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日ノ下の楽園

 学園の地下施設の輪を通り抜けると、白い部屋に出た。先程までと同じような部屋だ。イヴと少年も後から出て来た。


「ここは?」


 イヴに向かって訊くと、イヴとは反対側、部屋の入り口の方から答えが返ってきた。反射的に身構え、いつでも魔法を撃てるように準備をする。


「ここは日ノ下の端にある、結界の柱の中だよ。アハハ……イヴが迷惑を掛けたりしなかったかな?」


 気配を全く感じなかった。今も目の前にいる筈なのに、気配をほとんど感じない。

 存在そのものが希薄なような、強烈な違和感がある。


「誰だ?」


 見た目はイヴよりは年上の少女というところか。ナコと同じ黒髪黒目で、イヴよりもシンプルな服を着ている。


「ボクはシチ。イヴの友達だよ」


 『ボク』だとか、『アハハ』だとか、なんだかおかしな話し方をする奴だ。

 こいつがイヴの言っていた友達か?


「その女の子はどうしたのかな?」


 シチと乗った少女がナコの顔を覗き込む。


「……眠ってるだけみたいだね」


「ああ」


 原因はわからないが、ナコは突然眠ってしまう事がある。今更だが、体調が良くなかったりするのだろうか。だとしたら、ナコに無理をさせてしまっていただろうか。


「まずはその子をちゃんと寝かせてあげた方が良いかな?」


「ああ、頼む」


 得体の知れない奴だが、日ノ下へと来た以上ここでずっと立っている訳にはいかないだろうし、ナコはちゃんと寝かせてあげたい。


「それじゃあ、お城に招待させてもらうよ」




 外に出ると、そこは森の中だった。振り返ると巨大な塔が天に向かってそびえている。この塔が結界を生み出していて、そして、あの学園の地下に繋がっているのか。

 森の中の整備された道を歩いているが、聴こえるのは鳥のさえずりと虫の声のみ。ずっと騒がしかったイヴはうつむいて、時折シチの方を伺いながらのろのろと歩いている。


「イヴ」


 シチが後ろを向いて歩きながら、イヴに声をかけた。


「っ! ……な、何よ」


 明らかに動揺している。何かあるのか?


「勝手に外に出たら駄目だって言ったよね?」


 優しい口調でシチがイヴに問いかける。

 外とは国の外のことだろう。勝手に出て来ていたのか。


「もう子供じゃないんだから大丈夫よ」


 拗ねたような様子でイヴが返した。

 どう見ても子供だが。


「アハハ……子供じゃないから、わかってくれてると思ってたのになぁ」


「なによ、ちゃんと戻ってきたじゃない」


「急にいなくなっちゃったから、みんな凄く心配してたんだよ」


「それは……」


 確かに急に居なくなられたら心配するだろう。


「大騒ぎで大変だったなあ」


「う、ごめんなさい」


 また大人しくなってしまった。


「イヴは女王様なんだから、もっと自覚を持って欲しいな」


「でも、こんな事もう二度と無いと思ったから……」


「イヴはシチの為に外に出たのだろう?」


 それで叱るのはなんだか可哀想な……。


「だからって、国を放り出したらダメだよ。ボクがいたから良かったけど、そうじゃなかったら今頃大混乱だっただろうね」


「ごめんなさい」


 イヴがここまでしおらしいのはなんだか調子が狂うな。


「まあ、今は別の事で大騒ぎになってるんだけどね」


「何かあったのか?」


 シチはこんなところにいて良いのか?


「イヴがいなくなって不安そうな皆を落ち着かせるために、ボクが出ていったんだけど……」


「な、シチが皆の前にでたの!?」


 一体何が……。


「うん、そしたらお祭りが始まっちゃった。アハハ」


「どうしてそうなるんだ?」


 シチは何者なんだ? 祭……もしかして神なのか?


「詳しい事はお城の中で話そうか」


 気付けばもう少しで森を抜けそうなところまでやって来ていた。道の先からは、何やら楽しげな音や声が聞こえてきている。


「イヴ、ちゃんと心配かけた人達に謝らないとダメだよ」


「わかってるわよ」


「それと、後でちゃんと叱るから覚悟しててね」


「うう……もういいじゃない……」


 やはり自業自得というやつだろう。仕方ないな。

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