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私は今はまっていることがある。
自殺ごっこだ。
方法は自殺の名所で首に紐を付けて飛び込むだけだ。
勿論死ぬ気はない。
ただ苦しいのが物凄く癖になっていた。
今日は樹海だ。夏休みを利用して、わざわざ六時間もかけて来たのだ。楽しまなきゃ損だろう。
ちょうど良さそうな木にしっかり紐をくくりつける。
この後の事を考えるとキュンキュン、ドキドキしてしまう。
私は持ってきた脚立に立ち、首に紐を掛けた。
身体が死にたくないと叫ぶ様に全身が固まり、寒くもないのに震えてしまう。
その感覚に私はつい「はははッ!」と笑ってしまった。
この死ぬか生きるかの境界線。
勿論私は絶対に死にたくない。
しかしこの感覚が癖になってしまう。
私は思いっきり脚立から飛んだ。
首にガクンと衝撃を感じる。
「あがッ!」
息が出来ない。息が出来ない息が出来ない息が出来ない息が出来ない!
アハハはははははははははははははッ♪
苦しい!苦しい!苦しい!苦しい!苦しい!苦しい!苦しい!苦しい!苦しい!苦しい!苦しい!
うふふ、苦しい。アハハ……流石に死にそうだ。
絶対死にたくない!
突然ぶちッという音が鳴り響き、息が出来るようになった。
「はぁはぁはぁ……あはは」
私は出発前に紐に切れ込みを入れていたのだ。
「ふふっ……あはははははははははははははははッ!」
この苦しさ。この恐怖!
ふふッ死ぬかと思った……でも止められないっ!
私はそのまま横になった体制で放心しながら、暗くなるまで笑い続けた。
「ねえ、昨日まで何してたのかな?」
「へ?」
また六時間掛け夜光バスで戻り適当にぶらぶらとしていると、友達の絵梨と偶然出会った。
「へ?って……電話にも出ないし、メールも返してこない。挙げ句の果てには、親すら何処に居るのか分からないと来た。本当何してたの?」
「…………自分探しの旅?」
「何故疑問系!」
「まだ続けてるから?」
「またまた何故疑問系?」
「もう終わってるから?」
「なにその矛盾!」
「……まあまあまあ」
「はぁ……今から遊ばない?」
私がなにも話す気がない事が分かったのか、絵梨は私を遊びに誘った。
まあ何をされても話せるわけ無いけどね。
◇◇◇
「さあさあ、お食べください!」
「………………」
「何さその目は?」
「ぜっったい喋らないよ?」
「な、なんの事かな」
ファーストフード店でなんか大量に買っているなと思ったら全部私に渡してきた。
「じゃあ貰うけど」
いただきますと私は目の前に広がる大量のファーストフードに手をつけ始めた。
「……私も貰っていいかな?サンタマリア」
私は少し睨み付けながら首を横に振った。
と言うかサンタマリアって誰?
「わたくしも頂いても宜しいかしら、姫?」
「私は姫じゃない」
「はいはい、咲希」
「少しだけだからね?」
私は大量にあるファーストフードの中から、芋を揚げた物を絵梨に渡した。
こちとら12時間以上なにも食べてないのだ。ようやくありつけたご飯譲れる気がしない。
「そうえば、またらしいよ」
絵梨は食べ物を口の中に含みながら、噂をするように言う。
「何が?」
「ここから5駅位行ったとこでまた自殺者が出たらしいよ」
「…………」
〝自殺〟
絶対行くしかない!
「どったの?」
「なんでもないよ」
私は心のなかで笑いながらそう答えた。
そこはなんの変鉄もない無人駅だった。
私はあの後太い糸を調達し、例の駅に向かった。
もうほぼ1日帰っていないのだけど大丈夫だろうか。
……私は気にしないことにした。
「ッッ!!」
突然空気が変わった。
「誰かが呼んでる……」
私はふらふらと線路に向かっていく。
気付くと私は線路の上に居た。
物凄いスピードで電車が向かってくるのが分かる。
このままその場所に居たら流石に死んでしまうだろう。
『絶対に死ねない!』
私は横の窪みに向かって思いっきり転がった。
プーーウ!とクラクションを鳴らしながら、電車が通りすぎていく。
「はぁ……はぁ……」
「ねえ、なんで逃げたの?」
「え?」
そこには小さな少女が、窪みにはまるように座り、無垢な表情でこっちを見つめていた。
「仲間になりに来たんでしょ?なんで逃げたの?」
「私は絶対に死ねない」
〝仲間〟と言う言葉は全く分からなかったが、私は気付くとそう答えていた。
「死ぬのは、凄く気持ちいいんだよ?」
貴女も少しは分かるでしょ?と楽しそうに笑いかけてくる。
そうだ。分かる。
確かに癖になってしまうほどには気持ちいいと思う。
──でも私は死にたくない。
『死んだらそこで自分という存在は、消え去ってしまうから』
「ねぇ、私ね、もう死んでるの」
自分の思考を読んだように少女は話してくる。
「最初は凄く、すごーく怖かったけど、1回経験したらぜーんぜん怖くなくなちゃった」
「え?」
「試してみる?」
そう言うと少女は私の額に手を当てた。
少女が中に入っていくのが分かる。
でもそれは全く不快ではなかった。
────少女も私と同じだと分かったから。
『ふふっ。やっぱり同じだ』
『うん。同じ』
『行くよ』
私の身体が自分の意思とは関係無く動く。
線路の上へと付いた瞬間、遠くからガタンゴトンという音が聞こえてきた。
このままだと死んでしまうだろう。──だが何故か恐怖は全くなかった。
電車が物凄いスピードで近づいてくるのが分かる。
「ふふっ」
〝私達〟が思わず笑ってしまった瞬間、物凄い衝撃を感じた。
バキボキバキバキボキバキボキボキボキボキバキバキ────!!!
『アハハはははははははははははははははははは!!やっパりこれダヨ!あはははははははははははははははははははははは!!』
バキバキバキバキ──!
あはははは!苦しい!苦しい!苦しい!
首を吊った時とは大違いの衝撃に私は気が狂いそうになっていた。
──アハハ私はなにも分かっていなかった……
全身がボキボキと音を立てていく。
まるで関節というしらがみから解放されるように。
まるでボキボキと手を鳴らす感覚が全身でなってるかのように。
突然、スーっと何かが抜けていく感覚がした。
しかしそれがとても心地よく感じる。
あはは。私これで死んじゃうのかな?
でもそれでもいいような気がした。
今私の中にいる少女。
実際もう死んでしまっているのだろう。
もし死んでも自我を保っていられるなら、私が死を恐れていた理由が無くなってしまう。
────私は自分という存在が無くなってしまう事に恐怖を抱いていたのだから。
そして私の意識がスーっと抜けていった。
「はッ!」
「ねぇ、どうだった?」
私が目を覚ますと、電車に引かれる前と同じ格好で少女と対峙していた。
「凄く気持ちよかった……」
「ふふっそれは良かった」
少女はにっこりと笑いながら言う。
「ねえ、1つ聞いていい?」
「1つと言わず何個でも!」
「私が死んでもずっと私でいられる?」
「勿論!ずーっとみんなと一緒だよ!」
「……ちょっと待っててね」
「うん!後で一緒に遊ぼ!」
「うん。勿論」
──行ってきます。
私は線路の上へと飛び込んだ。
瞬間衝撃を感じる。
バキボキバギバキボキバキ───
あはははははははははははははははははははは──っ
やっぱりイイ!
骨がボキボキとなる気持ちいい音。
全てを委ねたくなるスーっと抜けていく感覚。
そして──死への恐怖。
全てが混ざり、私のなかで物凄い快感になっていく。
アハハッ!ダメッもう耐えられないッ!
その快感に耐えられず私は意識を手放してしまった。
◇◇◇
私は少女と共に線路の窪みに填まるように座っていた。
「ようこそ。私達の理想郷へ」
「ここにいるみんな一緒だったんだね」
「違うよ」
少女は微笑みながら言う。
「ここにいる人たちだけじゃない。人はみんな同じなんだよ?」
ただみんなそれを気づいていないだけ。
そう聴こえた気がした。
「だからそれを皆に教えてあげないといけないんだね」
「うん!そのとーり!」
私達は、あははと笑いあった。
「さっ、行こっか」
「そうだね」
私達はホームの方へ向かっていく。
これから私達はこう言うだろう。
「「ねぇ、一緒に死のうよ。凄く気持ちいいよ!」」
どうだったでしょうか?
やっぱり肉体的精神的に疲れてくると暗いことしか思い付きませんよね~
新酒呑童子の野望はもう少しお待ちください。連続投稿をします!
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