げている。
芽菜はたまらず、手を振った。
スミカは、「はぁ?」という顔で芽菜を見て、ニコリともせず、
「これ、一個持って。もう、いいなー、ヒマな主婦は…」
と言って、芽菜があげた方のボストンを芽菜に持たせた。
「ねえ、ねえ、お願いがあるのよ」
と帰り道にもう芽菜はたまらずにスミカに話し始めていた。
「はぁ?」と今度スミカは声に出して言って、
「一緒に温泉に行こう!」
と言う芽菜に、
「ちょっとまってよ。おばさん。スミカ、腹減ってるの」
とぶーたれる。それなのに芽菜の方では話を止められずに
「あのね、今日ね…」
と渋谷での顛末を話はじめている。
「ったく、自分勝手ってことば知ってる? おばさ~ん、ゆっくり聞くから、まず腹に何か入れないと」
とスミカは言い。
「それってもちろん、お金出る仕事だよね?」
と確認した。
「もちろん。それにご飯付きよ」
と芽菜はうれしそうにスミカの手を取った。
「や、ば。おばさん、とうとういっちゃったんだねぇ」
とスミカはしみじみと言った。
解決は早いに越したことはない。
次の日、さっそく芽菜はスミカと一緒に出掛けることにした。
芽菜のほうではもう朝の六時には用意が整っていたが、スミカは一向に起きる気配がない。
日曜日だ。特急は混むかもしれない。でも、もしかしたら土曜日よりはましなのか? でも、それにしても早く行ったほうがいいような気がしたので、芽菜はスミカを揺り起こした。
「わかってます、わかってます」
と言いながら、スミカはなかなか起きない。芽菜はスミカの耳元で、
「上野駅でおいしい駅弁買おうね。二つくらい買ってあげるから」
と言ってみた。
「え?」
ともーろーとしながらもスミカは目を開け、
「しゃーあい、起きるか」
と言った。
「うちに荷物おいておいていいから。もしかして泊まるから、一応下着とか持って。自分のボストンに一つに荷物をまとめてね」
ちゃんと説明すると、スミカは
「はーい」
と返事をして、荷物をまとめた。
そして、
「電車乗るっしょ? エネルギー使うから何か食べてこ」
と言うので、とりあえずスミカにカップ麺を食べさせ、二人はやっと外に出た。
芽菜はもともと、電車の券を買うとかどうとかが得意ではない。だから朝から緊張していた。特急の自由席に並び、席に座った時には心底ほっとして、眠気がやってきた。
スミカは、
「スミカ、窓がわ~。景色見えるし…」
と言い、座るとまだ電車が出発する前に一つ目の弁当を開けた。ちらし寿司と、煮物などが詰まっている。
「暑いとさ、すし飯いいよね~」
「ね、あたし眠いから、ちゃんと駅で起こしてね!」
と言うと、もうたまらず、芽菜は目を閉じた。それから目的駅まで芽菜はぐっすり眠ってしまった。
「おばさーん! 次ですよー」
とスミカの声で目を覚ますと、もう目的地。スミカは二つの弁当を平らげたらしく、
「昼飯はなんだろ」
と目をくるくるとさせた。
駅に着き、祥吾のケータイに電話してみた。ドキドキする。
「あ、メナ?」
と答えた声に怒りの雰囲気はなかった。
「あのね、今、長野原草津口」
と言うと、そうびっくりもせず、
「へえ、来たんだ」
と言い、
「じゃ、そこで待ってて、迎えに行くから」
と言い、朝から緊張の連続だった芽菜はなんだか力が抜けてしまった。
スミカは駅の売店をうろついて、袋入りのドーナツを買い、封を切ってもう食べ出していた。
「どうおばさん?」
とドーナツをもぐもぐさせながら、芽菜にドーナツを差し出す。
芽菜は笑いながら、いらないと手を振った。




