目覚め シャロン
私はナコの体をほんの少し残っていた根源の力で保存した後、ナコの横で眠りに着いた。
長い長い時間を寝ていたのかも知れないし、ほんの少しの時間しか経っていないのかも知れない。
封印を解くなど私が知っている人間という非力な存在に出来る筈がない。
馬鹿にしているのではなく、実際そうなのだ。
大魔道士と呼ばれる魔法使いでも、勇者と呼ばれる選ばれし者でさえ、私の力には到底届いていなかった。
しかし封印は叩き割られた。
ガラスが砕かれる様な音で目を覚ました私は、すぐにそれを行った者の気配を探したが、この門の前には誰も居ないようだった。
「誰だ」
声は虚しく石煉瓦の部屋に木霊し、消えていった。
誰も居ない? あの封印を壊せるのなら魔神クラスの筈だ。
しかし何も感じない。
「居るのなら姿を見せろ」
しばらく待ったが、誰も姿を表さない。
勝手に壊れるなどあり得ないのだから誰かが居る筈だ。
それとも、また世界が壊れかけて居るのか?
外に出てみるべきか。
『すまない、もう少し待っていてくれ』
頭の中に響いて来たのは男の声だ。あの女とは別のようだ。
『この世界では人間を依代にしないと顕現出来ないようでね、まったく、面倒な事だ』
この世界では? ナコのような異世界の存在なのだろうか。
もしかしたらナコをどうにかしてくれるかも知れない。
コツコツという靴音と共に異様な気配が近付いてきた。
期待と不安に胸が高鳴る。
『さて、待たせてすまなかったね』
現れたのは冠を戴いた王、の姿をした何かだった。
王を依代に顕現した何かだろう。
「いや、それよりもナコは……」
『ふむ、友を思う気持ちというのは中々に美しいものだ』
「友?」
私は純粋に知らなかった。単語は聞いたことがあるし、ある種の信頼関係のようなものだと理解しているが、詳しい事は知らない。
『おや? 友では無かったのかね? てっきり友情だと思っていたが、もしや愛なのかね?』
「愛?」
愛、というのもまた友というものと同じ程度しか知らなかった。私の知識にはかなり偏りがある。
『おや、それ以上なのかい? とまあ冗談は置いておこうか。う~ん、あぁ、もしかして知らないのか。ならどうしたものか、……少しだけ頭の中を覗かせては貰えないかね?』
「それはごめんだ。覗かれて困る訳では無いが、なんだか不快なのだ」
『そうだろうね、そういうものだ。心ってやつは』
心。あの女は何か思う所が有ったようだが、一方的に心を覗くばかりで、こちらには何も見せてはくれなかった。
いったい何を考えていたのだろうか。
『おっと、時間がない。そろそろ本題に入らせてもらおう』
本題とはいったい何なのだろうか。ナコに関する事なのだろうか。
『良さそうだね、ではトウドウ・ナコの事だが、生き返らせる事に決まったよ』
ナコが生き返る? さらに胸が激しく鳴り始めた。だが、この者は一体。
「あなたは一体何者なのだ?」
『私はナコ・トウドウの住んでいた地で所謂、冥界の神というやつをやっていた内の一人だ。今回は代表としてやって来たんだ、よろしく』
冥界の神が手を差し出して来たので恐る恐る握ると、頷いて軽く振った。どうやらこれは挨拶だったらしい。
『さて、ナコ・トウドウを生き返らせるに当たって必要な魂だが……』
何を言われるのかと思わず身構えてしまう。
『君の隣に居るよ』




