目覚め ナコ
私の隣に? ずっと見ていたのか。
情けない所を見せてしまったのか。少し恥ずかしいな。
『ここで一つ君に聞いておかなければいけない事がある』
「何でも聞いてくれ、それでナコが助かるのなら」
『もしこの世界で生き返らせるのなら、トウドウ・ナコはこの世界の存在へと生まれ変わらせなければならない。つまり日本へは帰れない事になる』
「な……」
『もし日本へ帰らせるのならトウドウ・ナコは生き返らせられない』
そんな条件……。
『これが私に出来る最大の譲歩だ、君はどうしたい?』
「私は、ナコを日本へと帰したい。だがそれは生きた状態での話だ。……それに……ナコと、また会いたい」
『それで?』
「だから、私の我が儘だがこの世界で生き返らせてくれ」
男は少し黙った後頷いた。
『ナコ君も君と一緒に居たいってさ』
ナコと話したのだろうか。そんなことより何故。
「何故……私はほんの少し一緒にいただけで、しかもナコを守れなかったのに」
『それはナコ君に直接聞いてみるといい』
少し離れていろと言われたのでそうすると、神はナコの体の前で手をかざし、彫像のように動かなくなった。
暫く息を殺して見守っているとナコがぱちりと目を開けた。体を動かそうとしているが上手くいかないようだ。
「ナコ?」
「シャロ……さ……ん」
「ナコ!」
駆け寄って溢れる涙を隠すように強く抱き締め、ナコの名前を呼び続けた。
「くる……し……しんじゃう……」
はっとして離すと後ろから笑い声が聞こえてきた。
『ハハハッ、仲が良いな。だがあまり無理はさせない方がいいぞ、まだ体が慣れていないようだからね』
「す、すまない、つい」
気付かれないように涙を拭っておく。
「ううん、わたしを助けてくれてありがとうございます、シャロンさん、神様」
「私は守れなかったのに……」
「そんなことない! シャロンさんは頑張ってたもん」
頑張ってた、か。だが、結局守れなかったのでは……。
『それよりナコ君をさらった神の事だが、こちらで罰しているので心配は要らない。同じ神として謝罪しておくよ、すまなかったね』
あの女の事だろうか。
『まあ、彼女は生け贄みたいなものだったんだけどね。本来なら他の神が対処するべき事態だったんだよ。だが誰も何もしなかった』
他にも神が居たのか。つまり神の怠惰のツケを私達は払わされたというのか。
『まあだからといってナコ君をさらった事は許せないのだがね』
わざわざ異世界からナコをさらわなくても私だけにやらせれば良かったのに、それが出来ない理由でも有ったんだろうか。
『今回の事は秘密にしておいてもらいたいのだが、いいだろうか』
それは脅しのように聞こえた。もしも出来ないのなら……どうなるのだろうか。確かめる気は起きないが。
「もちろんです」
「ああ、わかった」
『よろしい、それではこの世界での新しい人生を精一杯楽しむといい。おまけもつけておいたからね』
「ありがとうございました、神様!」
ナコの感謝の言葉に手を振って返した神は門の前から去っていき、後には私達二人が残された。
おまけは引っ掛かるが、悪いものではないと信じたい。