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練金豆腐は鋼の硬さ

 この国の城や街は王国の物とは随分と異なるようだ。王国は街も城の一部のような造りになっていたが、この国は城が街の一部になっているような……。

 どう違うのかというのは、今度調べてみるか。


「部屋はここで良いかな?」


「ああ」


 豪華に飾り立てられた部屋よりも落ち着けそうだ。ナコはまだぐっすりと眠っているな。


「聞きたい事があるのだが」


「うん、何でも聞いてよ」


「この国の様々な物から魔力を感じるのだが、これは何だ?」


 気のせいかも知れないと思うほど薄いが、魔力を感じる。あの施設では気のせいかと思っていたが、街までやってきて、そして城に入って確信した。


「それは錬金術で作った物だからだね」


「錬金術?」


 聞いたことが無い……いや、聞いたことはあるような……。はっきりしないな。


「例えばこの豆腐、ちょっと食べてみてよ」


 四角くて白い……食べ物? 食べてみるか。

 半分に分けられたそれを一つ口に入れてみる。


「ん、これは」


 なめらかな舌触りに優しい風味、とても柔らかくふわりと溶けるような食感。旨い。なんと言うか、独特な味だ。


「美味いな」


「アハハ、よかった。次はこっちを食べてみて」


 差し出されたもう半分からは、微かに魔力を感じる。錬金術を使ったのか?


「大丈夫なんだろうな?」


「もちろん」


 同じように口に入れてみる。


「んぐ、か、かたいな」


 なんだこれは。味は変わらないが、鋼のように固い。


「アハハ……噛み砕けるなんて流石だね」


「それで、錬金術とは一体何なんだ?」


「物に魔力を込めて性質を変化させる、一種の魔法みたいなものかな」


「物に魔力を込めるだと?」


 そんなことができるのか? しかし、今目の前でやって見せられたのだ。信じるしかないだろう。


「父様がこの世界に持ち込んだスキルで、今は道具を使えば誰にでも出来るようになってるんだ」


「シチの父親は別の世界から来たのか?」


「うん、ナコちゃんと同じ世界だよ」


 やはりイヴの言っていた友達とはシチのことだったようだ。


「ほう、ではナコに会わせてやってくれないか?」


 きっとナコは故郷が恋しいだろう。シチの父親に会えば少しは和らぐだろうか。


「父様は元の世界に帰っちゃったんだ」


「シチを置いてか?」


「ボクが自分で残ったんだよ」


「そうなのか」


「まあボクもすぐに追いかけるつもりだったんだけど、トラブルが起きちゃって、アハハ……」


「シチは父親に会いたいのか?」


「もちろん。でも今のイヴはまだ少し心配かな」


「うむ……それは少しわかる気がする」


 何かを任せるのには不安があるな。


「アハハ、まあボクがいなくてもやっていけるとは思うけどね」


「それでは、シチがナコの話し相手になってやってくれないか?」


「うん、でもナコちゃんはシャロンさんと話したいと思ってるんじゃないかな」


「そうか?」


 ううむ、どうなのだろうか。もしそうだとしたら嬉しいが、どうしてシチにそんな事がわかるのか。


「じゃあ今度ボクとイヴとシャロンさんとナコちゃんで女子会でも開こうよ」


「うむ」


 女子会とは何か全く検討もつかないが、まあいいだろう。


「それじゃあ、ボクはイヴのところに行ってくるよ」


「もう一ついいか」


 こちらが本題だ。


「何かな?」


「お前は何者だ」


 異世界から来た男の子供。イヴは人間だと言っていたが、どうだかわからない。


「ボクは……うーん……難しい質問だね。アハハ……」


「人か、神か、それとも化け物か?」


「どうだろうね。ボクは人でいたいと思ってるよ。でも周りはボクを神と崇めて、化け物と恐れる。自分で畏れられるように振る舞わなきゃいけなかったから」


「なら、人でいいだろう」


 細かいことはどうでもいい、私はただ自分のしたいようにするだけだ。


「キミも同じ、だね」


 そうだ。私は恐れられたくなどなかった。今は人でありたいと願っている。ナコといるために。

 だから私は人として振る舞うのだ。上手く出来ているかは微妙だが。


「イヴはいい友達のようだな」


「うん。でも友達って言うよりは、娘とか妹みたいな感じだけどね。アハハ……」


「私はお前達を信じきっているわけではないが、何もしてこなければ、こちらから何かをすることもない」


「うん、信じてるよ。じゃあボクはそろそろ行くよ」


「ああ、私はナコが目を覚ますのを待っている」


 布団の中で穏やかな寝息を立てているナコを見守っていよう。


「何かあったらこの鈴を鳴らしてね」


「わかった」

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